卵は57日間生食が可能!? 「賞味期限」と「消費期限」の違いを知れば「食品ロス」を減らせるか

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2017年05月10日 19:00  citrus

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今年7月、食品メーカーや流通業者などで構成される業界団体「製・配・販連携協議会」の総会で賞味期限の表示方法について新たな指針が打ち出された。賞味期限がおよそ1年以上ある飲料や菓子、インスタント食品などの加工食品についての賞味期限表示がこれまでの「日」単位から「月」単位に変わるというものだ。

 

その背景にあるのは「食品ロス」だという。これまでは1年間持つ「日」単位のものは、賞味期限を1日でも越えたら廃棄せざるを得なかった。その量は平成25年度の推計で年間632万トン。日本の食糧廃棄量、1900万トンのうちおよそ1/3に当たる。

 

明確に数字で示されると「飽食の国」と言われるのも納得できる気がしてしまう。だが、見方は一義的なものではない。FAOSTAT(国連食糧農業機関)の資料によると、日本人の供給カロリーはアメリカ、フランス、イタリア、ドイツといった欧米の主要国と比べると2割以上低い。アジア圏でも韓国とくらべて約2割、格差が大きいと言われる中国よりも約1割低く、2009〜2011年の平均で見ると全世界で104位の2695kcal。「飽食」というイメージとは裏腹に、そもそもの供給カロリー自体が低い。

 

食料廃棄の量についても「食料廃棄の削減に力を入れている」というイギリスの人口は日本の約半分だが、同国の年間の食品廃棄量は日本とほぼ同レベルの1800万〜2000万トン(英国環境食料地域省調べ)。アメリカは、人口比で日本の2.5倍だが、食料廃棄量は2.85倍の5380万トン(アリゾナ大学のティモシー・ジョーンズ教授調べ)となっている。廃棄を減らすのは確かに大切だが、まず事実を正確に把握するのもまた大切なことなのだ。

 

そのうえで今回の「賞味期限」問題について考えてみよう。そもそも「賞味期限」とは劣化が比較的遅い食料品について「おいしく食べられる期限」を示したもの。卵、牛乳、納豆など一部の生鮮食品と、缶詰やインスタント麺、スナック菓子などの加工食品への表示が食品表示法で義務づけられている。

 

一方、「消費期限」はパックされた魚や肉、惣菜、弁当、サンドイッチ、サラダなど、劣化が早く、とりわけ鮮度が重要な食品が対象となっている。つまり賞味期限は「おいしさ」を担保し、消費期限は「安全」を担保する。そして「消費期限」の対象食品は、ゆとりをもって設定されているケースが多い。安全面で間違いがあってはならないからだ。

 

 

■卵の本当の「消費期限」

 

だが不思議に思える例もある。例えば、卵などは肉や魚、青果と同様、「生鮮食品」として扱われることが多い。つまり「消費期限」の対象となりそうな商品だが、実際には、卵は「おいしさ」が重視される賞味期限の対象となっている。

 

実は卵は、そのイメージとは裏腹に非常に傷みにくい食品で「冬季、もしくは冷蔵庫なら57日間生食が可能」(日本卵業協会)と言われている。イギリスでも、日刊紙「デイリー・メール」が大手スーパー「テスコ」で買った卵を冷蔵庫と常温でそれぞれ2週間保管し、サルモネラ菌や大腸菌などの食中毒菌について比較実験を行ったが「冷蔵庫で保存した卵に特に優位な点はなかった」という。また今年の5月に放送された「ためしてガッテン」内でも、国内における卵研究の第一人者である京都女子大学の八田一教授が「冷蔵庫なら4か月、常温なら2か月」と口にしていた。

 

生卵の卵白にはリゾチームという酵素が多量に含まれている。リゾチームは最近の細胞壁を構成する多糖類を加水分解する性質がある。この作用が細菌を溶かすようにも見えることから「溶菌酵素」とも言われる。つまり卵は、雑菌が増殖しにくい構造になっているのだ。

 

余談になるが、パティシエなどにとっては「卵は古いほうがいい」という説もある。卵の白身は「水様卵白」(割った時に水のように広がる部分)と「濃厚卵白」(割った時に、卵黄のまわりに盛り上がる部分)に大別されるが、泡立てたときの起泡性は水様卵白のほうが高い。産卵したての卵は濃厚卵白のほうが水様卵白よりも多いが、時間が経過すると濃厚卵白は水様卵白に変化する。つまり古い卵の卵白のほうが泡立てやすいということになる。ついでに言うと、ゆで卵だって少し古い卵のほうがむきやすい。

 

確かに食品において安全はもっとも重視されなければならない。だが、過剰に安全性を求めれば、当然廃棄する食品は増えてしまう。「賞味期限」を「日」から「月」にするのも廃棄量削減というテーマのもと、有効な策になるのかもしれない。だが啓蒙を考えるなら、情報をあいまいにするのではなく、明確な情報と正しい知識を伝えるべきではないか。

 

求められるのは、「過剰」なのではなく「適切な」安全性。その湯加減を体得するためにも、「賞味期限」と「消費期限」の違いを知り、正しい知識にもとづいて、安全の範囲を拡張する。なんとなく醸成されている「世の常識」がいつも正しいとは限らないのだ。

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