自動車にまつわる問題はなかなか改善の兆しを見せない。メーカーは積極的に環境対策を行っているものの、北京やパリなどの大都市では今なお大気汚染が問題となっていて、ナンバープレートの末尾の数字によって通行規制を実施したりしている。
事故防止に効果があると言われる自動運転は技術的にはある程度のレベルまで開発が進んだが、肝心のルールがなかなか決まらないので路上を合法的に走ることができない。
そんな中でいくつかのベンチャー企業が空に注目しはじめている。代表格がライドシェアを発明した米国ウーバーで、昨年秋に電動の垂直離着陸機(VTOL)を用いた「空飛ぶタクシー」の構想を発表。今年4月には3年以内に試験飛行を目指すとアナウンスした。同じ4月には、以前から空飛ぶ自動車の研究開発を行っていたスロバキアの会社エアロモービルが市販版を発表。数年内に量産を開始し、2020年までにデリバリーを始めると表明した。価格は1億円以上だという。
筆者も今年初めに米国ラスベガスで開催された家電見本市CESで、中国製の人が乗れるドローンを見た。そのときは「大丈夫なのか?」という気持ちしか湧かなかったけれど、2月にはアラブ首長国連邦ドバイの交通局が7月から無人運転タクシーとして運用を開始すると発表した。
宅配ドライバーの過酷労働が話題になった物流の世界でも、空に注目する企業は多い。有名なのはアマゾンで、3年にわたり研究開発を進めてきたというドローンでの試験配送を、昨年12月に英国で完了したと発表した。
|
|
この状況下で空飛ぶタクシーや宅配ドローンが大挙して空中を舞い始めたらどうなるか。まず現状の管制機能ではまったく対処できない。二次元の道路とは違いこちらは三次元だから、自動車の自動運転レベルの技術でも役不足になるはず。抜本的な対策が前提になるはずだ。
それに現在飛行機やヘリコプターなどが自由に空を舞っているように感じるのは、自動車に比べて圧倒的に数が少ないことも大きい。もし空中が大都市の路上並みに乗り物であふれたら渋滞は必至だ。
その場合、ヘリコプターやドローンならその場でホバリングできるからいいものの、電動のドローンではやがてバッテリー切れになってしまうから、地上に降りて充電することになる。エンジン付きならしばらく空中に留まっていられるだろうが、今度は大気汚染が深刻になる。そして飛行機はそもそも、空中で静止することができないから、こちらも地上で渋滞解消待ちとなる。そんな場所が東京のどこにあるというのだろうか。
さらに乗り物の数が多くなれば、当然ながら事故が頻発するだろう。道路上の交通事故なら平面内で収束するけれど、空の事故は機体が地上に降ってくるという危険性を秘めている。大都市の真上でそれが起こったら大被害になるし、自然豊かな山や海だったら環境破壊につながる。
|
|
同様の交通状況を空中で展開するのが不可能だとは思わない。しかし世界で初めて自動車の量産化に成功したヘンリー・フォードが1940年、空飛ぶ自動車の出現を予言し開発に入ったにもかかわらず、75年後の現在も実現していないという史実もまた、記憶に留めておくべきだろう。