「大学を辞めるために強盗」した新入生の心理を紐解く

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2017年04月27日 21:00  citrus

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■だからって強盗するものか?

3月末まで寒さが続き、4月に入ってようやく桜が満開になった今春。むしろ桜は入学式まで咲くのを待っててくれたのじゃないか、今年の新入生たちはラッキーだな、なんて思っていたのですが、ハッピーな新入生ばかりではなかったようで。

「親が泣くぞ」「大学やめるため強盗」未遂容疑で新入生逮捕 福岡県

新年度の開始早々、4月6日にこんな事件が起きて、ネットの一角では「入学数日で大学を辞めたくて強盗って、どういう状況?」とざわざわしておりました。

新入生は18歳、未成年のため本名は公表されませんが、普通の文房具のハサミをパン屋の店主に突きつけ、「強盗です」と言ったところを70歳の店主にあっさり取り押さえられたのだとか。この過程からして、精神的にも肉体的にも線の細いタイプなのだろうなぁと思われます。よほど精神的に追い詰められていたのでしょう。

この事件で不思議なのは2点。

1. 受験勉強から解放されたはずの18歳大学新入生が「入学後数日で」大学を辞めたくなる状況とは?
2. よりによって「強盗を働けば大学を辞められる」と考えに至る状況とは?

それぞれ分けて考えてみても、わりと絶望的だと思いませんか? どうしてこんなことになってしまったのか、ちょっと考えてみようと思います。


■「俺の大学生活、こんなはずじゃなかった」

新入生は18歳だったということで、現役入学しているわけなのですよね。すると、進んだ大学が不本意だったのではないか、本当は浪人して再チャレンジしたかったのではないか、と察せられるのです。本命叶わず第2志望だったくらいでは数日で辞めたいほどイヤになるというのも考えにくいので、常人以上に第1志望への執念が強かったのか、あるいは受験で失敗が続いて滑り止め中の滑り止めに入ってしまったか……。

いずれにしても、思いが叶わなかったという点で、彼は他人には想像が及ばぬほどの切ない心境で入学式を迎えたのでしょう。「進みたかったのはここじゃない」、何を見ても失望しか感じないような、悶々とした数日を過ごしたのでしょうね。

あるいは、大学というもの自体に進む気がなかったのかもしれません。大学全入時代と呼ばれる現代、大学に入るのがほぼ当たり前と認識されていたら、特別だったり他とは違う何かが得られなければ、わざわざ大学へ進学することに意味や価値を感じないかもしれません。本当は大学じゃなくて専門学校へ進んで美容師になりたかった、アニメーターやミュージシャンになりたかった、そんなことも十分に考えられます。

または、若干引いてしまうほどの押しの強さややりすぎ感が溢れがちな新入生歓迎ムードに包まれた大学キャンパスで数日を過ごし、その雰囲気に「俺、絶対ムリ」と思ったのかもしれません。ちゃらちゃらとリア充ぶりをアピールする先輩たちの姿に、「こいつら俺とカテゴリが違いすぎる」と、まるで血が緑の異星人かのような印象を持ったのかもしれません。

いずれにしても、その「環境」が嫌だったのですねぇ。そこでその人たちと学び過ごすことに意味や価値なんかひとつも感じられなかったということです。では、普通なら「浪人して他校を受験し直せばいいじゃない」「大学辞めて他の進路にすればいいじゃない」ということになるのですが、それが叶わない状況にあった、ということなのです。


■辞められないのは、そもそもそこへ入ったのが自分の意思じゃないから

18歳新入生は、目にするもの全てが自分を失望のかんなで薄く削って行くような、嫌で嫌で仕方ない環境としか、周囲を見ることができなかった。なのに、辞められない。「それって何が原因なんだろう?」と現役大学生に聞いてみると、彼女たちはこう言います。

「親だよね」「まあ間違いないですよね、親だと思います」

本人の希望を無視して、親が浪人させずにその大学への進学を強制した。または初めから本人はそこを希望していないのに受験させられた。いずれにしても、辞めることさえ自分で決めることができない、自分の人生の主導権を自分で握っていない18歳未成年の彼は、「ホラ、もうこれで絶対辞めるしかないだろ?」となるような決定的な理由が欲しかったのです。

「すごく幼い感じがする。大学1年生の男子でもいろいろいますけど」
「家庭環境なんじゃないかなって。ずっと親の言うなりで育っちゃったんじゃないですか」

10代なんて特に、女子の方が精神年齢が高いもの。現役女子大生たちは「でもそういうこじらせた幼い男子、うちの大学にも他大学にもたくさんいますよ。たまたま事件起こさないだけで」と、クールな物言いをします。


■大学全入時代、少子化社会の大学生は「幼い」

大学進学希望者数に対して、日本全国の大学の延べ定員数の方が多いような、大学全入時代。こんな時代の大学は、かつて「最高学府」と呼ばれ、「最も程度の高い学問を学ぶ学校」と仰ぎ見られた大学とは、意を異にします。

どこでもいいからひとまず大卒が最低条件となっている新卒採用の前の4年間を、学びというよりは大人になる前のモラトリアムに費やす。日本の大学は、入学するまでが難しくて卒業が簡単なシステムが長い間維持されていたため、大多数の日本人にとって大学とはモラトリアム装置でした。

もともと「大学とは経歴であり、学んだ中身ではない」日本社会で、大学に進む理由が大いに形骸化している現代。それに加えて、少子化ゆえに大学生の学力低下が嘆かれてきました。18歳新入生は、図らずも「いまのこの世の中で、大学っていったいなんだろうね」との疑問を私たち社会へと投げかけたようです。
 

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