劇場アニメ『BLAME!』は、監督の“実写的な感性”とアニメの魅力が融合された作品!?/瀬下寛之監督インタビュー

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2017年05月20日 14:02  おたぽる

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おたぽる

ネット端末遺伝子を探し求める探索者・霧亥(キリイ)

 3DCGアニメーション映画『BLAME!(ブラム)』(5月20日全国公開)を試写会で見て、狂喜した。これは間違いなく今年のアニメ・シーンを代表する1本であり、昨年絶好調だった国産アニメ映画の波をさらに増幅させるに足るダイナミックな快作である。



『シドニアの騎士』で知られる弐瓶勉がデビュー間もない1997年より連載を開始し、20年を経た今も熱烈に支持されているSF漫画を原作とするこの作品、ネットワークの暴走によって都市から駆除される存在と化し、人類が絶滅寸前にまで追いやられてしまった未来世界を舞台に“世界を正常化させる鍵”ネット端末遺伝子を探し求める探索者・霧亥(キリイ)の戦いが描かれる。



 本作は、原作者自身が総監修を務め完全新作ストーリーを構築。制作は『シドニアの騎士』(14年)、『亜人』(16年)などで3DCGセルルック技術を大いに飛躍させたポリゴン・ピクチュアズ。そして監督は、『河童』(94年/CG)『大日本人』(07年/VFX監督)などの実写作品を経て、『シドニアの騎士』で副監督、『シドニアの騎士 第九惑星戦役』(15年)で監督、『亜人』(16年)で総監督を務めた瀬下寛之。



 今回は、現在『GODZILLA 怪獣惑星』(静野孔文と共同)の今秋上映をめざして邁進&多忙中の瀬下監督に『BLAME!』についてお話をうかがってみた。



■映画化のキッカケは“悪ノリ”だった



―― 映画『BLAME!』堪能させていただきました。間違いなく今年を代表する1本足り得た傑作だと確信しています。3DCGセルルック技術の飛躍的なまでの進歩とでもいいますか、いろいろな映像表現方法のひとつとして確立されたなといった感慨もあります。実のところ、3DCGがどうのセルルックがどうのといったことなど忘れて、今回は“映画”そのものとして没入して見ていました。



瀬下寛之(以下、瀬下) そう言っていただけるのが我々の目標なので、うれしいですね。まだまだ手探りではあるのですが、スタッフ一同がこだわりにこだわって頑張ってくれました。



―― もともとの企画の発端は、やはり『シドニアの騎士 第九惑星戦役』の第8話《再会》の中で、ショートアニメ『BLAME! 端末遺構都市』を劇中映画として制作したことでしょうか?



瀬下 ちょうど『第九惑星戦役』の脚本開発をやっているときでした。原作版では『バイオメガ』という作品が劇中劇で登場するのですが、『BLAME!』に替えちゃえば? とエグゼクティブ・プロデューサーの守屋からアイデアが出まして。同じ弐瓶先生の原作だし、僕も『BLAME!』のファンでしたので、早速、脚本とコンテを作って、弐瓶先生にお見せしてOKをいただき、およそ1分半のショートアニメを作ることになったんです。



 ですから、もともとは悪ノリというか(笑)。喜ぶファンも少なからずいるでしょうし、Blu-rayなどの特典に入れれば付加価値も出るだろうと。結果的には、ファンの皆さんの評判と応援も盛り上がり、内外の関係者がそれを見て「これは映画にすべきじゃないか?」と。



―― 実際『BLAME!』は幾度か映画化が企画され、短編も作られていますので、皆が機会をうかがっていたところはあったのでしょうね。



瀬下 弐瓶先生も『BLAME!』の映画化は難しいのではないかと以前おっしゃってましたが、いざ映像化してみたら想像以上に良い出来だったので、その後はそのショートアニメをパイロット版として、自然な流れで今回の映画化に至ったわけです。



―― 弐瓶先生も『シドニアの騎士』のクオリティを見て、信頼された部分も大きかったのでしょうね。ただ、今回は原作通りというよりも、新たなエピソードといったストーリー展開です。



瀬下 ちょうど弐瓶先生が『シドニアの騎士』の連載を終えられた後だったこともあって、毎回ミーティングに参加してもらえたり、とても深く企画に入ってくださいました。しかも、「原作は難しい作品なので、映画のほうは解りやすくしましょうよ」とご提案をいただき、一気に加速したんです。



