小さな巨人が今季初ゴールを決めた。一度は違う方向に走り出したが、振り返り、お膳立てをしたキャプテンの姿を見付けると、一目散に走り寄る。そんな小さな巨人を、大谷秀和はやさしく抱き上げた。
クリスティアーノのPKで先制した、わずか2分後の出来事だった。相手DFのクリアが小さく、ルーズになったボールを大津祐樹が拾って、中央へドリブルを開始。その時、ファーに走り出すクリスティアーノとは反対に、ニアに走り込んだのが中川寛斗だ。
大津がドリブルするスペースを開けると、大津は右の伊東純也へ。すると今度は、中央に構えるクリスティアーノと入れ替わるように、中川は伊藤に対してニアへ動き直す。伊藤のクロスをファーの大谷が頭で折り返すと、待ってましたとばかりに大柄なDFの裏から走り込んで、右足で押し込む。まるで台本があったかのような、見事な連係からのゴールだった。
「相手にどんな選手が来ても、平常心でやることが僕の目的であってやること」と言い切る中川は、187センチの2人のセンターバックを擁する横浜F・マリノスDF陣を相手にしても、いい意味で恐いモノ知らずだった。だからこそ慌てることなく、ボールと相手DFの位置を正確に把握し、自分を生かせる場所にポジショニングを変えたのだろう。
「どんな相手が来ても、うまくその選手を釣ったり、剥がしたり、スペースを作ったりすることを意識している」。そう語った中川はどこか誇らし気だった。
「いつも僕が入る時は『できるよ』、『できるから信じてやりなよ』とか、『いつも私だけは応援している』と言ってくれる。一人でも応援してくれる人がいれば自信になるし、それが一番近い存在であれば、僕もモチベーションになるかな」。先月末に結婚を発表したばかりの新妻の存在も、小さな巨人を後押ししてくれたのかもしれない。