デザイン、品質管理など。高性能なだけじゃないミシュランタイヤの情熱を堪能

0

2017年05月24日 17:12  AUTOSPORT web

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

AUTOSPORT web

MICHELIN Passion Days
ミシュランのさまざまなプロダクトを体感できる試乗イベント『MICHELIN Passion Days』が、F1アブダビGPが行われるヤス・マリーナ・サーキットで開催された。サーキット走行も視野に入れるミシュランのハイパフォーマンスカー向け最新スポーツタイヤ『パイロットスポーツ 4S』が紹介されたイベントの様子を、現地からのレポートでお届けする。

* * * * *

街中に情熱のパワープレイが溢れる場所、アブダビ



 ミシュランは定期的に世界中でメディアや販売店を招き、ミシュランタイヤのさまざまなプロダクトをサーキットで試乗させる“Passion Days”というイベントを開催している。今回の開催地はF1アブダビGPが開催されるヤス・マリーナ・サーキットだ。

 訪れるまでアブダビに対してのイメージは、アラブ首長国連邦の首都であり、砂漠やラクダ、オイルマネーがもたらすお金持ちの国……という程度の薄っぺらさ。


 訪れた4月は真夏ではないものの、日中の気温は40度前後。真夏の熊谷と一緒じゃないか。さぞかし暑いんだろうなぁ……と想像していたが、移動は全てクルマだし、屋内はエアコンで快適な温度へ保たれているため、人工的に快適な環境が作り出されている。

 また、砂漠と言えば水がないはずが、そこかしこに噴水があり、街の至る所へ青々と茂らされた芝生にはスプリンクラーで水がジャンジャンと撒かれている。海水を濾過して真水を作り出しているそうだ。

「無いなら、作ればいいじゃん」というパワープレイ。豊かさを生み出していくことへの前進力は正に情熱だ。なるほど、Passion Daysを過ごすにはふさわしい場所である。


何セット目でも、常に1セット目の様なミシュラン パイロットスポーツ 4Sの安心感

 今回のイベントの主役は、日本では2017年2月に発表された“ミシュラン・パイロットスポーツ 4S”である。ミシュランのスポーツタイヤ“パイロットスポーツ”シリーズの最新作で、スーパーカーなどのハイパフォーマンスカーを装着車両として想定したUHP(ウルトラ・ハイ・パフォーマンス)のカテゴリへ属するタイヤだ。


 イベント開始早々、パイロットスポーツ4Sが装着されたゴルフRへの試乗が始まった。60km/hでのパイロンスラローム、ドライ路面のブレーキングテストをサーキットの一角を使用して行う。


 特筆すべきは、何セットもスラローム、急制動を行っても、フィーリングに変化が少ない点だ。これだけ暑い場所でストレスのかかる運転を繰り返せば、タイヤが熱ダレを起こしハンドリングに不安定さが出そうなものの、パイロットスポーツ4Sは毎度1セット目かのごとく、安心感を持って運転ができる。


 同時に同じくゴルフRへライバル銘柄のタイヤがセットされた車両の試乗も行ったが、こちらはセットをこなすごとにグリップの抜けるポイントが唐突さを増す感覚があり、やや緊張感がある。この、最後の最後までクルマをしっかりとコントロールさせてくれる安心感が、ミシュランらしいなと感じた。


 こうしたハンドリングの良さは、路面との密着度を高める「ダイナミック・レスポンス・テクノロジー」が効いているのだろう。強度の高いハイブリッド・アラミド/ナイロンベルトがトレッドの内側に配され、遠心力によるタイヤの変形を抑えながら、同時にタイヤ剛性を高めている。

 今回の試乗では高速で走るシーンは少なかったため、高速安定性能を試すことができなかったものの、パイロットスポーツ4同様にタイヤが円いことを実感できる真円性を感じさせてくれるのは想像に難くない。

タイヤデザインへの情熱

 パイロットスポーツ4Sのトレッドパターンは、パイロットスポーツ4同様に公道、果ては石畳の道すら走るフォーミュラEのタイヤをベースとしている。さまざまな温度・路面環境・気候条件へ対応しつつ、耐摩耗性も兼ね備えたオールラウンダーのタイヤだ。

 フォーミュラEのタイヤとわかりやすく似ている、稲妻をモチーフにしたというトレッドパターンデザインは、フランスの専門デザインチームによるもの。ミシュランはタイヤへ対し“デザイン性”も重要であると考えているのだ。


 サイドウォールへ刻まれる“MICHELIN”ロゴのプレミアムタッチデザインはパイロットスポーツ4よりも黒く、より立体感を持って見えるように、深さと角度が見直されたという。

 このベルベットの様なプレミアムタッチデザインは、レーザーで彫り込むことで少量生産にも対応し、台数限定車のタイヤサイドウォールに専用のデザインを施したタイヤを履かせるプランが進行中だという。

 シャカリキ走ることだけを追求し、タイヤ性能だけを追い求めるのではなく、停まっている時も美しくあるために、ミシュランはタイヤをデザインピースの一部として、新しい価値を持たせようという情熱を感じる一面だ。

