地方都市に大きな希望！ 福井県が本気で鉄道大改革をした結果…

少し前のコラムで札幌市電のループ化について書いたけれど、ここ数年の日本の路面電車がらみのニュースで見れば、もっとスケールの大きな話題がある。

 

場所は北陸の福井市周辺。今年3月、この地域を走る2つの私鉄、えちぜん鉄道と福井鉄道が相互乗り入れを開始するとともに、福井鉄道はJR福井駅西口までの延伸も実現。さらに低床タイプの新型車両も両鉄道に導入されている。

 

福井市周辺には、JR北陸本線がほぼ南北に走っている。福井鉄道はこの北陸本線と並行して福井市、鯖江市、越前市を結び、JR福井駅には「ヒゲ線」と呼ばれる短い支線で乗り入れる。えちぜん鉄道は同じJR福井駅の東口を起点として、東側は永平寺町と勝山市、北側は坂井市とあわら市に伸びている。福井鉄道は路面電車部分と鉄道部分があり（法律上は前者が軌道、後者が鉄道となる）、路面電車タイプの車両が鉄道区間まで直通運転している。広島電鉄の宮島線と似ている。欧州ではトラムトレインと呼ばれるスタイルだ。えちぜん鉄道は法律上も全線が鉄道で、通常の鉄道車両が走る。

 

 

■人口減少と高齢化……それでも福井は安易に鉄道の廃止を選ばなかった

 

えちぜん鉄道（昔は京福電気鉄道）、福井鉄道ともに、かつては廃止が議論された。しかし沿線住民の存続の要望に応え、福井県や沿線の市のサポートにより存続が決まった。さらに福井県は2011年、「クルマに頼り過ぎない社会づくり」を進める宣言も出し、県を挙げて公共交通再整備を推進することにした。

 

この動きに合わせ、両鉄道ともに新駅開業、パーク＆ライド駐車場整備、乗り継ぎ運賃割引などの積極策を実施。2013年には福井鉄道に新型低床車両F1000形「FUKURAM（フクラム）」が導入された。そして今年3月、福井鉄道のJR福井駅前への延伸、えちぜん鉄道への新型低床車両L形「ki-bo」の投入、そして日本の地方鉄道としては異例の相互乗り入れが、一挙に実現した。

 

筆者は7月、地元の専門家の案内で現地を取材した。JR福井駅西口に降り立って驚いたのは、モダンな風景だった。目の前にバスのロータリー、右手にタクシー乗り場、奥には福井鉄道の停留場が組み込まれており、白を基調とした建造物はとても洗練されていた。たまたま停車していたFUKURAMに乗って移動する。商業施設も入る大型ビルが完成したこともあって、駅前通りは活気にあふれていた。まもなく本線に合流し、停留場に2つ止まると、次はえちぜん鉄道と接続する終点の田原町駅だ。以前は単なる地方の乗り換え駅にすぎなかった田原町駅は、線路をつなげたことに合わせて、木の風合いを活かした素敵なターミナルに生まれ変わっていた。そのまま乗り入れ列車の終点であるえちぜん鉄道の鷲塚針原駅まで行って折り返し、今度はJR福井駅周辺を通り過ぎて、メガネ作りで有名な鯖江市へ。沿線で目立つのはパーク＆ライド駐車場だ。福井鉄道では鉄道区間の半分以上、えちぜん鉄道でも半分近くの駅に用意されており、イベントホールやショッピングセンターの駐車場と共用としたところもある。

 

一連の努力の成果は、しっかり数字に表れている。地元の新聞記事によれば、乗り入れが始まった今年4月以降の通勤定期利用者は、えちぜん鉄道、福井鉄道ともに昨年の同時期を10％上回っているという。乗り入れ区間に限れば40％増という、東京の私鉄でも羨む数字が出ている。新生活のスタートに合わせて通勤手段を自動車から鉄道に切り替えたという人もいるだろうが、自家用車の1世帯当たり保有台数が第1位という福井県で、こうした動きが起こっていることは興味深い。

 

日本の地方都市の多くは、人口減少と高齢化に悩まされている。単純に考えれば、公共交通を成り立たせるのは難しいかもしれない。しかし福井は安易に廃止の道は選ばなかった。既存の設備を上手に活用し、基幹となる車両や施設に集中的に投資を行い、それをデザインの力で魅力的に見せた。お金も使ったけれど、それ以上に頭を使った。その結果が、ここまでの増加を実現した。北陸地方の交通改革と言えば富山が有名。でもそれとは違う手法で、成功を収めつつある都市があることを覚えていてほしい。