 もともと僕らが『シドニアの騎士』で目指したのは、弐瓶先生のディープでハードなSF世界をアニメーションならではのポップな表現で解釈し、多くの人に見てもらえるようにすることでした。今回も『BLAME!』の入門編にしようということで、原作の魅力でもある荘厳・壮大なSF世界観に、普遍的テーマのシンプルなストーリーを盛り込むというコンセプトになっていきました。



―― その世界観が今回、見事に描き出されていますね。



瀬下 そうですね。弐瓶先生が総監修という形で深く関わってくださったおかげで、原作のエッセンスなどはきちんと表現できていると思います。先生と共に作り、練り込んだストーリーや狙いなどを村井さだゆきさんにお伝えし、映画脚本として構成していただきました。



―― 瀬下監督の狙いというのは、具体的にはどのようなところだったのでしょうか? 原作の主人公・霧亥が、今回はあからさまな主役という感じで登場しないのも意表をついています。



瀬下 そうですね。基本的な主役は人間です。飢餓であと1カ月しか持ちこたえられない集落を救おうとする少女づると、“世界を人間に取り戻す”ネット端末遺伝子を探し求めて永劫の旅を続ける霧亥とが邂逅する話であり、いわば霧亥はこの物語の世界そのものを象徴するキャラクターです。



―― 原作ファンは最初霧亥がなかなか登場しないので驚くかと思いますが、映画ファンとしては時代劇や西部劇のアウトロー・ヒーローのような登場の仕方が実に映画的でワクワクしました。



瀬下 実はハードSFでありながらも、西部劇……というより、マカロニ・ウエスタンみたいにしたかったんですね(笑)。尊敬するセルジオ・レオーネ監督の映画に登場するようなさすらいの男が、餓えて絶滅寸前の集落にふらりと立ち寄ったことからドラマが生じる。ですから音楽もそれとなくエンニオ・モリコーネを意識した曲調にしていただき、テーマメロディと共に霧亥が現れる。一方ではハードSF版『男はつらいよ』でもありたいと思ってます(笑)。



―― ですので、映画ファンからすると、実に映画的オマージュの韻を踏んだ映画になっていることに気づかされますが、それによって『BLAME!』という作品もまた新たに生まれ変わったという感慨もありますね。



瀬下 弐瓶先生ならではの圧倒的個性の世界観があればこそ、王道ともクラシックともいえる映画的スタイルをミックスして面白いし、結果的に新しい味わいになったのかなと思います。



■“当たり前の日常”をCGで描きたい



―― もともと瀬下監督は『大日本人』や『しんぼる』(09年)のVFX監督を担当されるなど、どちらかといえば実写畑のCGを担当されることが多かったような気もします。



瀬下 そうですね。僕自身、日本のアニメに深く関わるようになったのは、この5、6年のことで、それまではCMやゲーム、実写のビジュアル・エフェクトがほとんどでした。



―― そういった経歴もあってか、今回の作品では実写感覚が非常にプラスに作用しているように思われます。



瀬下 それしかできないんですね(笑)。ただ、自分の出自そのものが個性であるとも思いますので、実写のセオリーと、日本のアニメで求められている表現との融合を目指していければとも思いますね。



―― 実際、今の特撮やCGのクリエイターの多くは、実写・アニメといった垣根なく意欲的に活動されています。



瀬下 ビジュアル・エフェクト出身の僕自身、今こうやって伝統ある日本のアニメの端っこの方で関わらせてもらえているというのは、本当に光栄なことだと思いますよ。



―― そこで瀬下作品の特徴のひとつとして、まるで実写のように画の中の光を大事にしているというのが挙げられます。



瀬下 光はとても重要です。といいますか、自分の画作りの中で照明が一番大事ではないかと思っているほどで、ストーリーやキャラクターのエモーション、シチュエーションも照明を主軸に表現したいと思って、こだわり続けています。



―― 今回もそのために新たな技術を導入されたとか。



瀬下 そうですね。今の日本のアニメの中では、3DCGで構築されながらも見た目がセル画のように見える映像“セルルック”の技術が確立されてきていますが、うち(ポリゴン・ピクチュアズ)では、そのためのソフトウェア“セルルック・シェーダー”を独自に開発しています。



 僕自身、リンクス(80年代末にトーヨーリンクスから社名変更。その後リンクス・デジワークスを経て、現在はイマジカに事業統合)やスクウェア・エニックスなど老舗CG系の出身で、技術開発しながら画を作り上げていくという世代です。CGの黎明期ではソフトウェアは売ってなかったから自分たちで作るしかなかったんですけど(笑)。今も購入したソフトウェアに対して、2〜3割くらいは自社で開発したり改造したりしながら表現に少しずつ手を加えています。



