DARTHREIDER × STUTSが語り合う、KREVAのスキルと功績「ヒップホップを広げる役割を担ってきた」

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2017年05月25日 18:13  リアルサウンド

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DARTHREIDER × STUTS

 2月1日にリリースしたアルバム『嘘と煩悩』を携え、現在『KREVA CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」』を行っているKREVA。残す公演は、兵庫・神戸国際会館こくさいホール、東京・TOKYO DOME CITY HALLとなり、まさにツアー終盤を迎えている。先日リアルサウンドで、「KREVAはラップ・アーティストとして何を成し遂げてきたか? 『嘘と煩悩』から分析」というコラムを掲載したが、今回はその後編としてアーティストによる座談会を企画。ラッパー/HIPHOP MCなどで活躍するDARTHREIDER、1989年生まれのトラックメーカー/MPC Player、STUTSを迎え、KREVAの日本のヒップホップシーンにおける功績について語り合ってもらった。まずは、最近盛り上がりをみせているフリースタイルの先駆者としてのKREVAからKICK THE CAN CREW〜ソロ活動におけるKREVAの楽曲のメロディセンス、そして最新アルバム『嘘と煩悩』、ライブについて訊いた。聞き手は二木 信氏。(編集部)


・フリースタイルの先駆者としてのKREVA


ーー最初のKREVA体験から教えてもらえますか?

STUTS:小6か中1ぐらいのときに初めて聴いたヒップホップがKICK THE CAN CREWとRIP SLYME でした。半年間、その2つのグループしか聴かないぐらいハマりました。僕ら世代では、僕のようにヒップホップにどっぷりハマらなくても、KICK THE CAN CREWの『VITALIZER』(2002年)の収録曲を歌えたり、口ずさめたりする人も多いと思います。


DARTHREIDER:僕が最初に組んだMICADELICというグループの初期メンバーの酔花(スイカ)がBY PHAR THE DOPEST(KREVAがKICK THE CAN CREW結成以前にCUEZEROと組んで活動していたヒップホップ・ユニット)のCUEZEROくんの専門学校の後輩だった。それでBY PHAR THE DOPESTの「切り札のカード」(1997年)というシングルがリリースされる前にその曲の存在を教えてもらったりしていた。そういう縁もあってBY PHAR THE DOPESTのライブも観に行ってましたね。渋谷のFAMILYというクラブで『FG NIGHT』というパーティ(KICK THE CAN CREW、RHYMESTER、EAST END、RIP SLYME、MELLOW YELLOWなどから成るFUNKY GRAMMAR UNITが主催するパーティ)があって、たくさんのラッパーが集まってフリースタイルをしていたんです。その時の評価基準がKREVAさんのフリースタイルだった。「いまのはKREVAより上手かった」とか「さっきのはKREVAには及ばない」とか、そういう基準がすでにあった。『B BOY PARK』のMCバトルが始まる前ですね。K.I.Nさん(MELLOW YELLOW)が日本で最初にフリースタイルを始めたラッパーとも言われていますが、一方でフリースタイラーとしてのKREVAさんの実力は渋谷界隈のクラブでは認知されていましたね。


ーー当時のKREVAさんのフリースタイラーとしての個性や特異点は何でしたか?


DARTHREIDER: 90年代のミックステープなどにも収録されてクラブで認知されていたKREVAさんのフリースタイルの凄さは、畳み掛けるような早口で滑らかにフロウすることでした。だから、意味を伝えるよりラップの技術そのものを見せつけていた。これは僕の見立てですが、『B BOY PARK』のMCバトルに出場するようになって、いまでは“クレバ・スタイル”と呼ばれるスタイルを取り入れるようになるんです。公式のMCバトルの大会を経験するのはラッパーも審査員も運営側も初めてのことだからいまよりもジャッジの基準が曖昧で、勝敗の判定も難しかった。そこでKREVAさんは早口で畳み掛けるのではなくて、まず「ラップを即興でやってますよ」ということをわかりやすく伝えるスタイルを選んだ。つまり、言葉が聴き取りやすいようにゆったりとしたフロウでキックやスネアにあわせて韻を踏んでいった。「即興でラップしている」とその場にいる誰もが理解できるようにラップしたんです。


STUTS:僕は『B BOY PARK』は完全に後追いで、ラップの知識もそこまでない時に映像で観たんですけど、たしかに即興でラップしているとすぐに理解できましたね。


DARTHREIDER:当時は、事前に用意した持ちネタを使ってMCバトルに参加するラッパーも少なくなかったんです。だから、その場にいる人たちのフリースタイルやラップのリテラシーを考えて、KREVAさんはそういうスタイルを選び取ったと思います。その時点で他のラッパーの先を行っていた。そうやって「日本語のラップで即興ができる」と示したKREVAさんが『B BOY PARK』のMCバトルで3連覇します(1999年〜2001年)。そういう“クレバ・スタイル”がまずあった上で、後続のラッパーはフリースタイルへのアプローチを各々試みていく。そして、“クレバ・スタイル”のカウンターとして漢 a.k.a. GAMIや般若のスタイルが出てくる。だから、いま『高校生RAP選手権』や『フリースタイルダンジョン』に参加している若いラッパーやそれを楽しんでいる若いリスナーがいま当たり前に共有しているフリースタイルの原点にはKREVAさんがいる。だから、もし「KREVAはヒップホップじゃない」とか言っている若者がいるとしたら、それは言語道断ですから!


