吉岡里帆の声に注目! 『名探偵コナン から紅の恋歌』斬新なコラボレーションを読む

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2017年04月24日 13:03  リアルサウンド

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『名探偵コナン から紅の恋歌』(c)2017 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

 『名探偵コナン』の劇場版では、本編の後に次の年の告知が登場する。これは『ドラえもん』や『妖怪ウォッチ』など、ルーチン公開の作品ではすっかり定番の仕様だ。昨年の『純黒の悪夢』の本編を観て、テンションと共にコナン熱が急上昇していた筆者ではあったが、(参考:映画『名探偵コナン』シリーズ、なぜ人気上昇? コアな映画ファンの立場から読み解く)正直なところ2017年公開の新作には期待半分、不安半分であった。


参考:映画『名探偵コナン』シリーズ、なぜ人気上昇? コアな映画ファンの立場から読み解く


 というのも、その『純黒の悪夢』の最後に登場した次回作の告知で、「しのぶれど、っちゅうわけか」と台詞が登場する。上のリンク記事を読んでもらえればわかるが、筆者はこれが服部平次だとわからなかったわけだが、それを抜きにしてもちょうどその時期に公開されていた『ちはやふる』で注目度が増していた百人一首を題材にすることに、何とも言えぬ気持ちになってしまったのである。


 せっかく20年の歴史に甘んじることなく、コナン未経験者でも充分に楽しめるほどオリジナリティの強い娯楽映画にブラッシュアップされていたというのに、こんな流行に迎合するような雰囲気でいいのだろうか、と。(まして「しのぶれど」は『ちはやふる』のクイーン・若宮詩暢の得意札として重要なポジションの歌だから尚更である。)


 ところがそんな不安は、公開が近付くにつれて払拭されていく。タイトルに“から紅”と、『ちはやふる』のタイトルの元にもなっている在原業平の歌からの引用を用いるだけあって、明確にコラボレーションのニュアンスを示す。しかも公式ホームページ上で掲載されている青山剛昌と末次由紀の対談では、青山が「『ちはやふる』の実写版が公開されたので百人一首を題材に使ってみようと思った」と堂々と語る。ここまで潔ければ何も言うことはない。


 そして、いざ作品を観てみれば、『ちはやふる』によって得た百人一首と競技かるたの知識が活かされるのである。競技かるたのルールや競技人の癖をはじめ、歌に込められた歌人の思いなど、よほど興味を持たなければ知らなかった世界が、過剰な説明もなしに難なく頭に入ってくる。これはなかなか予想外の、それでいて斬新なコラボレーションの方法ではないだろうか。


 そして相変わらず、性別も年齢も問わずすべての層に向けた、あらゆる要素を詰め込んだ贅沢な作りは健在だ。前述してきたように“恋の歌”である百人一首を主軸にしただけあって、西の名探偵・服部平次と彼の幼馴染・遠山和葉のふたりに、未来のクイーン・大岡紅葉が絡む三角関係が核として展開。もちろんメインカップルでもある蘭と新一の関係も「瀬を早み」の歌で表現されるという実に粋な演出だ。


 前作では序盤から激しいカーチェイスで魅了したオープニングアクションは今年、テレビ局の爆破とそこからの脱出という、もはやクライマックスのような展開を見せつける。しかも製作幹事局である読売テレビの本社ビルをモチーフに、徹底的に爆破してしまうという大胆さだ(すぐ傍に大川が流れている立地までそっくりなのだが、はたして本社敷地内にあるコナン像は無事だったのだろうか)。


 さらに今回は、コナンシリーズの最大の持ち味でもあるミステリー要素が存分に発揮される。いくつもの人気シリーズを手掛ける推理作家・大倉崇裕に脚本を任せたことが功を奏し、犯行の手口から動機、解決に至るプロセスまで極端な飛躍をさせずに正攻法で描き出していく。思い返せば15年前、『ベイカー街の亡霊』で、シリーズにメリハリを与えるために野沢尚を脚本に迎え入れて以来となる英断だ。テレビシリーズとは異なり、スペクタクルが中心となる劇場版コナンだが、やはり本筋のミステリーが強くなければ物足りない。今後も多くの推理作家がコナンの脚本家として名を連ねていくことになるだろう。


 もちろん恒例のゲスト声優も注目すべき点のひとつではあるが、よくよく考えればこれまでのコナン映画で、ブレイク筆頭株を起用したことがあっただろうか。1月クールに放送された『カルテット』での怪演でブレイクに拍車をかけ、瞬く間にCMに引っ張りだことなっている吉岡里帆。カルタ会に所属する女子高生・枚本未来子を演じる彼女は、それなりに重要なキャラクターでありながらも、過度に主張することもなく自然とアニメに溶け込んでいる。ドラマではあれだけシーンスティーラーとしての存在感を発揮した彼女だけに、この意外なほど脇役に徹する姿というのは、引き出しの多さを感じずにはいられない。


 さて、昨年の『純黒の悪夢』でシリーズ最高の興行収入を叩き出し、華やかな20周年を飾ったわけだが、今年はそれ以上の初動を記録している(初週末で12億8000万円という、破格の新記録だ)。これからGW興行に突入するわけだが、確たるライバルがいなかった昨年と違い、今年は世界歴代1位のオープニングを記録した『ワイルド・スピードICE BREAK』と、全米でメガヒット中の『美女と野獣』が待ち構えている。娯楽映画の頂上決戦が、GWという最も相応しい時期に行われるわけだ。


■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。


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