―― だから作品ごとに技術が進化しているわけですね。



瀬下 そうです。時間や予算などの条件を劇的に変化させるのが難しい上に、人間の熟練や根性にも限界があります。そこを手法・技法における創意工夫で毎回乗り切ってきているわけです。



―― 実は瀬下監督がかつてアートディレクターとして関わっていらしたCG映画超大作『Final Fantasy:The Spirits Within』(01年)を見たとき、当時の評価こそ低かったものの、私自身はここから映像の革命が始まると確信していました。あれから16年、それが間違ってなかったことを、瀬下監督をはじめとするみなさんの実績が証明してくれています。



瀬下 僕が『Final Fantasy』制作のために渡米したのが1997年で、当時30歳でした。今はもう50歳(笑)。あっというまに20年経ってしまいました。



―― 世界で初めてCGを本格的に導入した映画『トロン』(82年)や、クライマックスにCGが導入された出崎統監督のアニメ映画『ゴルゴ13』(83年)など、ああいった先駆的作品は再評価すべきだと思っています。さすがに当時は映像の落差に愕然としたものですが、今となっては歴史の1ページとして見るべきかなとも。



瀬下 『トロン』は僕がCGを始めるきっかけになった作品でした。『ゴルゴ13』は僕が89年に入社したリンクスの前身であるトーヨーリンクスがCGを担当しています。トーヨーリンクス自体、『ゴルゴ13』の山本又一朗プロデューサーや大阪大学の大村教授が主軸となり、イマジカの子会社として設立したものでした。『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(88年)のCGもトーヨーリンクスで作られました。あのときのCGディレクターだった林弘幸さんは今でもポリゴン・ピクチュアズの前線で活躍されていて、僕にとって憧れの先輩です。



―― まさに当時、そういった方々が日本のCG黎明期を支えてこられて、今の躍進につながっていったのだなと、改めて敬服させられます。



瀬下 そうですね。日本でCGを始めた最初の世代の方々の背中を見ながら、僕らも頑張ってきました。



―― 正直、かつてはCGで構築されたキャラクターには、画的になかなか感情移入しづらいところもありましたが、本作も含めて今はそういうことはなくなりましたね。



瀬下 かなり解消できているとは思います。ただ、まだまだもっとやりたい。実は今のCGだと“当たり前の日常”はまだ勝負できないんですよ。これは『Final Fantasy』に着手してから20年来ずっと挑んできていることなんですけど、なかなか難しいですね。でも、それこそ登場人物がひっきりなしにご飯ばかり食べているCG映画を僕は作ってみたい(笑)。ご飯を食べている画って実はすごく難しいんですよ。派手なドンパチのアクションシーンはCGの長所を用いて構築できる。でも、ご飯食べたりシャワーを浴びたり着替えたり、髪の毛をとかしたりといった日常の描写は本当に難しいです。だから手描きのアニメで日常を豊かに描いている作品っていっぱいありますけど、心の底からうらやましい(笑)。



―― つまり、究極的にはCGでホームドラマを構築したいと。



瀬下 そういうことです(笑)。異世界ではなく、日常のドラマを、3DCGという僕らの表現方法で描けるようになったとき、そこで初めて手描きのアニメのみなさんと同じ土俵の上に立てるのかなと。まだまだ足元にも及びませんけどね。でも、それこそ『サザエさん』や『クレヨンしんちゃん』のような、日常をきちっと描いた作品を3DCGで違和感なくやってみたいし、憧れでもあります。



■プレスコによって声と画がお互いを高め合っている



―― そういえば、かつて高畑勲監督がフル・デジタルで『ホーホケキョ となりの山田君』(99年)に挑まれていました。



瀬下 そうですね。プレスコならではのすごく独特な雰囲気だったという印象があって、とても好きな作品です。ちなみに、『山田君』のスタッフが、本作のプリプロの重要なポジションで活躍されていますよ。ディレクター・オブ・フォトグラフィーの片塰満則さんは、スタジオジブリのCG監督出身ですし。プロダクションデザイナーの田中直哉さんは数々のジブリ作品の美術監督です。『シドニアの騎士』から、ずっと一緒に仕事させていただいていますが、みなさん素晴らしい方々ですよ。美術監督の滝口比呂志さんも『言の葉の庭』(13年)など新海誠監督作品の常連ですし、音楽は菅野祐悟さんで音響監督は岩浪美和さん。……あらためて、つくづくスタッフに恵まれていると思います。



