「BLAME!」弐瓶勉×瀬下寛之インタビュー "ハードSFとウエスタンの融合"で新たな弐瓶ワールドが展開

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2017年05月20日 10:54  アニメ!アニメ!

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「BLAME!」弐瓶勉×瀬下寛之インタビュー "ハードSFとウエスタンの融合"で新たな弐瓶ワールドが展開
舞台は人類が違法居住者として駆除される遠い未来。無限に増殖し続ける階層都市で霧亥(キリイ)は1人、階層都市の中心部にアクセス可能な存在“ネット端末遺伝子”の持ち主を探して旅をしていた。

『BLAME!』は1993年から2003年にかけて「アフタヌーン」で連載された弐瓶勉のデビュー作だ。説明ゼリフを排し、圧倒的な世界観と高密度の描き込みで読者を魅了したハードSF漫画の金字塔。その作品が20年の歳月を経て映画化される。アニメーション制作はポリゴン・ピクチュアズ。弐瓶勉の世界観を3DCGでハイレベルに再現したTVアニメシリーズ『シドニアの騎士』に引き続きの組み合わせとなる。監督の瀬下寛之をはじめ、メインスタッフも続投する。
劇場版『BLAME!』は見どころの多い作品だ。ハイクオリティな3DCG描写、映像演出をブーストする音響効果、プレスコによるキャストの演技、アクション、そして原作コミックから生まれかわったストーリー。原作者・弐瓶勉も全面的に参加した本作。その見どころのほんの一端を監督の瀬下寛之と弐瓶勉に語っていただいた。素晴らしい映像体験の予習として、ぜひお読みいただきたい。
[細川洋平]

『BLAME!』
http://www.blame.jp
2017年5月20日(土)全国公開(2週間限定)

▽本文
■「シドニアの騎士」からはじまった

――『BLAME!』映画化のきっかけはテレビシリーズの『シドニアの騎士』だったとうかがいました。

瀬下寛之(以下、瀬下)
そうですね。テレビアニメ『シドニアの騎士 第九惑星戦役』第8話の劇中劇として作られました。物語の舞台、播種船・シドニアの中でも放送されているであろうアニメ番組を、主要キャラクターたちが見ているという形でした。

――その時から弐瓶先生が監修をされていたのでしょうか。

瀬下
非常にありがたいことに監修どころかどっぷりと入っていただきました。

弐瓶勉(以下、弐瓶)
その時にしか出ないキャラクターを丸ごと描きましたし、主人公の霧亥(キリイ)もほぼ描き直したうえに3面図も描きました。


――当時から霧亥を櫻井孝宏さんが演じていました。

弐瓶
櫻井さんになった経緯はよく覚えています。『シドニアの騎士』のプレスコ(※)の時に落合というキャラクターを演じていた櫻井さんが「重力子放射線射出装置」というセリフを言ったんです。それを守屋(秀樹/エグゼクティブプロデューサー)さんが聞いていて、「霧亥は櫻井さんがいいんじゃないですか?」と。僕も大賛成しました。

(※プレスコ=プレスコアリングの略。先に音声を録音し、あとでそれに合わせて映像を作ること)

瀬下
キャラクター的にもハードコアでクールな主人公という意味でもイメージ通りだったので、今回も櫻井さんにお願いしました。

――おふたりの関係というのは『シドニアの騎士』がやはり大きかったのでしょうか。

瀬下
そうですね。2012年の夏に初めてお会いして、そこからご理解をいただき一緒に密に作らせていただきました。気づいたらもう5年近い付き合いですね。

――瀬下監督は弐瓶先生と会われる前からものすごい量の設定画を描いていたんですよね。

瀬下
ええ、弐瓶先生とお会いするどころか、僕たちが作品を作るということも決まってない状態から、うちの田中直哉(プロダクションデザイナー)と片塰満則(ディレクター・オブ・フォトグラフィー)のふたりと一緒に昼休みを使ってずっと描き続けました。ポリゴン・ピクチュアズはホワイト企業ですので(笑)1時間単位で工程の管理をしています。ですから仕事以外のことをするには昼休みを使うしかありません。弐瓶先生にお会いしたときに半年くらいかけて描きためたものをお見せしたら「僕がOKを出してもいないのに、何やってるんですか」と(笑)。

