『ザ テレビジョン』によると、5月24日、ゲストに良かれと思って、さまざまな人からの愛のある意見を受け入れてもらおうという、おせっかいバラエティ『良かれと思って!』(フジテレビ系)に松本伊代と早見優が出演した……らしい。
「愛のある意見を受け入れてもらおう」「おせっかいバラエティ」『良かれと思って!』というタイトル……と、いかにもつまらなそうなオーラがどんよりただよう番組コンセプトのオンパレードで、案の定この日のメインテーマは「線路立ち入り事件で世間を騒がせた2人が、過去35年間のアイドル人生であった他の軽率行為を振り返り、謝罪する」という“切り売り感”満載のしょぼい内容だったようだが、そんななかで唯一「ああ、懐かしいな…」と引っかかったキーワードが(ザ テレビジョンによる)番組リポートにあったので、今日はそれについて書いてみたい。
今から33年前。すなわち、松本伊代がまだ18歳のバリバリアイドルだったときにやらかした「まだ読んでないんですけど」事件である。おそらく40代以前のcitrus読者の皆さまは、なんのことやらさっぱりわからないだろうから、軽く説明を加えておこう。
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当時の人気バラエティ番組『オールナイトフジ』で、松本が自身のエッセイ集『伊代の女子大生モテ講座』の宣伝告知をした際、「私も今日初めて見たんで、まだ私も読んでないんだけど」と失言。MCの片岡鶴太郎に「自分で書いたんじゃないの?」と聞かれ、「いいじゃんそんなの何だって!」と逆ギレした。
……というあらましで、『良かれと思って!』での松本の告白によると、そのあとマネージャーから「なんであんなこと言ったんだ!」と激しい叱責を受けたのだそう。
まだ「たとえタレント本でも著者が本人の名前であるかぎり、本人が書かなきゃダメ!」みたいなモラル観がまかり通っていた大らかな時代であった。ある意味、感慨深ささえおぼえる微笑ましいエピソードだ。
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昨今は、タレントやスポーツ選手のエッセイや自叙伝だけじゃなく、著名な文化人が出版するノウハウ本ですら、一部を除き「口頭筆記したものを、いわゆるゴーストライターが文章にまとめ上げる」といった“分業”が主流となりつつあり、たまに「自分で書きたい」とのこだわりを持つ著者がいても、その元原稿は担当編集者によってズタズタに赤入れ、改ざんされてしまうので、結局は編集者がゴーストライターの役割を兼ねているだけ……だったりする。また、そういう内情は読者側も“暗黙の了解”として受け入れており、ゴーストライターがバックに控えていようが“表の著者名”に違和感を抱く者も、もはやほとんどいないだろう。あの佐村河内ケースみたいに根底から丸投げしちゃうのは、さすがにアウトだが……(笑)。
ちなみに、私もゴーストライターってやつを何度かやったことがあるのだけれど、ギャラの面さえ折り合えば、これはこれでけっこう面白い仕事だったりする。
口頭筆記に費やす時間は人によってまちまちだが、それなりに長い時間、著者との濃密な関係を集中的に築いていくわけで、すると、どこかのタイミングで突如「著者が私に降りてくる」、表現を変えれば「著者が憑依する」のである。そして、憑依されたら最後、立ち振る舞いから口調、口癖はもちろんのこと、文体までもが“そのヒト風”へとスイッチされ、ものすごいスピードで私は別人へと変身していく……。
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自分になにか新しいモノを取り入れたい──そう考えたとき、少なくとも私にとってゴーストライターはもっとも即効性の強い、劇薬的な仕事であり、そこで私の名前が表に出るとか出ないとかは些末な問題でしかない。やはり表に出るべきなのは憑依した側なのである。愛しい亡き者の声を代弁するイタコが自身の名前を語ってどーする? つまりはそーいうことではなかろうか。