―― 音響の岩浪さんということでは、今回は最新音響システム“ドルビーアトモス”を採用した立体音響上映もなされるとか。



瀬下 ドルビーアトモス、これはすごいですよ! 音響自体が物語の空間を生み出しています。観賞可能な方は、ぜひ体験していただきたいですね。



―― 岩浪さんは『ガールズ&パンツァー劇場版』(15年)のセンシャラウンドファイナル極上爆音上映でも大活躍された音響監督ですので、今回も期待は大ですね。



瀬下 岩浪さんをはじめとする音響チームの音へのこだわりはものすごいです。音が作品の臨場感を何倍にも膨らませてくれているほどです。実際、彼らのおかげで、僕らの独特な制作手法も可能になっています。『シドニアの騎士』からずっとプレスコですが、工程としては、まずあらすじを作り、そこから脚本、そして場面設計へと進み、脚本・場面・配置演出(ステージング)の情報をまとめた「台本」というものを作成してからプレスコに入るのですが、そのとき画コンテは一切なし。



―― そうなのですか!?



瀬下 画コンテはプレスコをすべて終えて、その後からです。要するに、まずラジオドラマを作るんです。それ自体が面白ければ、そこに画が加わればもっと面白くなるはずだと。ですから、なおさら音響の岩浪さんやチームのみなさんの力がものすごく重要になってくるんです。



―― だからでしょうか。瀬下監督作品は声優の声がすごく活きているとでも言いますか、今回もアニメをメインとするプロの声優さんで占められていますが、いわゆるアニメ特有の声の臭いが、良い意味で感じられないですね。



瀬下 そういっていただけるとうれしいです。声優さんにはものすごく分厚めの台本を渡すのですが、そのト書きには相当量の場面状況や感情が記述されていて、さらに質問されれば、その声優さんが演じるキャラクターが場面上のどの位置でどう運動しているかを詳しく伝えます。セットがない状態での舞台演劇と似たような状況が生まれ、声優さんは自然とそのキャラクターになりきっていきます。その流れの中で彼ら自身のポテンシャルを引き出してもらうんですね。



 そして、引き出せば引き出すほど、録った音には目をつぶれば見えてくるほどに豊かな表情や動きが加わります。そして、それを聞いたアニメーターたちは、彼ら自身の想像力を強烈に刺激された状態でキャラクターの演技をつけていきます。結果として、演出がそれほど細かい指示を出さなくても、意図に近いもの、またはそれを超えるものすら出来上がってくるようになります。



―― メジャー劇場アニメ作品など、いわゆるアニメ声を嫌う製作サイドの意向で顔出しの俳優やタレントが起用されることは多々ありますが、瀬下作品を見ますとプロ声優だってちゃんと作品のテイストに即したリアルな声を出せるという事実を如実に知らしめてくれています。



瀬下 日本のプロの声優さんたちの技術は、世界最高峰のクオリティだと思います。ヴォイス・アクティングがこれほど進化している国って他になかなかないんじゃないでしょうか。みなさん信じられないほどの職人技です。僕自身『シドニアの騎士』でそのことに気づいて以来、声優さんのポテンシャルをさらに引き出すことを模索しています。



―― ずっとお話をうかがっていますと、やはり瀬下監督が実写映画感覚の人なのだなと思わされます。何よりもまずは役者ありきという姿勢。



瀬下 そうかもしれないですね。役者さんは本当に大事です。これからも自分の感性とアニメならではの魅力がうまく融合できていたらいいなと思います。



―― まさか今回の取材でセルジオ・レオーネの名前を聞けるとは思ってもいませんでしたので(笑)。



瀬下 サム・ペキンパーも好きです(笑)。僕は池袋育ちで、文芸坐をはじめとする名画座に自転車で通いながら、映画ばかり見ていました。また当時はロードショー館も入れ替えがなかった時代なので、おにぎり持参で『2001年宇宙の旅』(68年)のリバイバル上映を朝から晩まで繰り返しずっと見たり。今思えばおおらかな時代で、しっかりと僕のような映画中毒を育ててくれました(笑)。



―― でも、その映画中毒としてのキャリアが、今のお仕事に大いに役立っていらっしゃる。素敵なことだと思います。



瀬下 ありがとうございます。『BLAME!』も自分が思う普遍的な映画的歓びを、劇場用映画ってこうあってほしいと思う壮大さとかも含めて、意識的に詰め込んでみました。また今回は横長のシネスコ・サイズでやらせていただきました。これも劇場用映画ということでの、大きなこだわり……というか憧れのひとつですね。つまり、『BLAME!』ってそんな映画なんです(笑)。
(取材・文/増當竜也)



■『BLAME!』
配給:クロックワークス
公開:5月20日(土)より全国公開(2週間限定)
公式サイト :http://www.blame.jp/   
上映時間 :105分
(C)弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局


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