ASH DA HEROは知性に裏打ちされたアーティストだ 最新作『A』で到達した“ネクストレベル”

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2017年05月23日 19:03  リアルサウンド

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ASH DA HERO

 ASH DA HEROというアーティストに初めて会ったのは2015年。メディア向けのプレスキットのためのインタビューだったのだが、痩身、タトゥ、金髪という“オーセンティックなロックンロールスター像”としか言いようがないビジュアルを持つASH DA HEROは(ルックス、ファッション、アーティスト名を含め、“等身大こそが正義”みたいな昨今のバンドシーンの潮流とは完全に真逆のスタイルであることは一目瞭然だった)、しかし、恐ろしくクレバーな男だった。10代のときに名古屋のパンクシーンで活動をスタートさせた彼は、複数のバンドのボーカリストとして活躍し、アメリカでのライブも経験。その後ASH DA HEROと名乗り、いまでは稀になってしまったソロのロックアーティストとして始動ーーその一つ一つのエピソードが滅法おもしろいのだ。チェ・ゲバラの死に顔をデザインした胸のタトゥの意味、アーティスト名の由来など興味深い話ばかりだったのだが、なかでも印象的だったのは「特にロックンロールだけが好きというわけではないんですが、自分にいちばん合ってるから選びました」という趣旨のコメントだった。実際、彼の音楽的な守備範囲はじつに幅広く、ソウルミュージック、レゲエ、ファンクなどにも造詣が深いのだが、“自分がやるべき音楽とは何か?”というテーマを深く掘り下げた結果、現在のロックンロール・スター像へと辿り着いたというわけだ。つまりASH DA HEROはインパクト勝負の目立ちたがり屋などではまったくなく、知性と知識に裏打ちされたアーティストなのだと思う。


 2015年にメジャーデビューを果たしたASH DA HERO。その最初の集大成というべき作品が、2016年6月にリリースされた『THIS IS A LIFE』だ。ミニアルバム『THIS IS ROCK AND ROLL』『THIS IS A HERO』を含め3部作の最後となる本作は、The Whoの『Tommy』に代表される、ロックオペラの形式を取り入れた作品(彼自身はMy Chemical Romanceの『The Black Parade』に影響されているという)。自らの半生を踏まえながら、“ASHとは何者で、どこから来て、何をやろうとしているのか?”という壮大なストーリーを描いているのだ。自殺未遂などのシリアスな出来事を魅力的な音楽作品として再構築するセンスも素晴らしいが、さらに印象的だったのは、ブラックミュージックを中心とした彼の幅広い音楽性が前景化していることだった。自分自身の人生を描くというテーマを掲げることによって、ロックンロールだけに留まらない音楽的な素養がしっかり反映されたことこそが、本作のもっとも大きな収穫だったのではないだろうか。


 そして2017年5月24日、ASH DA HEROは2ndフルアルバム『A』をリリースする。本作の制作スタンスについてASHは「0から生まれたものを一度完成させて、それを一度自らの手で打ち砕き、砕け散った欠片を拾い集めて、それをまた第三者と共に今度は咀嚼し、消化して、ネクストレベルに昇華する」(セルフライナーノーツより)と記している。衝動に任せて作った楽曲をそのままパッケージするのではなく、そのなかの本質だけを抽出し、さらにブラッシュアップする。その作業を丁寧に繰り返したことで本作は、より洗練されたポップネスを獲得するに至った。そのことをもっともわかりやすく示しているのが、リードトラックの「BRAND NEW WORLD」。ヘビィロック、ミクスチャーロックのテイストを軸にしながら、90年代J-ROCKのフレイバーを取り入れたこの曲は、ASH DA HEROがもともと持っていた大衆性をバランスよく引き出すことに成功している。さらにダンスミュージック、ボカロ楽曲の要素もミックスされるなど、独特のハイブリッド感を備えていることもこの曲の魅力だろう。


 「BRAND NEW WORLD」と同様、彼のルーツである海外の音楽と日本特有のサウンド感を融合させているのが「JAPANESE ROCK STAR」。エッジの効いたギターリフを軸にしたハードロック・サウンドにディスコティックなビート、J-POP的なコーラスワーク、さらに和音階のメロディを乗せることで、まさに日本発のロックミュージックへと導いているのだ。そう、“日本人にとってのロックとは何か”という題材を意図的に潜ませているのも、本作のもうひとつのテーマ。そこに欠かせないのは、このアルバムのメイン・アレンジャーである宮田“レフティ”リョウの存在だ。RADIO FISH、忘れらんねえよ、黒木渚などの幅広いアーティストの作品に関わる一方、伊東歌詞太郎とともに“イトヲカシ”としても活動している宮田の優れたポップセンスとアレンジ能力が、本作『A』のクオリティに大きく寄与していることはまちがいないだろう。さらにもう一人、アレンジャー兼プロデューサー的な位置で本作に関わっている茂木英興についても触れておきたい。映画『ハチミツとクローバー』『BECK』『海街diary』、ドラマ『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』『ごちそうさん』などの音楽制作をはじめ、数多くのCM音楽に携わってきた茂木氏のプロデュースワークによって、『A』のポップネスは担保されていると言っても過言ではない。


 レゲエ、ヘビィメタル、スカパンクなどをゴッタ煮にしたダンスナンバー「WA!!」、サーフロック発、レゲエ経由のR&Bナンバー「Somebody To Love」、アフロのグルーヴとパンクロックの攻撃性をぶつけ合った「W.Y.W.G(Where  You Will Go)」など独自のミクスチャー・スタイルから生まれた楽曲も収録。現在の社会に対する冷徹な視線、“こんな世界は好きなように変えてやれ!”と言わんばかりのメッセージ性に溢れた歌詞も印象的だが、彼のアーティスト性とはやはり、幅広い音楽知識と独創的な編集センス、そして、それをすべて“ASH DA HEROのロックンロール”へと昇華させるボーカル表現ではないだろうか。「僕の音楽とは一体何なのか? 僕の歌とは一体どうあるべきなのか? ASH DA HEROという現象は一体何であるのか?」(セルフライナーノーツより)という問いに向かい合った彼。その最初の答えが本作『A』なのだと思う。(文=森朋之)


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  • ASH だから… 今年は『A』… 来年は『S』… 再来年は『H』…なんてね?
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