幼児なのになぜ!? 歌舞伎俳優の子どもたちが舞台を立派に全うできるワケ

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2017年05月29日 22:00  citrus

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2017年5月の歌舞伎座團菊祭五月大歌舞伎にて、女優寺島しのぶさんの長男寺嶋眞秀(てらじままほろ)くんが、初お目見えをしたことがニュースになりました。まだ4歳ながら「魚屋宗五郎」という作品で、酒屋の丁稚与吉役として立派にセリフを言い、祖父である尾上菊五郎とともに、芝居を大いに盛り上げました。5月の歌舞伎座では、眞秀くんの他にも新 坂東彦三郎の長男 侑汰くんが六代目坂東亀三郎として襲名披露をしています。こちらは、襲名披露ですのできちんと正座してのご挨拶。観客も目を細めて大喜び。やんやの大喝采でした。

 

襲名披露と言えば、2月には中村勘九郎の長男が勘太郎を、次男が長三郎を襲名し、かわいらしい二人の桃太郎でりっぱに舞台をこなしていたのも記憶に新しいところ。なんといっても歌舞伎座の公演は25日間、休みなしです。その興行を休まずやりきるというだけでもすばらしいことですね。

 

眞秀くん4歳。亀三郎くん4歳。勘太郎くん5歳。長三郎くん3歳。(襲名時)…なんとまあ、みんな幼児!幼稚園でいえば、年少さん、年中さんではありませんか。普通、年少、年中といえば日本語もおぼつかず、1日こっきりの幼稚園の発表会でさえ、ちゃんとやり遂せるのか危ういのに。事実、筆者の息子も「ああ、青い空だね」というたった一言のセリフが年少の幼稚園の発表会本番で出ず、親子で固まってしまった苦い思い出が……。どうして歌舞伎俳優の子どもたちはあんなに小さくても立派に舞台に立ち、25日間の長丁場を全うできるのでしょう。

 


■歌舞伎一家は、「一家総出の自営業」に近い?

 

それには、やはり歌舞伎大好きになる土壌があるようです。家族、いや家族ばかりか一族郎党がすべて歌舞伎を中心に生活が動いている中で、自然に「自分も舞台に立ちたい。立派な役者になりたい」という気持ちが備わってくるのでしょう。

 

では、歌舞伎中心の暮らしとは具体的にはどういうことでしょうか。一族の長である歌舞伎役者を頭に、歌舞伎のスケジュールに従って、全てが回っているということです。妻は役者にはなれませんが、裏方に徹して全面的に役者を支えます。マネージャー役でもあり、送り迎えの運転手でもあり、ご贔屓さんへの挨拶まわりなどすべてを管理しています。その他、番頭さんや部屋子、弟子などチーム一丸となって、役者を支えていくのです。そのチームに加わりたいと子どもは次第に思っていくのではないでしょうか。サラリーマン家庭よりは、「お父ちゃんを中心に一家総出でやっている自営業の家」の方が近いですね。

 


■生まれる前から芝居が好きになる

 

歌舞伎役者の家の子どもたちは、生まれる前から、歌舞伎の世界にどっぷり浸かっているといっても決して言い過ぎではありません。中村芝翫の妻、女優の三田寛子さんは、長男国生(現橋之助)の胎動を初めて感じたのは、芝翫(当時は橋之助)の芝居「土蜘蛛」を見ていたときだったそうです。それ以来、時間が許す限り歌舞伎座に通い、お腹の赤ちゃんとともにお芝居を楽しんだそうです。また、三男である宜生(現歌之助)は、物心がついたころには上の兄二人が既に初舞台を踏んでいたために留守番をすることが多かったそうですが、「ひとりで静かにテレビの歌舞伎チャンネルを見たり、歌舞伎の錦絵を見て模写をしたりしていました」とのこと。(三田寛子著「銀婚式」より)眞秀くんも、2歳のころから菊五郎(祖父)、菊之助(叔父)の出演する演目をDVDで見続けていたといいます。

 

幼児がひとりで歌舞伎チャンネル?歌舞伎の錦絵の模写??一般家庭ではなかなか見られない光景ですが、歌舞伎俳優の家庭ではごく当たり前のことのよう。さらに、しょっちゅう舞台の袖から親の舞台を見ていたり、楽屋で化粧の様子を眺めたり、家に稽古場があって、お稽古の様子を知ったりしていれば、歌舞伎が身近になっていくのも当然ですね。

 

「『怪談乳房榎』で本水(舞台で本当の水を使うこと)の舞台を見ればお風呂のシャワーを滝に見立てて子どもたちは立ち回りをやっています。僕たち(勘九郎・七之助)も子どもの頃、全く同じことをしたんです」(中村勘九郎談)

 

「いつも兄弟でお芝居ごっこをしていました。妹の松たか子が芝居が上手いのは、僕といつもお芝居をやっていたからなんです(笑)」(市川染五郎2016年12月の國學院大學の講演にて)

 

そういえば、染五郎の息子金太郎くんも、大の歌舞伎好き。家では大道具から何からお手製で芝居小屋を作り上げ、やはり妹を相手にごっこ遊びをしているそうです。今は12歳になりましたが、歌舞伎の絵の上手さには定評があります。

 


■歌舞伎役者になるかどうか決めるのは自分自身

 

とはいえ、どの家でも子どもたちを強制的に役者にさせるという姿勢ではありません。小さいころから日本舞踊などのお稽古に通わせ、アメとムチをうまく使い分けながら歌舞伎俳優への道は整えるものの、最後に決めるのは自分自身。「心底歌舞伎が好きで、自分で決めた道でなければとても務まるものではない」ということを、どの家庭もよく知っているのです。

 

思春期となり、それまで子役のお役がついていた子どもたちの背が伸び、声変わりを経験することになると、お役がつかなくなります。そこから20歳前くらいが、子どもたちもお稽古をしつつじっくりこれからのことを考える時期となります。そして、晴れて「役者としての道に精進しよう!」と自分自身で決めたとき、子どもたちはグンと成長するのです。一般家庭とはちょっと空気感が違う歌舞伎俳優の家。けれども一家をあげて、一日一日真剣に歌舞伎という伝統芸能に向き合っているからこそ、子どももしっかりと舞台を務めることができるのですね。

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  • 「こんな仕事、自分の子供には絶対やらせない」と思っていたら、そういう結果になっていただろう。
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