モータースポーツ界においてエアコンは贅沢品。F1はドリンクだけで暑さをしのぐ!

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2017年08月03日 22:00  citrus

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軽量化が至上命題のモータースポーツにおいて、エアコンの搭載は難しい。換気タクトからの“そよ風”で暑さに耐えるケースが多い

「熱中症から身を守るためにも、エアコンで室温を適度に下げましょう」「我慢してはいけません」などと、テレビの気象情報コーナーでは盛んに訴えている。(相当)昔は贅沢品だったカーエアコン(家庭用も含めて「クーラー」と言っていたような気が……)は標準装備品になって久しく、エアコン非装着のクルマは圧倒的少数派になった。

 

では、レーシングカーはどうだろう。F1に代表されるフォーミュラのコクピットもエンジンの熱が伝わって外気温より高い状態になるが、走行中は外気にさらされるためもあってエアコンは装備していない。脱水症状を予防するためのドリンクをコクピットに搭載しており、ステアリング上のボタンを押すとモーターが作動して、ドライバーの口元にあるストローに送り出す仕組みだ。

 

ドリンクを搭載するのは、屋根のあるレーシングカーの場合も同じだ。直射日光を遮ることができるのはオープントップのレーシングカーに対するアドバンテージだが、こと室温に関しては不利である。直射日光にさらされたクルマの室内がどれだけ高温になっているかは、炎天下でクルマに乗り込んだ経験があるなら容易に想像がつくだろう。

 

 

■換気ダクトから出る“そよ風”で暑さをしのぐ

 

伝統のル・マン24時間レースをシリーズの一戦に含むWEC(世界耐久選手権)に参戦するプロトタイプカーの場合、エアコンは搭載しないのが一般的だ。最上位カテゴリーのLMP1-Hは最低重量が875kgに定められているが、車両を開発する際は最低重量に抑えるのがセオリー。なぜなら、重くなればなっただけ加速もコーナリングも不利になり、遅くなってしまうからだ。

 

 

グラム単位で軽量化に取り組んでいるところにエアコンを搭載すると、キログラム単位で重たくなってしまう。エアコンを駆動するにはエンジン出力の一部を利用する必要があるが、エンジンが生み出す力はすべてスピードに結びつけたく、この点でも開発側にはエアコンの使用を避けたくなる心理が働く。

 

とはいえ、炎天下の車内は60℃を超えることもあり、ドライバーの健康を無視するわけにはいかない。そこで、技術規則では「コクピット内に自然あるいは強制的な換気システムを設けるか、エアコンを装備すること」と定めている。

 

加えて、「外気温が25℃以下の場合、走行中のドライバー周囲の温度は32℃以下であること。外気温が25℃より高い場合は、外気温+7℃以下であること」と定めている。

 

外気温が30℃の場合、室温を37℃以下に抑えれば、ペナルティは科せられない。エアコンを積むと重たくなるし、エンジンの出力が食われてしまうので、LMP1-H参戦車両を設計・製造するコンストラクターは、換気(ベンチレーション)によって室温を「外気温+7℃」の条件に収めるよう設計するのが一般的だ。あるドライバーは換気ダクトから出てくる風を「そよ風」と苦笑交じりに表現したが、コクピットに空気を流し込むと空力性能の悪化につながるので、最小限の風量で規則を満たそうとするのが設計の王道。また、ルール統括者によって管理される温度センサーに向けて風を吹きつけるのもお約束である。

 

 

■熱中症対策で、ついにエアコン搭載のマシンが登場

 

国内のスーパーGTでは、日産自動車の完全子会社で、モータースポーツ活動業務を一手に引き受けるニッサン・モータースポーツ・インターナショナル(以下ニスモ)が、上位カテゴリーであるGT500車両向けのエアコン開発に乗り出した。2004年のことだ。課題はやはり重量増とパワーロスだが、ドライバーを命の危険にさらすわけにはいかない。実際、熱中症で倒れるドライバーが後を絶たなかったことから、エアコンの搭載を決断したという。

 

エアコンを搭載する以前にも、ドライバーの体を冷やすデバイスは存在した。クールスーツで、氷で冷やした冷水が循環する管を縫い付けたシャツをレーシングスーツの下に着込むという原始的なシステムだった。クールスーツでもドライバーの体を冷やすことはできたが、冷えるのは局所的で、熱中症対策としては不十分だった。

 

ニスモが開発したレーシングカー専用のエアコンは2009年に導入された。システムを構成するコンポーネントの種類、すなわちクーリングユニット(冷却機)、コンプレッサー(圧縮機)、コンデンサー(冷却器)は乗用車用エアコンと同じである。ただし、使い方が違う。乗用車用のエアコンは室内をまんべんなく冷やすが、ニスモが開発したシステムは、ドライバーの体を直接冷やす仕組みになっている。車室全体を冷やす方法にもトライしたが、効果が薄かったため、医学的見地を参考にしたうえで体を直接冷やす方式を取り入れたという。

 


ニスモが開発したエアコンは頭頂部、シートバック、口元の3点に冷気を送り込む。ヘルメット上部のダクトから冷気が入ってくる仕組み

 

具体的には、ドライバーの頭頂部、シートバック、口元の3ヵ所に対して重点的に冷気を送り込む。ヘルメットの上部に設けたダクトは冷気を吹き込むためだ。冷気は二重構造になったシート内部にも送り込まれ、シートに密着した体表面を効果的に冷やす。口元に冷気を送り込むのは、頭を冷やすのと同様、ドライバーをリフレッシュさせるためだ。

 

エアコンの搭載によって2馬力程度のパワーロスにつながるが、エンジンのパワーが必要な状況ではエアコンをカットすることも可能。ドライバーが暑さに耐えながら運転するより、快適な状態でレースに臨んだ方がパフォーマンス向上につながるため、エアコンの装着は徐々に一般的になりつつある。ニスモ(日産)につづき、ホンダがGT500車両に導入したのは2012年のこと。トヨタ(レクサス)は2014年に導入している。

 


国内レースのスーパーGTでは、ニスモに続きホンダ、レクサスとGT500を中心に“冷房化”が進んでいる

 

レーシングカーにおけるエアコンの普及は割と最近だ。下位カテゴリーのGT300はエアコン非搭載の車両も少なからず残っているため、GT500とGT300が混走するスーパーGTのレースは、涼しい顔で運転しているドライバーと、汗だくになって運転しているドライバーが混在していることになる。

このニュースに関するつぶやき

  • 私も運転中は飲み物で暑さをしのぐ(エアコン使うとスピードが出ない、坂を登れない、燃費が…)!
    • イイネ!7
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