それもそのはず、宮型霊柩車の製造は年々減少し、現在は約5000〜6000台あると言われている霊柩車全体の1割程度しか存在していません。製造会社も次々と倒産に追い込まれている厳しい現状の中で台頭しているのが、装飾のない「洋型」の霊柩車。なぜ宮型の霊柩車は路上から姿を消したのでしょうか。
■「死」を連想させる車
宮型霊柩車といっても、金箔で装飾された派手なタイプもあれば、龍が大胆に彫刻されたダイナミックなデザイン、また白木を基調としたスッキリとした意匠までさまざま。しかし、そこにどんなに美しく装飾が施されていても遺体が乗せられ運ばれる車であることは、誰の目から見ても明らか。特に火葬場や葬儀式場近郊で暮らす住民にとって、そういった光景を目の当たりにすることに抵抗のある人も少なくありません。
そのような世相を反映し、宮型霊柩車の入場を規制する火葬場が急増しました。また葬儀式場が建設される際、近隣住民との間で「宮型霊柩車は使用しない」という約束を取り交わすケースもあり、宮型は堂々と街中を走ることができる環境ではなくなりました。
■葬儀スタイルの多様化・簡素化
仏教形式の葬儀が90%以上を占めていた20年前と比較すると、近年は宗教色も多様化し、「無宗教葬」「自由葬」といった宗教色のないスタイルが増えたのも、宮型霊柩車が姿を消した理由のひとつでしょう。
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しかし最近聞かれるのは一部を除いてもっぱら「スタンダードタイプで良い」という声ばかり。地域コミュニティが希薄化し、亡くなる人の高齢化もあって、葬儀は身内だけで送る家族葬や、火葬のみで済ます直葬(ちょくそう)が増え、華美を敬遠し、シンプルに送りたいという人が増えたためでしょうか。祭壇や棺の簡素化と同様、霊柩車にも簡素化の影響が出てきます。
■時代とともに変化する葬送の現場
変化の波は霊柩車だけにとどまりません。白木の祭壇から花を中心とした生花祭壇へと変化。その生花祭壇も、「健康」「元気」をイメージするヒマワリや、棘があるから喪のシーンではタブーとされていたバラなどの花材が使用されるようになり、洋風モダンなスタイルが大衆受けするようになってきました。
葬送の現場では、このように目に見える変化もありますが、地域で引き継がれている「習俗」が消えつつあるのも注目すべき点です。たとえば棺の蓋をしめた後に行う「釘打ち」も現在はあまり行われません。故人に対して死装束をつける風習は残っていても、頭部分に三角の布をつけるのは「様相が変わってしまう」と避ける傾向もしばしば見られます。「遺骨を持ち帰りたくない。火葬場で引き取ってもらいたい」という遺族もいる昨今、弔いとは何か、そして有史以来、脈々と全世界で弔いの作業が行われているのはなぜかということを、改めて考えていくことが大切なのではないかと感じています。
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