米駆逐艦衝突、艦隊一時停止で太平洋での防衛が手薄に

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2017年08月22日 15:32  ニューズウィーク日本版

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<今回の事故は米海軍にとって大きな痛手だ。北朝鮮との緊張が高まる中で太平洋に展開する艦隊の防衛力が手薄になるからだ>


米海軍の作戦部長ジョン・リチャードソン大将は8月21日、世界全域における全艦船の運用を一時停止するよう指示を出した。これは、太平洋海域において、2カ月余りの間に2度も艦船の衝突事故が起きたことを受けたものだ。横須賀基地に拠点を置く艦船の衝突事故としては、2017年に入って3度目となる。


リチャードソンは動画による声明の中で、21日にシンガポール沖で発生したミサイル駆逐艦「ジョン・S・マケイン」(以降、マケイン)と石油タンカーの衝突事故について述べ、「太平洋海域で一連の衝突事故」が起きており、「これ以上は容認できない」と述べた。6月には伊豆半島沖で、米海軍のイージス駆逐艦「フィッツジェラルド」とコンテナ船が衝突し、乗員7名が死亡する事故があったばかりだ。


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マケインは、事故当日の21日にシンガポールに自力航行で到着したが、乗組員5人が負傷したほか、10人が依然として行方不明となっている。


「(事故の多発という)傾向には、より強硬な措置が必要だ」とリチャードソンは述べた。「そのために、全世界で活動する米海軍のすべての艦隊を対象に、運用を一時的に停止するよう指示を出した」。目的は、「こうした事故の根底にある原因や要因を突き止めるべく、より包括的な見直しを行う」ためだ。


敵への即応力に問題


中東を訪問中の米国防長官ジェームズ・マティスは21日、リチャードソンのこの動きを支持。同行記者たちに対し、今回の見直しによって関連する海上事故の検討を行うと述べた。


「リチャードソンは、今回の事故に関して艦長が実施する事故調査だけでなく、あらゆる要因を検討するだろう」とマティスは述べた。「これは、現状に関するより広範囲にわたる調査だ」


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マケインの事故は、米海軍にとって大きな痛手となる。死者が出る見込みがあるからだけでなく、北朝鮮との緊張が高まる中で太平洋に展開する艦隊の防衛力が手薄になるためだ。


衝突事故による損傷の程度を考えれば、マケインとフィッツジェラルドの両艦船は数カ月にわたって運航できなくなる可能性が高い。フィッツジェラルドの事故を受けて米海軍は8月17日、艦長、副艦長、上級下士官の3人を解任すると発表していた。


アメリカではここ数年、防衛予算が削減されてきた。指揮官らによれば、訓練が削減され、メンテナンスが簡略化されたという。


「海軍は、油断ならない敵に備えるという軍事行動の焦点が定まっていなかった」と話すのは、誘導ミサイル駆逐艦の艦長を務めたことがある防衛コンサルタント、ブライアン・マクグラスだ。


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「即応力にほころびができているのは、物資の流れが不安定だからだ。それは、メンテナンスの先送りを意味する」とマクグラスは話す。


連邦議会が迅速に防衛予算案を成立させられないとたいてい、「基本的なトレーニングが簡略化される」と、マクグラスは述べる。「運用上の必要性に迫られて、運航や航法に関する基本的な訓練を行うのが難しくなっていないか、検討する価値がある」


横須賀基地を拠点とする米海軍第7艦隊にとって、駆逐艦は、北朝鮮のミサイル発射に対抗する防衛手段として不可欠だ。事故を起こした誘導ミサイル駆逐艦2隻は、いずれもイージスレーダーとミサイル防衛システムを搭載しており、北朝鮮のミサイルを空中で撃墜することができる。米海軍は太平洋海域で同様の駆逐艦を約36隻運用しているが、事故を起こした艦船はいずれも、朝鮮沿岸に近い横須賀基地に配備されている。


韓国漁船と衝突も


フォーリン・ポリシーは先ごろ、朝鮮半島周辺のミサイル防衛システムと海軍基地の地図を作製した。そうしたシステムや基地は、北朝鮮から発射されるミサイルに対する防衛の最前線として運用・配備されているものだ。


マケインが石油タンカー「アルニックMC」(全長約183メートル)と衝突したのは、現地時間8月21日午前6時24分で、場所はマラッカ海峡付近だった。米海軍は同日、マケインは「船体に甚大な損害を受けて、衝突箇所の近くにある乗組員の船室と機械室、通信室に浸水した」と発表した。


2017年にはほかにも米艦船関連の事故が起きており、全艦隊の一時停止につながった。5月9日には誘導ミサイル巡洋艦「レイク・シャンプレイン」が朝鮮半島付近の公海で韓国漁船と衝突した。また、1月31日には誘導ミサイル巡洋艦「アンティータム」が、配備されている横須賀基地の沖合で浅瀬に座礁して油が流出した。


(翻訳:ガリレオ)


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  • 「ここ数年、防衛予算が削減されてきた。訓練が削減され、メンテナンスが簡略化された。」オバマ〜。
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