ーーいきなり頑固オヤジ発言きましたね(笑)。


DARTHREIDER:僕も40歳でリアル頑固オヤジなんで!


・独自のメロディ・センス


ーーKICK THE CAN CREW、あるいはKREVAさんの楽曲で最初にインパクト受けたものは何でしたか?


STUTS:KICK THE CAN CREWの「クリスマス・イブRAP」(2001年)と「マルシェ」(2002年)ですね。「クリスマス・イブRAP」では山下達郎の「クリスマス・イブ」をサンプリングしていますけど、当時、ああいう大ヒット曲をサンプリングする試みは日本のヒップホップではあまりなかったですよね。


DARTHREIDER:うん。あの曲のサンプリングには批判もあったんですよね。有名な曲をサンプリングすることを“大ネタ使い”と言うけれど、そういう場合その“大ネタ使い”がアリかナシかという議論になる。「クリスマス・イブRAP」の時もコアなヒップホップ・リスナーの間ではそういう議論が起きた。もちろん有名な曲を使ってセルアウト(ヒップホップの専門用語で、商業主義に走った際などに批判的に使われる)したと批判する人の主張の根拠はわかります。ただ、グッド・ミュージックという観点で考えれば、あの曲はグッド・ミュージックですよ。しかも、誰もが知っている曲をサンプリングしてヒップホップを作るのは実は一番ハードルが高い。「クリスマス・イブRAP」はそういうチャレンジの曲で、結果的に大ヒットしたわけだから、KICK THE CAN CREWが勝ったんですよ(笑)。


STUTS:ラップのスタイルはストイックなのにポップでキャッチーな曲を作るのがKICK THE CAN CREWにしかない魅力だと思います。


DARTHREIDER:KICK THE CAN CREWは3人のラッパーのリズミカルな掛け合いでキャッチーなムードを作っていましたね。「スーパーオリジナル」(2001年)とかはまさにそういう曲です。


STUTS:その頃のKICK THE CAN CREWは小節の最後の5文字とかで韻を踏んだりしていましたよね。そこで僕はラップで韻を踏む面白さに初めて触れたんです。僕みたいな初めてラップを聴く人にもそういうことがわかった。


DARTHREIDER:小6か中1のSTUTSにも理解できるぐらいわかりやすく日本語のラップの面白さを見せたということですね。それはとても重要でしょう。ソロデビューアルバム『新人クレバ』(2004年)の頃のラップには韻を踏むために倒置法を多用しながら、意味を通していく面白さもあったりする。ヒップホップのルールをまったく知らない人にもラップの韻の魅力を伝えていったんですよね。そういうわかりやすいラップに対して、コアなリスナーから反発があったのも事実です。その気持ちはわからなくはないけれど、KREVAさんがそうやってヒップホップを広げる役割を担ったことについては、いまだからこそまた見直されてもいいはずですよ。


ーーソロデビュー曲「希望の炎」(2004年)、それに続く「音色」(2004年)をMPC-4000というサンプラーで作ったと本人が語っています。この2曲は、ヒップホップ・プロダクションのプリミティブさがありつつ、メロディアスでもあるという、その後のKREVAプロダクションの一つのプロトタイプでもあると思います。いかがでしょうか?


DARTHREIDER:KREVAさんは「希望の炎」で歌うことに挑戦しますけど、それ以前のKICK THE CAN CREWでラップのリズムの面白さを見せているのが大事なんです。そういう段階を経て、フック(サビ)で歌うという曲を作っている。だから、KREVAさんの歌は、リズムと深く関係している。


STUTS:僕もこの2曲をリアルタイムで聴いていました。先ほどダースさんがおっしゃったようにKICK THE CAN CREWの頃は3人のラップのリズミカルな掛け合いが面白かったから、ソロになったKREVAさんがメロディを強調した「希望の炎」と「音色」を出された時、方向性がガラリと変わったと感じたんです。でもその後、いろいろヒップホップを聴いて、改めてあの2曲を聴くとまた違って聴こえるんです。サンプリングだけでああいうメロディアスなトラックを作って、しかもすごいポップに仕上げていますよね。オートチューンを使うのも本当に早かったです。KREVAさん独特のメロディセンスってありますよね。そのメロディセンスはインディーズの頃から全然変わらない。僕は「瞬間speechless」(2009年)もすごく好きなんです。ああいう絶妙にポップなKREVAさん節があるから、いろんな人がKREVAさんの音楽を聴くようになったのかなと思います。


DARTHREIDER:「瞬間speechless」のああいう叙情的な感じは日本の歌謡曲との親和性も高いと思う。ちなみに「瞬間speechless」はサイプレス上野のカラオケ・バージョンっていうのがあって、どこかに動画がアップされてます(笑)。