弐瓶
やる気がすごく伝わりましたし、熱意に押されました。あの時、「ちょっと会ってみようかな」と思ってよかったです。結局ここまで来ましたから。

瀬下
弐瓶先生の描く世界観は魅力があるし、CGとの親和性もいいのではないかと最初から思っていたんです。


弐瓶
『シドニアの騎士』がポリゴン・ピクチュアズの日本国内で初めてのテレビシリーズですよね。

瀬下
ポリゴン・ピクチュアズは1983年に設立され、2014年4月の『シドニアの騎士』TV放送時には創立31年となっていました。長編セルルックCGアニメーションとしては、スタジオの記念すべき初元請け作品です。

弐瓶
ちょうど3DCGの技術も確立してきてロボットだけではなく、キャラクターも含めて全てを3DCGで描ける時代になった。加えて、瀬下さんがおっしゃったように原作との親和性の高さもいい具合に作用したと思います。

瀬下
我々の武器は3DCGで空間を作り込むということなんです。徹底的に空間づくりにこだわり説得力を与える。弐瓶先生の作品は『シドニアの騎士』もそうですが、その空間に人が住んでいることが感じられる。その場面で実際に描かれているもの以外のことが考えられていると感じられる漫画ってなかなか無いのですが、弐瓶先生はセットや空間全体にこだわっている。弐瓶先生の作品であれば、我々が武器としているところを活かせるだろうと睨んでいたのですが、まさにバチッとハマりました。

弐瓶
それにロボット(※)のデザインも直線で構成されたものだったので、それも相性がよかったのかなと思っています。

(※衛人/モリト=『シドニアの騎士』に出てくる人型兵器の総称)


瀬下
弐瓶先生は実体感のあるデザインを採用されていますよね。「大量生産するものだから複雑な形にならないはずです」とおっしゃっていて、モノが生まれるプロセスを考えてらっしゃると思いました。実際に3DCGでモデルを作っていくときに僕らが大事にしている思想が原作にも入っていると伝わってきてうれしかったです。

弐瓶
メンテナンスしやすいデザインを考えると自然とそうなるんです。トゲトゲしたデザインだと折れた時に(作中に登場する)職人さんが直すのが大変じゃないですか(笑)。そういうことを考えてアンテナなどを少なくしました。(職人さんに対する)愛なんですよ。それが結果的に3DCGを作る人にも繋がったわけです。

瀬下
それにシドニアの中も素晴らしいですよね。人間生活には上水・下水含め配管というのが必要不可欠です。シドニアの町もあらゆる箇所が配管されている。どの風景を作ろうとしてもSF的な生活感が出るので「CGで絶対イケるよ!」とみんなで騒いでいました。

■『BLAME!』の見どころはパイプ?

――配管、パイプは『BLAME!』でも重要なオブジェクトとして登場します。『シドニアの騎士』を経て『BLAME!』も映画化すると聞いた時、弐瓶先生はどう思われましたか?

弐瓶
「これは本当に大変なことになった。……どうするんだろう」と思いました(笑)。たまたま『シドニアの騎士』の漫画連載が終わっていたので最初の会議から参加させてもらって。

瀬下
ちょっとやそっとの参加ではなく、毎週来てくれました(笑)。

弐瓶
2ヶ月くらいでしたよね?

瀬下
いや、2ヶ月どころではなく、企画から設定、脚本会議まで全部入れたら4〜5ヶ月ですよ。

弐瓶
え、そんなにですか! でもそうですね、脚本が終わるまで参加していましたね。

瀬下
僕の中では「こんなに毎週いらっしゃるって、スタジオ所属のクリエイターなの?」ぐらいの感じでした(笑)。

弐瓶
僕は他の原作者の関わり方を知らないので普通だと思っていました。何の疑問も抱いてなかったです。

瀬下
他で聞いたことないレベルです(笑)。本作で弐瓶先生は「総監修」とクレジットされていますが、まさに純度の高い弐瓶作品になっていると思います。

弐瓶
関わったのは脚本の完成までですけどね。会議では毎週お土産のように設定画を描いて持参しました。それが溜まってしまって本を一冊出すことになりました。


――5月22日に刊行される『劇場版「BLAME!」弐瓶勉描きおろし設定資料集』ですね。

瀬下
それを見るとどれだけ前のめりだったか、完璧に分かります(笑)。

弐瓶
映画を見た後に開いてもらえるとすごくおもしろいと思います。

――企画・シナリオ段階から弐瓶先生自らドラマを再構成するというのはいかがでしたか?

