シリア東部はアサドとイランのものにすればいいーー米中央軍

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2017年06月28日 22:02  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<有志連合を率いる米中央軍から重大発表。ISISさえやっつければ土地はアサドのもの。米軍は速やかに撤退する──戦後復興はまたしないらしい>


ISIS(自称イスラム国)掃討作戦を進める有志連合の米中央軍報道官ライアン・ディロン大佐は先週、アメリカのシリア政策に関する重大発表を行った。


彼はイラクとの国境に面したシリア東部の町アブカマルに言及し、次のように語った。


アブカマルでISISと戦う意欲と能力がバシャル・アサド大統領とシリア政府軍にあるのなら、歓迎する。有志連合の目的は土地を争奪することではない。


我々の使命はISISを撲滅することだ。もしアサド政権が我らと協調し、アブカマルやデリゾールなどの町でこの使命を果たしてくれるなら、我々が同じ地域に出ていく理由はなくなる。


この発言の重大性は見過ごせない。アサド政権とそれを支援するイランは、シリア東部のどこでも好きな土地を取ってよい、と言っているのだから。


【参考記事】アメリカはシリアを失い、クルド人を見捨てる--元駐シリア米大使


米中央軍は、シリア東部にシリア政府軍の影響力が及んでいるのは、レバノンやイラク、アフガニスタン出身の民兵を率いるイランの力が大きいからだと認識している。


アサド政権が、その悪政でISISの台頭を許し、象徴的な敵として維持する一方、汚職が蔓延し機能不全で残忍なアサド政権に対して広がりつつあった反乱を、ロシアやイランの助けを借りて潰そうとしたこともわかっている。


アサドの復活は誰も望まない


米国務省のブレット・マクガーク特使がシリア住民から聞いたISIS支配下の悪夢も、米中央軍は否定しないだろう。それでも一人の住民はこう言った。「アサド政権の復活を望む人は皆無だ。アサド政権のシンボルや政府軍の復活も望まない」


アサド政権は悪政を敷きシリアを崩壊寸前に陥れ、イスラム過激派はその混乱の中で成長した。それでも米中央軍は、ISIS掃討に向けて「協調」するなら、アサド政権がシリア東部を再び統治下に置くのを歓迎するという。


その場合、欧米がシリアで得る収穫は、イラクのフセイン政権を支えたバース党と魂の行き場を失ったイスラム教スンニ派が大半を占める犯罪集団を無力化できることだ。その集大成が、ISISがカリフ国家の「首都」と称するシリア北部ラッカでの戦いだ。


【参考記事】ISIS戦闘員を虐殺する「死の天使」


米中央軍にとっては、ラッカでISISを掃討することがすべてなのだ。ISISが二度と復活しない環境を整えることは、たぶん他の誰かの仕事だと思っている。


軍司令部が本能的に自らの任務を限定したがるのは理解できる。だが米中央軍の司令官たちは、2003年のイラク戦争や2011年のリビア内戦の後、復興安定化計画を欠いたために起きた混乱をあまりによく知っている。


米中央軍は、2017年のシリアは当時のイラクやリビアとは違うと考えているようだ。米軍は対ISIS掃討作戦の地上戦の「パートナー」であるクルド人主体の反政府勢力「シリア民主軍(SDF)」を支援しているだけなので、内戦後のシリアを統治する責任はSDFにあるという考え方だ。


もしイスラム教スンニ派が大半を占めるシリア東部を統治するのが、クルド人やアラブ人の外国人部隊には無理というなら、アサド政権やイランがまとめて支配すればよい、という考えなのかもしれない。


反政府勢力と協力し、シリア東部に持続可能な非アサド政権を作ってテロの再燃を防ぎ和平協議を取り持つのは、「我々の仕事ではない」と、米中央軍は言っている。


米軍も地上戦を戦うべきだった


シリアでISISに対する勝利を確実なものにすることにいたっては、誰の仕事でもなさそうだ。ドナルド・トランプ米大統領はバラク・オバマ前大統領と同じく、アサド政権の本性を知っている。テロや過激主義の温床で、地域を不安定化し、遠いヨーロッパまで毒をもたらす。


だがトランプはオバマと同様に、米中央軍の導くまま、ISISとの戦いを米軍を含むプロの地上部隊ではなく、クルド人主体のSDFに任せきりにした。SDFはよほどの幸運に恵まれない限り、ラッカ奪還に大きな苦戦を強いられ、彼らがシリア東部の真の戦利品とみなす産油地デリゾールの獲得も困難と知ることになるだろう。


どちらにしろ米中央軍はISISが消え次第、撤退する。デリゾールがアサドとイランの手に落ちようとお構いなしだ。


もし対ISIS地上作戦で有志連合が最前線に立っていれば、ISISはとうの昔にシリア東部から消え、アサドに代わる統治が始まっていただろう。アメリカがSDFに依存して内戦を長引かせた結果、ISISの寿命は2年以上延びた。その間にISISは、トルコや西ヨーロッパで大規模なテロ攻撃を計画、実行した。



そして今度は、ISIS消滅後の空隙をイランとアサドが埋めるよう手を貸している。


イランがシリアで影響力を拡大するのはアメリカの国益に反する、というトランプ政権の見方は正しい。だが米中央軍が明かしたシリア政策は、イランとアサドがシリア東部を支配しても一向に構わないと言っている。SDFを攻撃せず、対ISIS掃討作戦で「協調」するという条件を満たしてさえいれば。


【参考記事】米国はシリアでイスラーム国に代わる新たな「厄介者」に


もし米政府が米中央軍のアプローチで満足しているなら、イランとアサド政権にとっては朗報だ。ロシアが喜ぶのは言うまでもない。


苦しくスローモーションのようなシリアでの対ISIS掃討作戦を通じてアメリカが最終的に成し遂げるのは、シリア全土をアサドやイランにとって安全な国にすることだろう。


イランを罰すると意気込んできたトランプ政権にとってそれは目を見張る変節で、急速な後退の始まりだ。


(翻訳:河原里香)


This article first appeared on the Atlantic Council site.


Frederic C. Hof is director of the Atlantic Council's Rafik Hariri Center for the Middle East.




フレデリック・ホフ(大西洋協議会中東センター上級研究員)


このニュースに関するつぶやき

  • また、戦後のことを一切考えないのか。どれだけ失敗すれば気が済むのだ。撤退は最も重要な戦略の一つ。戦争したければ戦後処理を考えろ。
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