欲しいと思える服は、お店で買い物しているときに見つかるとは限りません。街ですれ違った人や、テレビや雑誌などで芸能人が着ている服など“欲しくなる瞬間”は暮らしのなかで偶発的に芽生えます。そして気になる服が生まれる瞬間とは、着ている自分を少なからずイメージできたときだと私は考えます。
しかし、どこで売っているかわからないから探しようがない……。そんな経験は誰しもあるのではないでしょうか。のべ4000人を超えるビジネスマンの買い物に同行してきた服のコンサルタント™(パーソナルスタイリスト)の私が、昨今注目を集めているスマートフォン上での「ビジュアルコマース」という新たなショッピング体験についてお話しします。
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■話題のビジュアルコマースアプリ、精度は微妙?
将棋などゲーム性のあるものから、自動車という実生活に影響をあたえるものまで、様々な分野で人工知能(AI)の話題が報じられています。いきなりAIの話?と思われた方もいるかもしれませんが、今回お話するビジュアルコマースにはAIの可能性も関わってきます。
ビジュアルコマースとは、インターネットの閲覧やInstagramなどのSNSでの写真や動画を用いたコミュニケーションのなかで購買意欲を刺激し、目的の商品まで誘導するというショッピングのことです。
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先日発表されたアプリ「PASHALY(パシャリィ)」はスマートフォンのアプリ上で画像を分析し、画像のなかで着ているものと似た服をAIが自動で探してくれるというもの。これで、欲しいと感じた瞬間を逃さず服をチェックできるようになりそうです。
欲しいと思う瞬間と購入の検討までのスパンが縮まることで、普段ファッションに興味がない人でも、買い物したいという気持ちをそのままに行動まで移すことができる──シンプルに考えただけでも画期的な変化ではないでしょうか? 早速、ダウンロードしたアプリで、いろいろな服の画像を試してみました。
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10枚程度の写真を読み込んだ時点で、あれ……? レディースの商品ばっかり出てくるぞ? そう、アプリが探してくれた検索結果はレディースの服に行き着くことが多く、メンズの服に紐づく確率が低かったのです。男性が利用するには、まだこのあたりは要検討って感じですね。
また、このアプリは同じものを探すというより「サーチエンジンのサジェスト検索」に似た動きをするように感じました。たとえば、ネイビーの長袖シャツをアプリに通したところ、ネイビーのロンT、ダークカラーの黒いシャツなど出てきます。探している服自体は出てくる確率は高いとは言えませんが、派生する他のアイテムから新たな着こなしのインスピレーションが生まれるかもしれません。
ネイビーのシャツを撮影したのに、出てきたのはレディースのアイテムだったりカットソーだったり……
画像を分析し、同じものはなかったとしても似たような服が出てくるからこそ、自分のなかになかったアイデアが生まれる──現時点では、ファッション初心者のためのアプリというより、普段のマンネリを解消するためにいつもと異なる服を着てみるというニーズを満たすためのツールとして有効性が高いように感じました。
■ブランド物のバッグをスキャンしてみたところ…
ではブランド物をスキャンしたら、どんな検索結果が出てくるのでしょうか? モノグラムが印象的なMCMのトートバッグを試してみました。バッグ全体にロゴが散らばる小紋柄のバッグが複数並びました。その大半はただの柄物でしたが、その中に本物のMCMが1件該当したのです。
ネイビーの長袖シャツの検索結果から精度を考えるならば、本物が出るとは思っていませんでした(笑)。基本的にヤフーショッピングと紐づいているようなので、ヤフーに出品されていない場合は検索にヒットしないと思われますが……。ここは改善の余地が十分にあるところなので、今後のアップデートを期待したいところです。
■見直されるコーディネートの重要性
「PASHALY(パシャリィ)」では、画像と全く同じものを望むことは無理があるかもしれません。「どんな服を着るか?」のアイデア、つまり、ブレインストーミング的な活用に私は可能性があると思います。いずれ精度が向上し、街角やSNSで見かけた“欲しいアイテム”を欲しいときに手のひらの上で確実に探すことができるようになるのでしょう。しかし、ビジュアルコマースのツールが実際に普及することを考えたとき、私は改めてコーディネートが重要になってくるだろうと感じました。
たとえば、芸能人の全身写真から欲しいアイテムを見つけたとしても、コーディネートによってそのアイテムが際立っているだけで、単品で手に入れたとしても使い物にならないアイテムかもしれません。かといって、その写真のアイテムをすべて購入するとモノマネのコーディネートになってしまいます。
人の印象は全身で決まります。だからこそ、そのアイテムを活かすコーディネート力、つまり欲しい服を見つけられたとしても、その服と組み合わせる服を見出す知識が必要なのです。
とはいえ、ビジュアルコマースという買い物の新しいかたちでファッションへの意識が高まることを期待しています。なにしろ男性の洋服代が月3000円未満の日本ですから……。伸びしろはたっぷりとあるのではないでしょうか(笑)。
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