【中年名車図鑑】バブル期に生まれ、バブル崩壊で延命…時代に翻弄された「Zカー」

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2017年06月27日 18:00  citrus

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写真の2シーターと2by2の2タイプのボディタイプをラインアップ。搭載ユニットは3リッターV6

好景気で華やいでいた1980年代終盤の日本の自動車市場。豊富な開発資金を有する自動車メーカーは、市販モデルのハイテク化を精力的に推し進めていく。日本屈指のスポーツモデルである日産自動車のフェアレディZも、渾身のフルモデルチェンジを1989年に敢行した。今回は“スポーツカーに乗ろうと思う”というストレートなキャッチコピーを冠して登場した4代目フェアレディZ(1989〜2000年)で一席。

 

 

【Vol.22 4代目 日産フェアレディZ】

後にバブル景気と呼ばれる空前の好況に沸いていた1980年代終盤の日本の自動車業界。豊かな開発資金をバックボーンに、各自動車メーカーは自慢のハイテクを駆使した新型車を相次いで企画していく。なかでも日産自動車の取り組みは精力的だった。パイクカーやハイソカーなどの大ヒットで売り上げを伸ばし、さらに既存ブランドの全面改良も矢継ぎ早に実施する。また、1985年より社長に就任していた久米豊氏の大号令のもと、「90年代には技術の世界一を目指す」という“901運動”の旗印を掲げ、設計や開発部門などで大々的に展開していた。

 

 

■走りを純粋に追求したZカーの開発


この運動のなかで、とくに重視されたのが“ハイテク技術の固まり”というキャラクターを有するスポーツモデルの開発である。どんなクルマよりも速く走れ、かつシャシー性能が高い。しかも、その高性能を秘めている事実が内外装からも瞬時に理解できる――。この設計方針は、そのまま次期型フェアレディZの開発へと転換され、やがてR32型系スカイラインとともに901運動のシンボルとなっていった。


新しいフェアレディZを企画するに当たり、開発陣は一端すべてを白紙に戻し、ゼロの状態からの理想的なスポーツカーを模索する。得られた結論は、“走り”の機能の純粋な追求だった。この走りとは、単に速さだけを示しているのではない。アクセル操作に俊敏に反応し、しかもシャープに吹け上がるエンジン、ステアリングに舵角を与えたときの俊敏なノーズの動き、緻密に動いて剛性も高いサスペンションなど、ドライバーがスポーツドライビングを心底楽しめる“走り”を目指したのである。

 



まずエンジンに関しては、シリンダーブロックやクランクシャフトを新設計し、ツインインテークおよびツインエグゾーストシステムなどの新機構を組み込んだVG30DE型2960cc・V型6気筒DOHC24Vと、これにツインターボ&インタークーラーを加えたVG30DETT型を開発する。パワー&トルクはVG30DETT型が280ps/39.6kg・m、VG30DE型が230ps/27.8kg・mに達した。組み合わせるトランスミッションは、2速と3速をダブルコーンシンクロ化したリモートコントロール式の5速MTとフルレンジ電子制御タイプの4速ATを用意。VG30DETT型+5速MTのクラッチには、バキュームタンクを持った専用ブースター(倍力装置)を組み込んだ。

 


写真は2by2。2シーターとは給油口の位置が異なる


シャシー面では、専用チューニングの四輪マルチリンクサスペンションに先進の後輪操舵システムである“スーパーHICAS”を装備(VG30DETT搭載車)する。パワーステは油圧制御バルブを2つ設けた電子制御式。ブレーキにはアルミキャリパーを奢り、フロントが対向4ピストン、リアが対向2ピストンの4輪ベンチレーテッドディスクとした。ボディに関しては新デュラスチール材やアルミ材を多用したうえで、キャビンフォワードにショート&タイトオーバーハング、ワイド&ロープロポーション、コーンシェイプでスタイリングを構築する。空力特性も重視し、空気抵抗係数(Cd値)は0.31、フロント揚力係数(Clf値)は0.06、リア揚力係数(Clr値)は0(リアスポイラー装着車)という優れた数値を達成した。ボディタイプは従来と同様に2シーター(ホイールベース2450mm)と2by2(同2570mm)を用意。気軽にオープンクルーズが楽しめるTバールーフも設定した。

 


