「食育」がうたわれ始めてずいぶん経ちますが、厚生省の思惑とは裏腹に子どもの味覚が低下しているというデータが出てしまったようですね。
味覚の形成に大きく影響を与えるのは、5歳までの食事なんだそうですが、味覚が低下しているということは5歳までに「多彩で繊細な味」に触れていないということです。
離乳食の指導の時に保健師さんがおっしゃっていましたが、「甘味」は一番刺激が強く子どもがすぐに好んでしまう味なので、「甘味」を覚えさせるのは一番最後でできるだけ遅らせた方がよいということでした。
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味覚は「舌」で感じるわけですが、甘味や苦味を感じる「舌」の場所は味によって異なっています。なので、特定の味ばかり感じていると、その味を感じる部分の舌の感覚は育ちますが、それ以外の場所は機能していないことになります。
また、舌で感じた味を情報として処理するのは「脳」ですが、脳は強い刺激を受け続けると段々とその刺激に慣れてきて、それ以下の弱い刺激に反応しなくなっていきます。
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今の子どもたちの食生活や、原材料となる食品の質を考えると、調査結果は納得のいくものではあります。小さい頃からジャンクフードに触れる機会が多く、天然の素材の味に触れる機会は減っています。また、素材そのものの味を感じさせようと思っても、土壌が劣化しているので食材の味を十分に味わう機会も減っています。
単純に濃い味付けに慣れているというだけではなく、化学調味料で調合された「美味しく感じる味」には天然素材が持つ繊細なバリエーションはありませんから、微妙な味の違いが分からなくなってしまうのです。自分にとって「美味しいと感じる味かどうか」だけが分かる状態になってしまいます。
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子どもの味覚を正常に育てることは、その子の将来の健康にとっても重要です。5歳までの味覚をきちんと育てれば、たとえ一時的にジャンクフードに触れる機会が発生しても、体に害のある食べ物を心から「美味しい」とは感じなくなります。
どのような食事が正しい味覚を形成するのか、注意すべきことは2つだけだと思います。
1つは、合成された「うまみ成分」にできるだけ接触させないこと。普段の調理に使う調味料にも注意が必要ですし、レトルト食品やファストフードに触れさせるのはできるだけ遅くそして機会を少なくすることです。
もう1つは、幼児食になるまでの間に、素材そのものの味にできるだけ触れさせること。そのためには、素材の味が感じられる食材を選ぶ必要があります。残念ながら、近所のスーパーに売っているニンジンでは、ニンジンが持つ「甘味」は感じられないかもしれません。せめて離乳食期間だけでも「ちゃんとした食材」が手軽に手に入るようになってくれたらいいのですが、今のところ食材の調達は個人の努力でカバーするしかなさそうです。
子どもの「食育」には多少手間がかかります。毎日コンビニでお惣菜を買ってきたり、ファストフードでランチを済ませていたのでは、正常な味覚を育てることは難しいと言わざるを得ません。
でも、上手に手抜きをすれば、完璧な食育は無理でも「普通に」味が分かる程度の舌を育ててあげることは可能だと思います。もっと言えば、お母さんが忙しかったら、食事を提供するのは代わりの人でもいいのです。
一番味覚が磨かれていく離乳食から幼児食期間だけでも、繊細で多彩な「天然の味」を子どもたちに提供してあげて欲しいなと思います。
※情報は2016年10月7日現在のものです