帝国データバンクの信用調査マンが明かす「倒産する会社」の兆候とは?

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2017年05月12日 18:04  新刊JP

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『あの会社はこうして潰れた』(日本経済新聞出版社刊)
■「ヒト」「モノ」「カネ」で倒産の兆候は見えてくる



1年間で「8164件」。
これは2016年に倒産した企業の数だ。

じつは、リーマンショック後の2009年12月に中小企業金融円滑法が施行されてから、企業倒産は2010年以降、7年連続で減少している。

とはいえ、経済やビジネスの世界は、一寸先は闇なのが常だ。どんな企業や会社も、倒産のリスクと無縁ではない。

トップが戦略を一手間違えるだけで、堅調な業績が崩れていくこともある。経営者はそのことを肝に命じておかなければならないし、そこで働く社員も自分の生活を守るために、自分が働いている会社の動向には注意を払っておきたいものだ。

では、どうすれば「倒産の兆候」を見極めることができるのだろうか。
それを教えてくれる一冊が『あの会社はこうして潰れた』(藤森徹著、日本経済新聞出版社刊)だ。

著者の藤森氏は、帝国データバンクで倒産を扱う「情報部」で25年間企業取材を行い、大阪支社、福岡支社を経て、東京支社情報部長を務めた倒産情報のエキスパート。

著者曰く、信用調査マンは倒産の予兆をキャッチするのに「ヒト」「モノ」「カネ」の3つのポイントを見るという。

まずは「ヒト」
わかりやすいところでは、大量採用や大量離職が起きている会社は要注意。また、会社の管理職――特に営業部長、経理部長が辞めるタイミングは、一つの目安になるという。

さらに、経営トップの肩書きが多い場合も危ない。
業界団体の役職や政治団体の肩書きが増えると本業がおろそかになる。経営を部下に任せがちになるので、気づいたら火の車、ということが往々にしてあるようだ。

次に「モノ」
高価な商品を叩き売っているという情報は重要だ。在庫を一掃しようとしているか、高額商品を叩き売らないとキャッシュフローが追いつかないといった背景が見て取れる。

また、急激な製品発注や購買量の増加にも危険信号。経営が立ち行かなくなって、民事再生法などを申請した後に、継続して営業する狙いが隠れている場合があるからだ。

流通大手などからの大口の返品やトラブルの情報も重要なポイントだという。

最後は「カネ」。やはりこのポイントがもっとも倒産の予兆を感じさせるようだ。
月末に支払われるはずのお金が入ってこない、月末になると経理担当者や社長がつかまらない、といった場合はかなり危ういという。

また、信用調査マンが特に注目するのが、メガバンクや地方銀行、信用金庫から受けられる「手形割引」だ。資金繰りの厳しい会社は、この「手形割引」がもらえなくなるので、経営に異変があったと判断できるのだ。

■大ヒット商品を生み出しても倒産する会社



本書では、元々は、日経新聞の電子版で掲載されていた「企業信用調査マンの目」というコラムをまとめたもので、著者が見てきた数々の倒産事例を取り上げ、なぜその会社が倒産してしまったのか、何が転換点になったのかを解説している。

本書を読むと、意外な会社がすでに倒産していることがわかる。

例えば、「ひんやりジェルマット」が大ヒットした寝具、畳製品、衣料品を扱っていた中堅メーカーヒラカワコーポレーションは、2016年に自己破産を申請した。
東日本大震災をきっかけに節電意識が高まったことで「ひんやりジェルマット」の需要が拡大し、大きな収益を上げたが、その後の大幅な設備投資に見合う収益を上げることができず、倒産への道を辿った。

また、シュールな設定でブームを巻き起こした絵本「こびとづかん」を出版した長崎出版も、2014年に自己破産をしている。
大ヒットを生み出して一時は売上高16倍となった同社だが、トップが本業以外の投融資でことごとく失敗をしたことが没落の原因だったようだ。

ヒラカワコーポレーションは、本業を拡大しようとした結果の倒産。かたや長崎出版は本業以外の事業に手を出したことで倒産している。
いずれの道も、上手くいっていれば、さらに会社を成長させる経営判断だっただろう。しかし、見通しの甘さによって裏目に出た事例と言えるのかもしれない。

■老舗や新興事業も油断はできない



長くその業界で地位を築いてきた企業も油断はできない。

「ミセスロイド」や「アイスノン」で知られる家庭用品メーカーの白元も2014年に民事再生法を申請している。
負債総額は、同年で三番目に大きい254億9400万円。創業から四代目を数え、100年近く続いた老舗企業だが、三代目の社長の頃から身の丈から外れた経営が目につくようになり、徐々に経営が厳しくなっていったようだ。

また、ジーンズの国内トップメーカーだったエドウインは、事業再生ADR(裁判外の紛争解決手続)の末、2014年にスポンサーの伊藤忠商事の全額出資子会社として再出発することになっている。エドウインの場合も、本業以外の野放図な金融取引が経営危機を招いたという。

白元は100年近く、エドウインは創業から数えると70年近い老舗だが、帝国データバンクが保有する企業データベースによれば、老舗企業が上手くいくためには、3つのポイントがあるという。

1.事業継承(社長交代)の重要性
2.取引先との友好な関係
3.番頭の存在


事業継承が何度も行われると初代の経営理念が希薄になり、本来あったはずのビジネスマインドが継承されない。本業以外に手を出したり、過剰な設備投資や事業拡大に乗り出したりする三代目、四代目は、そこで道を誤るケースが多いようだ。

取引先との友好な関係については、代替わりが起こると取引先に甘く見られたり、逆に新社長が取引先に厳しく当たるようになり、信頼関係が崩れることがあるという。

さらに、老舗では同族での事業継承が行われるケースが少なくない。するとガバナンスが働きにくくなる側面があるという。
そんな状況において重要な役割を果たすのが、上司部下、主従といった関係とは一線を引いて意見を具申できる「番頭」の存在なのだと著者は述べる。

経営者にしろ、そこで働く社員にしろ、誰しも「倒産」という最悪の結果は避けたいはずだ。
しかし、「倒産へ進むシナリオ」は無数にある。本書ではその無数なシナリオから、倒産を回避するヒントが得られるだろう。

(ライター/大村佑介)

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