弐瓶
『BLAME!』はデビュー作ですし20年前に描いたので技術もまだまだ足りず「こうしておけばよかったな」という思いが多く残った作品でした。今回そういう部分が修正できたのはうれしかったです。一方で、全体のストーリーをそのまま圧縮するのは絶対によくないと思っていました。それは(メインスタッフの)みんなが思っていたはずですが、一番最初に僕から言いました。

瀬下
先生ご自身が「難しい原作なので、簡単にしましょう」と言ってくださった。そのおかげで会議は一気に推進したんです。……ただ、今考えればそこで1回は「そんなことないですよ! 弐瓶先生」と言うべきだったかも知れませんね(笑)。

弐瓶
はははは、本当に誰も反対しなかったんですよ(笑)。みんなが「そうしましょう、そうしましょう!」って。ちょっとでも反対する素振りを見せてほしかったなというのは正直ありました(笑)。

瀬下
キャラクターに関しても「“づる”をかわいくしましょう」と先生はズバッと言ってくれました。とにかく弐瓶先生がとてつもなく前のめりで作ってくださった作品です。映画作家に転向するんじゃないか、と周りに誤解されるくらいでしたからね。


弐瓶
そんな噂が出てましたね。僕は『シドニアの騎士』の連載終了後、1年ほど漫画を描かなかったんです。その半年くらいは劇場版『BLAME!』にかかりっきりだったので、「どうも弐瓶は映像に行ったらしい」と噂が立ってしまい(笑)。

瀬下
僕もそう思いましたし(笑)、そのくらい(ポリゴン・ピクチュアズに)通ってくださって。

弐瓶
いや、本当におもしろかったんですよ。アイデアを出すのがおもしろい仕事ってあるじゃないですか。まさにそういう現場で、設定画を描くのも筆が乗りました。

瀬下
脚本を考えるのも楽しかったですね。

弐瓶
ええ、本当に。

――弐瓶先生はシナリオ完成後、現場を離れられたわけですが、完成した本編映像をご覧になってどうお感じになりましたか? 先ほど話題に上がったパイプの描かれ方などどうご覧になったのでしょう。

弐瓶
いきなりパイプのアップから入って、遠くの人物をパイプ越しに見るシーンがあるんですが、それを見て「大丈夫だ」と思いましたね。パイプが主役。本編もずっとパイプが映っていますし、これはパイプを見る映画ですよ。パイプだけ見ても十分楽しめるくらいいろんな種類が出てきます。本当にすごい執念で描いていますよね。

瀬下
パイプはハードSF的メタファーが強いですからね。無機物でありながら生活感があり、“生”を汲み取ることができるなど魅力に満ちあふれています。弐瓶先生はスタッフに向けて「弐瓶ワールドにおけるパイプとは何か」という授業も開いてくれました。

弐瓶
「竹のように節を等間隔に描いてはいけない」とか「壁には斜めではなく直角に入れる」といったことは伝えました。そういうものを踏まえて、正直やりすぎじゃないかというくらい執拗にパイプが描き込まれています。

瀬下
「とりあえずパイプなめ」という構図を想定して場面設計しました(笑)。

弐瓶
そのくらい振り切った方がいいと思うんです。何となくここにパイプを置いておけばSFっぽいだろうという中途半端な姿勢ではないですから。

瀬下
そうですね。徹底的に振り切ることによって弐瓶作品のエッセンスが映像にも宿ったんじゃないかという気がします。


――また、今作の特徴として“ウエスタン”というキーワードを瀬下監督は用いられていますね。

瀬下
ええ、マカロニ・ウエスタン(※)ですね。いわば無国籍性というか、その要素は狙って入れさせてもらいました。弐瓶先生総監修の元でつくったハードSFの世界観に、マカロニ・ウエスタンの持つ共感しやすいシンプルなストーリーラインが加わることで、新しいけどクラシックという少し不思議な印象の作品になっているはずです。

(※マカロニ・ウエスタン=主にイタリアで製作された西部劇の総称。非情・暴力・ニヒル・哀愁といったテーマが取り入れられた娯楽映画)

弐瓶
漫画を完結させてからも『BLAME!』には難解な世界観におもしろい物語をきっちり乗せるというやり方もあったよなとずっと考えていたんです。それを今回実現することができました。劇場版ではより多くの人に楽しんでもらえる作品にしたかった。そう考え抜いたものが実際の映像になっていると思います。

瀬下
弐瓶先生は本当に豊富なアイデアをお持ちの方ですが、脚本会議ではそれらのアイデアを詰め込んでいくのではなく、先生ご自身で「それはやめましょう」と肉を削いでいった。映像表現やストーリー構成、設定に至るまであらゆる要素を105分の映像作品に仕上げるために厳選しています。弐瓶先生の作品に対する取捨選択のバランス感覚も濃密に味わっていただけると思います。

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  • シドニアの騎士はクソつまらなかった。 これも駄目だろうな。 アニメ・シドニアを面白いって言ってる人はどいつもこいつも おかしい。
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