【今週の大人センテンス】関係する人すべてが「大人」な阿川佐和子の熟年婚

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2017年05月23日 20:00  citrus

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巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

 

第59回 素直に祝福したくなる「のろけ話」

 

「他人様のプライバシーを引き出す仕事をしている身として、自分のこととなると何も語らずじまいというのも潔いとは思えません。」by阿川佐和子

 

 

【センテンスの生い立ち】
 

作家でエッセイストの阿川佐和子さん(63)が、かねてから交際していた69歳の元大学教授と、5月9日に入籍したことを発表した。5月18日発売の「週刊文春」に「今更ですが『私、結婚しました』と題した8ページの手記を掲載。28歳のときに相手の男性と出会ってからの道のりや、入籍に至った経緯を報告した。「手記まで書いて長々と報告する必要があるのか」という迷いがあったものの、こんなふうに考えて書くことを決めたという。

 

 

【3つの大人ポイント】

 

  • 遠慮がちな書き方の向こうに喜びがあふれている
  • 自分の立場を客観的に見つつ役割を果たしている
  • 情報をすべて開示してこの話題に区切りをつけた

 

63歳の阿川佐和子さんが69歳の男性と結婚したというニュースは、世間をちょっと驚かせ、そして「そうですか。それはよかったですね」という気持ちにさせました。お相手の男性は、前々から噂があった元大学教授です。知り合ったのは、阿川さんがまだテレビの仕事も書く仕事もしてなかった28歳の時。それから長い年月が流れて、お互いにいろいろあって、このたび入籍と相成ったようです。

 

5月17日、阿川さんは所属事務所を通じて報道各社に送ったファックスを送り、結婚を発表します。全文はこちら。


作家・エッセイストの阿川佐和子さん63歳、年上男性と結婚 「穏やかに老後を過ごしていければ」(産経ニュース)

 

そして、翌日に発売された「週刊文春」5月25日号で「独占手記」を発表。彼女は同誌で1993年から足掛け25年にわたって「阿川佐和子のこの人に会いたい」という対談連載を続けています。その経験から得た会話の極意をまとめた新書『聞く力』は売れに売れ、トーハンが発表した「2012年年間ベストセラー」で総合1位に輝きました。

 

「おこがましいことながら、このたび五月九日に私、阿川佐和子が入籍したことを、ここにご報告いたします」と始まる手記は、たっぷり8ページ。入籍に至った経緯や心境、周囲の反応、結婚に対する思い、「S氏」との出会いや彼の素顔などが、具体的なエピソードとともに楽しく率直に展開されています。

 

冒頭のセンテンスに凝縮されていますが、遠慮がちな書き方の向こうに喜びをにじませつつ、期待されている役割や人前に出る仕事をしているものとしての責任をきっちり果たしていて、さすがというか何というか、円熟の大人力に満ちた手記でした。最初に洗いざらい話しておけば、この先、妙な詮索や追求を受けずに済むという思いもあったでしょう。

 

手記自体も大人でしたが、取り巻く人たちの大人力も印象的です。貫録と迫力の大人力を示しているのが、父親で小説家の阿川弘之さん。2015年8月にお亡くなりになりましたが、入院なさっていた頃、いきなり父から娘に「噂によると付き合っている人がいるそうだが……」という電話がかかってきました。娘が狼狽しながら、「一度父さんのところへ挨拶に連れて行こうと思っていたんです」と心にもない言い訳をした途端、「その必要はない」とぴしゃりと言われてしまったとか。

 

さらに、弘之さんは「それでお前は幸せなのか?」と聞いてきて、佐和子さんが「えーと、幸せかどうかと聞かれたら、はい、幸せです!」と返すと、「お前が幸せなら、それでいい」とひと言。その後、弘之さんがその話を持ち出すことは一度もありませんでした。じつに見事な距離の取り方であり、娘の人格を尊重した美しい態度です。娘が60を超えているとはいえ、そこまで潔い対応はなかなかできません。弘之さんは妻や子どもに対してかなり強権的な父親だったそうですが、ビシッと一本筋が通っています。

 

結婚がテレビのワイドショーで取り上げられたときに、梅沢冨美男さんが発したコメントも大人の思いやりにあふれていました。はじめて出会ったときに相手に家族がいたことで、ふたりの結婚について、一部では「略奪婚では?」という言われ方もしています。前の奥さんにしつこく取材をした媒体もあったようです。しかし、当人同士がきっとさんざん悩んだり迷ったりして選んだ道だし、長い年月を経てたどり着いた道ですから、野次馬がとやかく言うことではありません。下世話な方向に興味をふくらませずに、あたたかい気持ちで祝福するのが、野次馬としての望ましい矜持と言えるでしょう。

 

梅沢さんは、そんなもろもろの思いを全部込めて、ふたりの結婚を「まあ、時空を超えた愛だな」と表現します。たまたまテレビを見ていた阿川さんは「本当に嬉しかった」と感じ、梅沢さんのひと言で場が和み、スタジオの出演者が笑うしかなくなった様子を見て感激。「梅沢さんにはもはや足を向けて寝られません!」と書いています。梅沢さんも60代。同年代同士ならではの大人のやさしさが発揮されたエピソードです。

 

手記はこう結ばれています。「もし街中で、私たち二人が手を取って歩いている姿を見つけたとしても、『よ、新婚め!』とからかわないでくださいませ。手を繋いでいるのは、時空を超えた愛ゆえ、すなわち、互いに転ばないためなのですから」。時空を超えた愛だけでなく、時空を重ねた愛の場合も、時空をさ迷っている愛の場合も、互いに転ばないために支え合っていこうという気持ちはとても大切です。おふたりの末永い幸せを祈りつつ、我が身に置き換えて、パートナーと手を取り合うことの意味をあらためて考えてみましょう。

 

【今週の大人の教訓】

他人の幸せをどう受け止めるかで、大人力が問われる

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