【手塚治虫『W3』舞台化 俳優 川原一馬インタビュー「台本のない舞台」への挑戦の画像・動画をすべて見る】
『Amazing Performance W3』アンバサダーとして、タレントのベッキーさんが就任。イベントにも登壇した。
KAI-YOUでは、本作のキャストをつとめる、2.5次元舞台にも出演している川原一馬さんにインタビュー。
「台本のない舞台」「演出家と俳優みんなで考える演出」という、本作のユニークな魅力から、『W3』に込められたメッセージ性や川原さんの人間観にまで話が及んだ。
ベッキーも駆けつけた『Amazing Performance W3』
『Amazing Performance W3』は、手塚治虫さんの漫画『W3』を原作にした舞台。
|
|
今回、ベッキーさんがアンバサダーに就任したのは、デビュー当時に書籍『手塚治虫キャラクターグッズコレクション』で鉄腕アトムと表紙を飾っていた過去があるという縁から。「わたしの記憶が正しければ、芸能生活における初表紙」とベッキーさんも語った。
ノンバーバルということで、「国籍や言語にとらわれない唯一無二のエンターテインメント」として世界に発信できるコンテンツを目指しているという『Amazing Performance W3』の魅力を余す所なく伝え、活動休止から今まさに新しい一歩を踏み出し、国際感覚にも長けたベッキーさんが適任とされたとのこと。
ベッキーさんは『W3』を「何十年も前に書かれたものだけど、今を生きる私たちへのメッセージも詰まっていて、手塚先生からの私たちへの手紙」だと語った上で、「これをノンバーバルで舞台化ってどうやるんだろう? というワクワクがあります」と舞台化に期待を寄せた。
当日は、ウォーリー木下さんや、キャストの西島数博さん、フィリップ・エマールさん、川原一馬さんも登壇し、それぞれの意気込みや魅力を語った。
|
|
演劇でもダンスでもない、フィジカルシアターに近い実験的な新しい作品
『Amazing Performance W3』は、原作をまるごと舞台化するのではなく、インスパイアーされた舞台という位置付けだ。
言葉に頼らずに直感的な見せ方をするノンバーバル演出はもちろん、舞台版『W3』の最も奇妙な点は、「台本のない舞台」というところだろう。
単に物語をなぞるのではなく、プロジェクションマッピングやパペット、マジックを取り入れたり、小道具で影絵を表現したりと、自由な発想で『W3』という世界を舞台上につくり上げていく。
「(漫画の舞台化という意味では)いわゆる2.5次元舞台に近いのでしょうか?」という司会の質問に対し、ウォーリー木下さんは「一枚の絵を何枚も連続で見せる、アニメに近い表現」とした。
1ヶ月前から始まっている稽古でも、「原作のこのシーンをこういう風に表現してみようか」と、俳優と相談しながら、今まさにみんなで手探りながらつくっているステージだという。
|
|
イベントでは、今取り組んでいる最中のシーンの一部も映像公開された。
川原一馬さんインタビュー「本当に説明が難しい舞台」
『Amazing Performance W3』は、なんとも不思議な舞台だ。
映像を見ると、確かに、銀河連盟から派遣されて動物に姿を変えた調査隊員・W3たちの姿はその舞台上に確認できたが、いわゆる“演劇”とは全く異なる演出が展開されていた。
ウォーリー木下さん演出の舞台には、ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』でもキャストとして参加している川原一馬さんも、「本当に説明が難しい舞台」と語る。
そもそもセリフのない舞台も初めてだという川原さんは、「セリフなしで僕に何ができるだろう」と感じたそうだ。
「でも、ウォーリーさんが『このキャストだったら、一緒にクリエイターとして舞台をつくっていける』とおっしゃって、救われたというか。今は、自分が思いついたことをとにかく提示していこうとしています」(川原一馬さん)
稽古が始まって一ヶ月。大きなプロットがあるだけで、セリフどころか台本もない。演出家とキャストがアイデアを出し合いながら、台本そのものをつくりあげていく日々だという。
「毎日がエチュード(即興の一種。習作劇)」。川原さんは、『Amazing Performance W3』の稽古場をそう表現した。
この日、ウォーリー木下さんからは「2.5次元演劇ではないけれど、漫画パフォーマンスにしたい」という話が出ていた。漫画パフォーマンスとは何か。
「一つには、漫画的表現を人力でやってみる。例えば手塚さん作品だったら、漫画内のコマをキャラが突き破る特徴的な表現などを、どう舞台として表現するかを考えています」(川原一馬さん)
奇妙な点はまだまだある。現在、キャストは決まっているものの、なぜか配役は発表されていない。川原さんも主に、W3の一人であるプッコを演じるというが、あくまで「主な配役が決まっているだけで、僕が他のキャラを演じることもあるし、他の方がプッコを演じることもあります」と語る。
それほど流動的な現場だということがうかがえるエピソードだ。
「僕たちもプロのパフォーマーとして、みんながチャレンジしています。僕たち自身にもたくさんの負荷がかかるだけ、それができるようになった時に新しいパフォーマンスになるはずです」(同上)
もし自分が地球の命運を握っているとしたら?