大きく傾斜したセンターコンソールでスポーティなコクピットを演出。同時期にデビューしたS13シルビアにも通じるデザインだ


インテリアについては、「気持ちの昂りをおぼえる刺激的なスポーツカーテイスト」をテーマに各部をアレンジする。具体的には、ヒップポイントを下げた低いドライビングポジションと高減衰ウレタンを内蔵した専用バケットシート、ドアタワーに組み込んだ前席シートベルト、スポーティで質感が高く、しかも視認性と操作性に優れるインパネなどを採用した。また、チタン製のイグニッションキーやアルミ材の車載ジャッキ、BOSEサウンドシステムなど、装備品にも徹底的にこだわった。

 


2シーターモデルのインテリア。スポーツカーらしくヒップポイントは低めに設定されている

 

■“280馬力規制”はフェアレディZが基準となった


4代目に当たる新世代のフェアレディZは、まず1989年5月にアメリカでデビューし、その2カ月後にZ32の型式を冠して日本に投入される。車種展開は非常にシンプルで、2シーターと2by2の2ボディにVG30DE型とVG30DETT型の2エンジンを用意。ルーフ仕様は2シーターが標準タイプとTバータイプを、2by2がTバータイプのみをラインアップした。

 


1992年には2シーターモデルをベースにしたコンバーチブルが登場


新世代に切り替わったフェアレディZの中でユーザーが最も注目したのは、当時のMAXパワーの280psを誇るVG30DETT型エンジンを搭載したモデルだった。力強い加速に高いスタビリティ性能、そしてクルマとの一体感が感じられるコクピットの演出など、ドライビングの楽しさを追求する姿勢がファンから熱い支持を集めたのである。一方、時の行政府からはフェアレディZを含めたクルマのハイパワー化に疑問が呈される。当時は“第2次交通戦争”と呼ばれるほど交通死亡事故が急増し、大きな社会問題となっていた。この問題を解決するには、日本の自動車メーカーのパワー競争に歯止めをかける必要がある――。そう判断した運輸省を中心とする役人は交通事故非常事態宣言を発令し、自動車工業会および自動車メーカーに対策を命じた。その一環として実施されたのが、最高出力の自主規制。当時の最高出力車は280psのZ32型系フェアレディZなどで、この出力を上限とする取り決めが各メーカーのあいだで成されたのである。結果的に“280馬力規制”は、14年あまりに渡って継続された。

 


バブル崩壊、RVブームといった外的要因があり、結果的に4代目Zは11年にわたって生産された

■バブル崩壊、RVブームでで異例のロングセラーモデルに


バブル景気の波に乗り、デビュー当初のZ32型系フェアレディZは好調な販売成績を記録する。車種バリエーションも増え、1992年8月には2シーターオープンの「コンバーチブル」を追加した。このままの勢いが続くかに見えた4代目Zカー。しかし、外的要因がそれを阻害する。バブル景気の崩壊やレクリエーショナルビークル(RV)ブームの到来だ。さらに、最大の市場となる北米でのスポーツカーに対する車両保険の掛け金高騰によって、Zカーの販売台数は大きく落ち込む。この傾向とリンクするように、日産自体の業績も悪化の一途をたどった。


一方で会社の経営逼迫やRVブームは4代目フェアレディZにとって、ある意味で幸運をもたらした。業績悪化によって開発資金は削減され、限られた資金もワゴンやSUV、ミニバンなどのRVに当てられたため、Zカーの大幅なモデルチェンジが実施されなかったのだ。結果的にZ32型系フェアレディZは、細かな改良や車種追加(バージョンSやバーションRの設定など)を行いながら、2000年9月まで生産が続けられる。その期間は実に11年あまり。先進の高性能と強いインパクトが要求される国産スポーツカーとしては、異例のロングセラーモデルに至ったのである。
 

【中年名車図鑑】

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Vol.6 5代目マツダ・ファミリア

Vol.7 初代スバル・レガシィ

Vol.8 2代目いすゞ・ジェミニ

Vol.9 初代・三菱パジェロ

Vol.10 5代目・日産シルビア

Vol.11 初代/2代目スズキ・アルト・ワークス

Vol.12 2代目マツダ・サバンナRX-7

Vol.13 2代目トヨタ・セリカXX

Vol.14 初代ホンダ・シティ

Vol.15 6代目・日産スカイライン2000RS

Vol.16 スバル・アルシオーネ

Vol.17 初代いすゞ・ピアッツァ

Vol.18 三菱スタリオン

Vol.19 ホンダ・バラードスポーツCR-X

Vol.20 4代目トヨタ・カローラ・レビン/スプリンター・トレノ

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このニュースに関するつぶやき

  • スポーツカーって1人で楽しむから助手席要らなく無い? 人馬一体を目指すなら運転席を真ん中に設置すべきだと思うんだ。
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