高価なハイパフォーマンスカーへふさわしい、ハイパフォーマンスタイヤたる理由


 タイヤは工業製品であり、工場でガシャコンと大量生産されるイメージだが、ミシュランのタイヤは少し違うらしい。けっこう人の手が介在しているのだ。ワイヤーの編み方、シリカの配合など、さまざまな局面で人手が介在している。フランスの職人ナントカさんがいなくなると、このタイヤは作れません、ということもあるそうだ。


さらに、パイロットスポーツ4Sは世界中のミシュラン工場でも限られた工場でしか生産をすることができないという。

 ハイパフォーマンスタイヤへ求められる品質基準は非常に高く、その品質基準を満たす生産インフラを持つのが、その限られた工場だけなのだ。まるで高価なハイパフォーマンスカーのように、丁寧に厳正な品質管理へ基づき生み出されるタイヤが、ミシュラン パイロットスポーツ4Sだ。


 個人的にパイロットスポーツ4Sの進化点で重要だと感じたのは、リムガードが追加されたこと。AMG、ポルシェ、フェラーリ……いずれも超高額なホイールを装着する車両ばかりの挙句、ホイール自体のデザインも、ガリっとやってしまいそうなリムが出たものが多い。

 いくら運転が上手い人でも、うっかりガリッとやってしまうものである。ガリ傷補修はけっこう高いし、特殊な塗装が施されていようモンならホイールごと買い替えが必要だったりもする。

 ハイパフォーマンスカーにふさわしいタイヤとは? という問い対し、タイヤ性能もそうだが、筆者的にはリムガードの有無も大事な要素だと感じる。

人生初! 緊張のフォーミュラ試乗体験

 パイロットスポーツ4Sの試乗の後は、ミシュランのサーキット専用タイヤの“試乗”だ。試乗車はレーシングカー向けのスリックタイヤが装着されたルノー・クリオ カップカーに加え、フォーミュラ4(F4)のマシン。しかも単座……つまり一人で走れと。

 自動車メディア業界にいてもフォーミュラカーを運転するチャンスなんて滅多にない。一般人なら尚更だ。「なんて羨ましい……」という声も聞こえてきそうだが、まともなレース経験がない筆者にとっては胃痛の種でしかない。


 まずはクリオ カップカーの試乗から。F4の試乗へ対するプレッシャーから、クリオがとても可愛らしく見えてきた。見た目はルーテシアだし、1.6リッター直4ターボのエンジンで223馬力と常識的と思いきや、走らせると凄い。とにかく良く曲がるのだ。


 装着されたスリックタイヤのコンパウンドはソフト。市販タイヤとここまで違うの!? というくらいに異次元だ。隣に乗るインストラクターの指示に従って走るのだが、こんな速度で曲がれるのかい? という速度領域でクルマが曲がっていく。サスペンションの付いたジェットコースターという感覚。



 違いは、自分がステアリングを切れば、それに忠実な反応を示すというところ。改めてサーキット専用タイヤの凄さを体験することができた。


 続いて、いよいよフォーミュラカーの試乗である。暴力的な程の爆音。胃だけじゃなく、耳も痛い。普段レース観戦で聴くとワクワクするはずの音が、今日ばかりは胃痛の原因に他ならない。こんなの運転できるのだろうか……。他の人の試乗する様子を見て心の準備をしようと思っていたら、まさかの一番手。絶望である。


 しかし、いざ走り出すと思っていたよりも走りやすかった。というのも、車を運転しているというよりも、グランツーリスモをやっている様な感覚で、車体のすべてに神経が行き渡ったようなダイレクトさだ。手足が延び、その先にタイヤが着いているような感覚を覚えるほど。


 インストラクターの運転するAMG CLA45に先導されているため、純粋にドライビングを楽しむことができた。周回を重ねタイヤが温まる頃には胃痛も吹き飛び「これがモータースポーツの楽しさか」と普段のドライブとはまた違う種類の、エクササイズ的なドライブの楽しさを見出せたほどだ。


 イベントの締めくくりには、マクラーレン650S GT3へ同乗試乗。プロドライバーの横乗りなのだが、速いの何の。



 前日にフェラーリ・ワールド・アブダビで乗った世界最速のジェットコースター「FORMULA ROSSO」みたいだ。目の前の景色が右へ左へクルクルと流れていくが、マシンは非常に安定しているので怖さがない。

ミシュランの情熱を足元に感じると、少し遠回りして帰りたくなる


 日本にいるとあまり馴染みのないアブダビを訪れ、そのスケール感やグローバルさに驚きの連続であった。茶色い砂漠の真ん中へ突如現れる美しい街並み、それをわずか数十年で作り出した人々の、豊かさを求める情熱にすっかり圧倒されたのだ。そこで開催された「ミシュランPassion Days」は、その名が示す通りに情熱溢れるイベントであった。



 成田空港へ着き、パイロットスポーツ4を履く愛車で帰路につく。サイドウォールにプレミアムタッチで彫り込まれたミシュランマンが、アブダビで出会ったのと同じ笑顔で手を振ってくれている。ヤス・マリーナ・サーキットで感じたミシュランの情熱が自分の足元にも宿されていると思うと、少し遠回りして帰りたくなった。
    ニュース設定