ーー探してみてください(笑)。


DARTHREIDER:「希望の炎」と「音色」のメロディは、サンプリングした短い音の組み合わせで作られていますよね。だから、やっぱり肝はリズムなんですよ。メロディアスなんだけど、歌謡曲を作る手法とは違う。ピアノやギターといった楽器を弾いてメロディを作るのではなくて、サンプラーでサンプリングした複数のパーツの組み合わせでメロディを作っている。それが当時の日本のポップスの世界では斬新だった。


STUTS:僕は2ndアルバム『愛・自分博』(2006年)を一番聴き込みました。メロウで、ミニマルで、ポップでKREVAさんのメッセージ性もすごくわかりやすいんです。『愛・自分博』の頃は当時流行していたカニエ・ウェスト的なサンプリングの早回しもやっていますけど、ただの模倣にならないで、ちゃんとKREVAさんの色が出ますよね。


DARTHREIDER:ティンバランドっぽいサウンドを取り入れていた時期もあったよね。それをKREVAさんがやるとドラムの打ち方が日本のお祭りっぽい雰囲気になったりするのも面白いんですよ。


・『嘘と煩悩』のタイトルからして“オレ自慢”


ーーライブに関してはどうですか。いまでも語り草になっているのは、例えば2014年に武道館で行われた『908 FESTIVAL 2014』の1日目の「KREVA 〜完全1人武道館〜」ですよね。ラップもDJもMPCも、シンセを弾くのも1人でやるというライブでした。


DARTHREIDER:あれは狂気の沙汰ですよ。広いステージを1人で反復横跳びみたいな動きで動き回っているのが印象的だった(笑)。


STUTS: MPCって機材、サンプラーがあんなに大勢の目に触れることもKREVAさんのライブでしかあり得なかったですよね。僕は武道館のライブはDVDで観たんですけど、たしかMPCを使ってその場でビートを打ち込んでラップしていましたよね。しかもMPCの使い方や、ヒップホップがループミュージックであることをわかりやすく解説していました。あそこまでやる方は他にいないですよね。


DARTHREIDER:“エデュテイメント”だよね。KRS・ワンが提唱した考え方で、エデュケイション(教育)とエンターテイメント(娯楽)を組み合わせた造語です。つまり、娯楽の中で聴衆を啓蒙、教育することですね。ヒップホップ・カルチャーとは何ぞやということを聴衆に啓蒙することがラッパー、MCの重要な役割だとKRS・ワンは言ったわけです。コールアンドレスポンスのやり方に始まり、曲作りの方法に至るまで、KREVAさんも自分なりの“エディテイメント”を実践しているんですよね。


ーー今年の2月に出た最新作『嘘と煩悩』を聴いた感想はどうでしたか?


STUTS:リズムに関してこれまでの作品にはない新しい試みをしていると思いました。そういう意味でタイトル曲の「嘘と煩悩」はすごく印象に残りました。あと、KREVAさんのメロディの中にある独特の哀愁やノスタルジックなものが「あえてそこ(攻め込む)」でも炸裂してらっしゃるなって。


ーー炸裂してらっしゃる(笑)。


DARTHREIDER:「あえてそこ(攻め込む)」は俺もすごい好き。STUTSは挙げないと思ってたけど、先に取られた!


STUTS:すみません(笑)。


DARTHREIDER:「あえてそこ(攻め込む)」は言語感覚も面白いですよね。韻の並べ方や言葉の選び方がKREVAさんらしい。そう、『嘘と煩悩』を聴いた時にすぐにこんなツイートをしたんです。「自分の今をビートに乗せて歌う事で自分を回想するっていうのがパーソナルラップだと思います」って。パーソナルな出来事をビートに乗っけて歌うことで思いが解放されて、それがリスナーとも共有される。それは、ラッパーがラップしている一つの理由だと思う。そういった意味ではこのタイミングでラッパーらしいアルバムを作ったんだと僕は思いました。『嘘と煩悩』の2曲目の「神の領域」のスキルも圧倒的ですね。


ーー『嘘と煩悩』でもKREVA節のセルフボースティングは健在ですけど、「あえてそこ(攻め込む)」には円熟したボースティングを感じました。


DARTHREIDER:“オレ自慢”のバリエーションをどれだけ持っているかがラッパーの一つの実力でもあるからね。


STUTS:アルバムタイトルがもう“オレ自慢”ですもんね。“嘘800”と“煩悩108”を足して、908(KREVA)になるという。


DARTHREIDER:そう。さっき話に出たKRS・ワン(KRS-ONE)は「Knowledge Reigns Supreme Over Nearly Everyone」(知識はほぼすべての人びとの上に君臨する)の頭文字から成るMCネームですけど、“嘘800”と“煩悩108”を足すと 908(KREVA)だから、『嘘と煩悩』というタイトルの付け方はそれに近い発想だよね。つまり、そういう“ラッパーマインド”から出てきたワードプレイ、言葉遊びですね。その点でもとてもラッパーらしいアルバムをこのタイミングで作ったんだなと思いますね。(取材・文=二木 信)


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