ドイツでタイ国王がBB弾で「狙撃」、これがタイなら......

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2017年06月22日 19:03  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<タイ国王が狙われた理由としては非常に不敬な噂も飛び交っている>



タイのワチラロンコン国王が滞在先のドイツで自転車に乗ってサイクリングをしていたところ、ドイツ人少年ら2人がエアガンを国王に向けて発射する事件が起きていたことが明らかになった。


ドイツ語紙などの報道を総合すると、6月10日夜、ミュンヘン郊外でサイクリングをしていたワチラロンコン国王に対して、ドイツ人の13歳と14歳の少年2人が、ソフトエアガンといわれるおもちゃのモデルガンからプラスチック製弾丸(いわゆるBB弾)を発射したという。地元紙やネット情報では舗装された狭いサイクリングロードから約8メートル離れた樹木の木陰から国王を狙撃しようとしたものとみられている。


弾は国王には当たらなかった模様で、周囲にいたタイ側の警備員や同行者にもけが人はいなかった。ワチラロンコン国王自身は訴える気はなかったとされるが、「国王に向けて銃を発射」という行為自体を重く見たタイ側の警備陣がその後警察に届け出たという。


BB弾がその場にいた誰かに当たったのか、何発発射されたのか、相手がタイ国王であることを少年らは知っていたのかなどの詳細はいずれも不明だ。


地元バイエルン州検察局は地元紙に対し、けが人はいないものの人に対してモデルガンの弾を発射していることから傷害未遂事件として捜査していることを明らかにしている。容疑者2人のうち13歳の少年はドイツの法律で責任能力が問えないため14歳の少年だけを調べているという。


撃った相手がタイ国王あることと捜査はあくまで無関係であると強調、タイ側からの圧力を否定している。


厳然と存在する王室への不敬罪


昨年10月のプミポン国王の死去を受けて後継国王となったワチラロンコン国王だが、ミュンヘン南西のスターンバーグ湖畔にあるタイ王室所有の豪華な別荘で過ごすことが多い。同別荘を巡ってはプミポン国王死去でタイ王室に巨額の相続税が地元税務当局から請求されているもののタイ側、ドイツ側も細かいことに関してはノーコメントを貫いている。


ワチラロンコン国王に関しては上半身の入れ墨、2度の離婚、若い女性とのスキャンダル、愛犬への異常愛(犬に空軍の階級を授けた)、誕生日のパーティーで夫人だけ全裸での参加を強要などプライバシーに関する種々雑多な情報、報道が入り乱れている。


しかし、タイは国王や王室に関して厳しい報道規制があり、国王や王妃、王位継承者など一族のプライバシーや名誉に対する「不敬罪」(刑法112条)が現在も厳然として存在する。2014年5月のクーデータで軍政が政権を担って以来これまでに不敬罪での逮捕者は100人以上に上っている。最も最近の事例としては、6月9日にフェイスブックで王室に批判的な書き込みを10件行った不敬罪で、33歳のタイ人男性が禁固35年の実刑判決を受けている。


これは王室批判とともに政府批判も封じ込めたいとする軍政がネット上での監視も強化していることの反映で、最近ではフェイスブックでの不敬な書き込みやスキャンダルに「いいね」を押しただけでも罪に問われかねない事態となっているという。


未確認情報あふれるネット


こうした国内事情のためタイ国内では今回の「国王狙撃」のニュースはほとんど報じられていない(英BBC放送が初めてタイ語サイトでニュースを報じた)。しかし多くの国民はインターネットなどの各種サイトで「事件」を知り、口をつぐんでいるという。


今回の「狙撃事件」にはネット社会を反映して尾ひれがついており、事件当日ミュンヘンでは全裸で自転車に乗る「ヌード・サイクリング」のイベントが開催されていたという情報がある。そしてワチラロンコン国王自身もこのイベントに全裸で参加し、イベント終了後にも取り巻きを引き連れて「夜に全裸でサイクリングしていた」ところを狙撃されたというのだ。もっともいずれも「あくまで未確認情報である」との注釈付きであるが。


タイ軍政や王室からはこの件に関してはこれまでのところ一切のコメントも反応も出されていない。そして事件の内容が内容だけに今後もタイ国内では、多くの国民が知りながら「存在しなかった出来事」となることは間違いない。


ワチラロンコン国王の即位式はプミポン前国王の喪が明ける今年10月26日に執り行われる予定だ。


[執筆者]


大塚智彦(ジャーナリスト)


1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など


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大塚智彦(ジャーナリスト)


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