ゼルダがやりたい。一刻も早く、1秒でも長く。ここ1カ月ほど、常にそう考えて仕事をしている。
しがないライターの私だが、唯一胸を張って自慢できる瞬間がある。「趣味はなんですか?」と聞かれ、「ゲームです(ドヤァ)」と応えたときだ。主に芸能人のニュース、それもスキャンダルを中心に取材・執筆を行うことが私の稼業だが、それまでの人生はゲームとアニメを中心に回っていたといって過言ではない。
ふと我に返ると、この職業に就いて早10年。気付けばアニメを観る時間もなくなり、ゲームの時間もどんどん減っていった。そんな私でも、家庭用ゲームはなんとかハードから買い揃えることを心がけ、明け方に帰宅したとしても、絶対に1日1時間はゲームの時間を作れるよう努力している。
そんな私が『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の存在を知ったのは、同時発売となるNintendo Switchが店頭に並ぶわずか一週間前だった。その時点で様々なサイトを巡回し、お馴染みながら未知なるソフトの存在に心を躍らせていたものだが、いずれも予約は受付終了となっていた。そこでふと蘇ったのは、2006年に発売された初代『Wii』の購入を巡っての出来事である。
当時はフリーター、というかほぼニートだった私は、発売前日の深夜1時頃から地元のビックカメラに並んで本体をゲットしたのだ。その時もゼルダ、『トワイライトプリンセス』を同時に購入した。別に予約しようと思えばできたはずだが、あえてしなかったのは「達成感を味わいたい」という感情からだったのか。しかし現在は多忙なフリーランスライター、しかもそこそこ稼げているというおごりもあってか、「発売日に買えなくても変な業者にプラス2万くらい積めば余裕で買えるだろう」などという、良い子はマネしちゃいけない思惑があった。
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しかし、あの頃の気持ちがなぜかフィードバックした。「お店に並んでゼルダとNintendo Switchを同時購入したい」。私は発売当日、始発で新宿のビックカメラに向かうつもりになっていった。
ところが前日にちょっとしたトラブルが発生してしまい、始発時点で私は東京にいなかった。それでも「ま、今日買えなくてもどこかに緊急入店するだろう」と軽い気持ちで考えていたが、これもまた誤算だった。Twitter上の「明日G■Oに*台入荷するらしい」「地元のヨー○ドーでGETしますたフヒヒwww」といった真偽不明の情報に踊らされつつ、Switchを巡る戦いの日々は一週間続いた。そして結局夢を叶えてくれたのは発売翌週の土曜日、地元のトイ●らスだった。
怪しい中国人の3人組、ヒマそうな男子学生、子供連れのお父さん、他のお客さんに「何時に来ました?」と絡んでは塩対応されている青年など、「あるある!」と叫びたくなる連中と同化し、私はトイ●らスに朝7時から並んでいた。そして9時前、小太りな男性店員は「本日Switchは**台入荷しました。今お並びになっている方は、全員ご購入いただけます!」と叫んだ。並んでいる連中は、みんな小さく「よっしゃ」と叫んだ。無論、私も。
小走り、というかほぼダッシュで帰宅した際、妻が「あ、買えたんだ。つまんない」とこぼしたものの、殺意以上にプレイ意欲が勝っており、夫婦喧嘩さえも起こらなかったものだ。そして私とゼルダ、仕事を巡る戦いの日々が始まった。
私が仕事で扱っているのはニュースであり、意識としては「24時間365日仕事中」だ。ところが現在、目を閉じるとリンクがパラセールで滑空している場面しか浮かばなくなっている。それほどまでに私の意識はゼルダと同化し、キーボードを叩く現在も、両手はProコントローラーの質感を、クラピカの鎖のように夢想している。
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しかもSwitch、携帯できるんだぜ。
別にお前に言われなくても知ってるよ、という話ではあるだろうが、これは私が少年時代に描いていた夢がそのまま実現したものではないだろうか。いや、当時も『スーパーゲームボーイ』という文明の利器は存在したが(わからない人はググってください)、なんか違うんだよアレは。Switchみたいにテレビと携帯両方、そのままできる感じとは全然違ってさ。
なので通勤時間や職場の空き時間、あまつさえは打ち合わせ直前でさえ、私はゼルダをプレイしている。先日はとあるアナウンサーと極秘の情報交換会を行ったのだが、先に店に入った私は「窓際の席にいます」とLINEを送ると、おもむろにSwitchのスイッチをオン。その後、アナウンサーから「ちょっと、LINE見てくださいよ!」と肩を叩かれるまで、iPhoneを1度も見ることなく30分はプレイに興じていた。慌てて確認したLINEには、アナウンサーから「個室が取れたので移動しておいてください」「あと5分で着きます」「おーい」「大丈夫ですか???」などと大量のトークが送信されていたものだった。しかし私はSwitchを見せつけるように専用ハードケースにしまい、謝りもせず個室に移動した。そこでもテーブル脇に、『Nintendo Switch』のロゴが見えるようハードケースを置いてアナウンサーにアピールしたが、彼女は「あ、Switch買ったんですね」とは一度も言わなかった。こいつはクズだ。
もっと言うと、先日は取引先の接待のため、サイゾーの社長と渋谷駅で待ち合わせをしたのだが、私は3分ほど遅刻した。「すみません、出掛けに面倒な事務作業が発生してしまって」などと取り繕ったが、その時は4つ集めた克服の証をハートの器に交換していたのだ。この記事を社長が読んだら果たしてどう思うのか。そんな一抹の不安がありながらも、それ以上にゼルダの面白さを誰かに伝えたい、いうのが私の率直な思いである。
そんなこんなで、ほぼ攻略サイトは見ずにプレイしているものの、もはや登場キャラたちは「はよラスボス倒せや」と言わんばかりになっている。しかし倒したら一旦区切りがついてしまう、そうなればまた、楽しいことのひとつもない仕事漬けの日々が待っている――。
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今日も私はハードケースに入ったSwitchをバッグに入れたまま、とある人が通っていたという新宿のホストクラブの取材に向かうのだった。
(文=時ノ岡リナ)
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