原作の『W3』では、反陽子爆弾を携えて地球にやってきたW3の目を通して、国家間の対立から、人間同士の小さないさかいまでが描かれる。人間は滅びるべきか否か、審判を下すためにその実態を観測する宇宙人たち。
そこに、民族間や人種間の対立感情が高ぶっている現代と共通するテーマを読み取ることもできる。
しかし、と川原さんは語る。
「確かに、『W3』を、今の僕たちを取り巻く現実と置き換えることもできます。世界の首脳とそこから孤立している国を、僕たちの目から見ている感覚です。
けれど、手塚さんの作品は、僕の好きな『アドルフに告ぐ』と同じように、いろんな見方ができると思っています。そこに強いメッセージを受け取る人もいればエンタメとして見る人もいて、『Amazing Performance W3』では、その捉え方は限定したくないんです。あくまでわかりやすく、ポップに」(川原一馬さん)
ノンバーバルで身体的な舞台と聞くと、アーティスティックな表現を連想するかもしれないが、この舞台は「スタイリッシュより、可愛い作品としてもっていきたいとチームで話しています」と宣言。
ズシンとくるメッセージではなく、あくまで軽やかに。
「たくさんの人に見てもらいたいという思いがあるから、子供からおじいさんおばあさんまで楽しんで観られる作品にしたいと思っています。できるだけわかりやすく、エンタメに寄せていますが、やっていることは尖ったアプローチにできればいいですね。
人力での演出が多いので、できることには限度がある。まだ空想段階でどうなるかわからないところも多いのですが、そこにマジックやプロジェクションマッピングが加わることで、観る人が驚くような体験を、こまごました仕掛けを用意できると思います。ぜひ見逃さずにみてほしいです」(川原一馬さん)
ちなみに、もし川原さんがW3と同じく地球の命運を握っているとしたら、どういう決断を下すのだろうか。
「もし今の世界に置きかえたとして、僕だったら、反陽子爆弾は押さないですね。
人は、遠くにいればいる存在ほど、敵視しやすいし、事前情報で判断してしまいがちですよね。でも、会って話してみないとわからない。
『この人バカっぽいけど実はすごい考えてる』という人もいるし、『大人しい良い子に見えて実は口が悪い』人もいて、見かけや情報じゃない。触れ合わないとわからないという人たちがいるということをもっと大切にしてほしいと思うんです」(川原一馬さん)
原作のクライマックスでは、W3も、命令を無視して反陽子爆弾を放棄し、地球を滅ぼさないまま銀河連盟の元へと戻る。
「地球は原始的ですさんでいますけど人間の心の中にはまだすくいが残っていました」(『W3』3巻201P ポッコの台詞より)
その後に待ち受けるW3の運命は数奇と言う他ないが、異種交流ものにして、主人公の真っ当な成長物語でもある『W3』が、気鋭の演出家やキャストの手でどのように舞台化されるのか楽しみだ。