「普通の国」日本の戦争できない未来

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2017年08月23日 15:02  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<集団的自衛権の行使容認に憲法改正......そして自衛隊の国防軍化へと進んだとしても、もっと深刻な問題で防衛力が維持不能になる?>


集団的自衛権の行使容認を経て、憲法9条に自衛隊の存在を認める第3項を加える改憲、さらに自衛隊の国防軍化――。戦後70年が過ぎ「普通の国」に近づきつつある日本は、2050年に「戦争ができる国」になっているのか。


***


安倍晋三首相は今春、自身の在任中に憲法改正を実現させる意思があることを初めて明確にした。さらに、今秋の臨時国会に憲法改正案を提出する方向で考えていることにも一時言及した。


7月の都議選大敗を受け、自民党内には改憲案を秋の国会に提出することに慎重論が出始め、安倍も「スケジュールありきでない」と語った。ただ、安倍の意欲は変わっていないと言われており、これまで机上の空論だった憲法改正が現実になる可能性はまだ残る。


そもそも安倍が現在、提案している憲法第9条の改正とは、どのようなものなのか。現行の9条は「国際紛争の解決手段としての武力行使の放棄」をうたう第1項と、「交戦権の放棄および戦力不保持」について定めた第2項から成っている。安倍の9条改正案とは、この2項には全く修正を加えずに、自衛隊の法的地位を明確にする記述をした第3項を付け加える「加憲」と呼ばれるものである。


実はこの案どおりに9条が改正されても、自衛隊の現在の憲法上の地位、すなわち「自衛のために必要最低限の能力を有する実力組織」という地位に大きな変更はない。現行憲法9条の1、2項に変更がない限り「戦力不保持」の原則は変わらないため、3項が加えられたとしても自衛隊は国際的水準でいうところの「戦力」には当たらない、という解釈が成立する。


また、16年3月に施行された現行の平和安全法制は、14年7月の閣議決定による「限定的範囲での集団的自衛権行使」を前提に立法されている。この法制が改正されない限り、憲法改正後も法律で認められる自衛隊の活動範囲は、この法制の枠内にとどまる。


そして、国会での議論が感情的なものに終始してしまったためあまり指摘されていないが、この新しい平和安全法制でも、自衛隊の活動範囲が劇的に拡大されているわけではない。直近の例を挙げると、平和安全法制の一部として国際平和協力法(いわゆるPKO法)が改正され、PKOに派遣される自衛隊の部隊が実施できる任務に「駆け付け警護」が追加された。武器使用権限についてもわずかではあるが緩和される方向で「PKO参加5原則」が修正された。


しかし、「紛争当事者の間で停戦合意が成立」などを定めた5原則のほかの部分には修正が加えられていないため、「駆け付け警護」任務の付与が決まった南スーダン国連PKO活動への自衛隊の派遣も、わずか数カ月で撤収という結果になっている。


【参考記事】「自衛隊は軍隊」は国際社会の常識


自衛隊の「基礎体力」が減少


2050年の国防や自衛隊の姿を考える際に重要な課題は、憲法上の地位以外のところに潜んでいる。特に日本の少子高齢化の加速が国防や自衛隊に与える影響は、早めに対策を考えないと深刻な問題になるリスクがある。


内閣府が今年発表した最新の高齢社会白書によると、日本の総人口が減少を続けるなかで、全人口に高齢者(65歳以上)が占める割合は伸び続け、2036年には全人口の33.3%、2065年には38.4%が65歳以上になるという試算が出ている。


その割合が増えるに従って、年金を含めた高齢者を対象にする支出が日本の政府予算に占める割合は当然増加し、その結果、防衛費を含む他の予算が圧迫される。しかも、安倍政権が発足後に唱えていた「税と社会保障の一体改革」は何らめどが立っていない。


このような状況の中で、防衛費をどの程度確保できるのかは、これからますます深刻な問題になっていく。自民党の安全保障調査会は、今後の日本の防衛力整備を考えるなかで防衛費を「NATO諸国の公式指針であるGDPの2%」という水準を目安にするべきだという提言を中間報告で紹介している。しかし2%はおろか、現在のGDP1%レベルを維持することすら困難になる可能性がある。


【参考記事】日本の先進国陥落は間近、人口減少を前に成功体験を捨てよ


人口の高齢化が進むにつれて、自衛隊の定員をどのように確保するかも課題となる。既に16年度版防衛白書では、少子高齢化の影響で自衛隊の定員充足率が影響を受けていることに言及されている。人工知能(AI)やビッグデータなどの先端技術を活用することで、例えば指揮・通信・偵察・情報収集分析などの分野で、これまでよりも少ない人数で必要な作業を行うことが可能になる場合もあるだろう。


職種による定年延長、女性隊員のこれまで以上の活用などで一部、対応できる部分もある。ただ、自衛隊の「基礎体力」となる10代後半〜20代半ばの人口が減少を続ける傾向は変わらない。


2050年の国防を考えるときに議論するべきは「日本が戦争をできる国になっているのか」どうかよりも、むしろ、「必要な防衛力を維持できるだけの人口と国家財政が33年後の日本にあるか」かもしれない。


<本誌2017年8月15&22日号「特集:2050日本の未来予想図」より転載>


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[2017.8.22号掲載]


辰巳由紀(米スティムソン・センター主任研究員)


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  • 軍事はパワーバランスだし、最低限の兵力は必要だし、それを補うには周辺諸国と軍事協定結べる環境が必要
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