手紙に描かれた彼氏の手形に手のひらを合わせて……元女囚が考える、ムショに足りないものとは?

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2017年04月21日 16:04  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

中野瑠美さん

 覚せい剤の使用や密売などで逮捕起訴され、通算12年を塀の中で過ごした後、その経験を基にさまざまな活動を続ける中野瑠美さんが、女子刑務所の実態を語る「知られざる女子刑務所ライフ」シリーズ。

■刑務所は「悪者を閉じ込めて懲らしめるため」にあるのではない

「ムショって、タイヘンなんやねえ。病気になってもなかなか医者に診てもらえへんし、懲役だけじゃなくて刑務官同士もイジメがあるなんて。ホンマ行きたないわー」

 この連載を読んでくれた悪友の感想です。はいはい、その通りです。でもね、それだけでもないんです。まあ思えばバトルっぽいことを続けて書いてしまいましたので、「ムショのささやかな楽しみ編」に挑戦してみます。

 そもそも刑務所とは、何のためにあるのでしょうか?

 実は、「悪者を閉じ込めて懲らしめるため」ではないんですよ。もちろん実際はそうなんですけども、法律では、「改善更生の意欲の喚起」と「社会生活に適応する能力の育成」が処遇の原則とされています(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第30条)。難しいですけど、要するに、ムショとは反省してやり直すことと、そのための能力を育てるのがタテマエなんですね。

 「あんな環境で、反省なんかできるかいな!」というのが私を含めてムショに行った人たちの正直な感想なわけですが、それでも「このままじゃあかんなあ」と冷静に思わせるようにはなっているんですね。

 まず、塀の中に入ると、周囲の「危険物」がぐっと減ります。酒やタバコ、クスリ、クスリの売人やヤクザ、暴力を振るう夫や恋人、などなどですね。そして、その代わりに待っているのが、分刻みの規則正しい生活(とイジメ)なんです。

 裁判が確定するまで過ごす拘置所は刑務所ほどではないですが、やっぱりかなり制限された生活です。最初は慣れるだけでタイヘンですが、そのうちに冷静になってきます。「アタシ、何やってんだろう」的な。寂しくても、つらくても、そこにいるしかないんです。それがわかってくると、またつらいんですね。

 外の世界との連絡は、月に数回の手紙と面会だけです。懲役(受刑者)には「第1類」から「第5類」までの「ランク」があって、問題を起こさなければランクを上げてもらえます。たとえば最高ランクである「第1類」の懲役の面会は「毎月7回以上で施設が定める回数」、手紙を書けるのは「毎月10通以上で施設が定める回数」となってますが、そんな人は見たことないですね。無期懲役の人が1人か2人くらい第1類にいたかもですが、たいていは第5類で多くても月4回、4通程度だと思います。外から手紙をもらうのは、何通でも大丈夫なんですが。

 逮捕されるまでは24時間いつでも電話したりメールしたりしていた生活から、一気に「月に何回かの手書き」ですから、めっちゃ不便で寂しいです。シャバでは字を書くことなんかほとんどないから、まず漢字が思い出せないし、日本語もヘンになったりで、それでも一生懸命に便箋に向かっていました。

 そして、書いた内容は細かくチェックされます。犯罪や脱走の連絡をしていないかとか、トラブルの元になりそうなことは書いていないかとかですね。昔は食事に出たミカンの汁搾って、読まれてはまずいことを書いていた人が本当にいてました。「あぶり出し」にして読むんですよ。今はどうかなあ。

 私の場合は、便箋にイラストをたくさん描きましたね。私が中にいた頃は、まだ子どもたちが小さかったので、好きなキャラクターのぬりえを買って便箋に写して、色鉛筆でキレイに色を塗ったりしていました。「よくこのキャラクターの絵本やビデオ見てたなあ」って子どもたちのことを思い出しながら、土曜日と日曜日はイラスト描くのに没頭していましたね。誕生日や入学式・卒業式にも、何も買ってあげられない、何もしてあげられない……そんな気持ちからでした。同囚も同じことしてましたよ。刑務所に行くまで自分を止められなかったことが一番悪いのはわかってるけど、やっぱり母親なんですよ、私も同囚のみんなもね。

 でも、描くのは一苦労でも、返事をもらえると、本当にうれしかったです。みんな待っていましたし、怖い姐さんがハナをすすりながら、子どもからの手紙を読んでいるなんていうのもしょっちゅうでした。

 一方で、手紙を書いてくれる人がいない同囚は、とても気の毒でした。私もその中の1人でしたが(笑)。もちろん、当時の彼氏からはもらってましたけどね。でも、シャバの人たちだって、今どき手紙なんか書きませんやんか。メールやLINEでOKなんですから。書く内容にも気を使いますしね。彼氏からの手紙は、本当に本当に楽しみでした。

「待ってるから……」

 そのただ一言で、嫌なことも何もかも吹っ飛びましたね。手をつなげないからか、触れないからなのか……彼氏はいつも便箋に手のひらをつけて、ボールペンで形をかたどって描いてきてくれました。その手形に私も自分の手のひらを合わせて、「早く会いたいな……。がんばろう」と、よく思ったものです。紙なのでぬくもりはないけれど、「ここに彼氏が手のひらを置いていた」という事実があるから、時間差で同じ場所に手を当てているだけで勇気が出ましたね。我ながらセンチメンタルでした。のろけちゃってごめんなさい。

 ちなみにムショで使用が許可されている便箋と封筒はめちゃくちゃ地味なので、シャバから送られてくるキャラクターの便箋や、きれいな記念切手も楽しみでした。懲役のお友達がいてはる方は、ぜひ送ってあげてください(笑)。

■一番食べたかったものは……

 手紙以上に楽しみだったのは、お菓子でした。年末年始とか慰問とか、行事の時にしか食べられないんです。何かやらかすと、もらえないこともありますしね。そんな時は、悔しくて涙が出ます。「コアラのマー○」や「アルフォー○」がどんだけおいしいか、シャバにいたらわかりませんよ。夢にまで見ちゃいますからね。私は、フカフカのパンケーキに生クリームてんこ盛りにしたのが食べたかったですね。

 行事の時にもらえるお菓子は、昔は大袋にたくさん入っていたのですが、最近は経費の問題からか、かなりせこくなっていると聞いています。もちろん、もらったところで、ゆっくりは食べられません。30分で完食しなくてはならず、みんなとにかく急いで、すべて口に入れていました。おせんべいやかりんとうなんかは、口の中がマジで切れますよ。

 本当にシャバでは考えられないことばかりでしたね。せめてたまのお菓子くらいは、ちゃんと食べさせてあげてほしいです。「刑務所のコワい話あるある」で、本がいくらでも書けそうです。

 外界との接触や楽しみを極端に制限することで、反省させようということなんでしょうが、ムリな気もしますね。エリートが力で抑えつけて「反省しろ」って言っても、懲役には伝わりません。私が経験者として講演しますよ。「刑務所卒業!」タイトルは、これに決まりやね。ご連絡お待ちしてます。

中野瑠美(なかの・るみ)
1972年大阪・堺市生まれ。特技は料理。趣味はジェットスキーとゴルフ。『ダウンタウンなう』(フジテレビ系)や『新・情報7daysニュースキャスター』(TBS系)などへの出演でも注目を集める。経営するラウンジ「祭(まつり)

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