“若手バイプレイヤー”賀来賢人 & 吉村界人、イケメン役からの脱却 『わにとかげぎす』での怪演ぶり

0

2017年08月30日 06:03  リアルサウンド

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

リアルサウンド

写真

 園子温監督の映画『ヒミズ』(2012年)、吉田恵輔監督の映画『ヒメアノ〜ル』(2016年)に続き、古谷実の漫画を映像化した作品として注目を集めているドラマ『わにとかげぎす』(毎週水曜23時56分〜/TBS系)が、いよいよ佳境に突入しようとしている。


参考:有田哲平×本田翼『わにとかげぎす』“蝉”が暗示する不吉な未来 謎が謎を呼ぶ第1話を振り返る


 思いのほか自然体の芝居で主人公・富岡を好演している有田哲平(くりぃむしちゅー)と、彼に一方的な恋心を寄せる隣室の女・羽田を振り切った芝居で演じている本田翼。メインキャストである2人の、どこか噛み合わない会話とやり取りが、最大の見どころである本作。しかし、ここで筆者が注目したいのは、このドラマに、昨今映画やドラマを観ていて、ちょっと気になっている……というか、さまざまな映画やドラマで、ひときわ異彩を放つ役柄を怪演し、もはや“若手バイプレイヤー”とも言うべき強烈な存在感を打ち放っている2人の俳優――賀来賢人と吉村界人が、奇しくもこのドラマで相まみえていることである。


 1989年生まれ、現在28歳の賀来賢人。2007年に俳優デビューを果たして以降、『太陽と海の教室』(フジテレビ)、連続テレビ小説『花子とアン』(NHK)、『Nのために』(TBS)、また野村周平とダブル主演を果たした映画『森山中教習所』など、数多くのドラマや映画に出演し続けている彼だけど、その本領は、いわゆる“イケメン”俳優としての役どころを、大きく踏み越えたときに発揮される……というのが、個人的な印象だ。たとえば、今年の1月期のドラマ『スーパーサラリーマン左江内氏』(日本テレビ)で彼が演じた、堤真一演じる左江内氏の部下・池杉という役柄。上司である左江内に、なぜかタメ口で馴れ馴れしく語りかけ、常軌を逸した派手なリアクションとともに、ときにはノリツッコミまで軽快にこなすという、この異形のキャラクターを、彼は嬉々として演じていた。その姿に度肝を抜かれた視聴者も、きっと多かったことだろう。


 しかし、そんな振り切った役柄を演じることができるのも、ある意味当然と言えば当然の話なのだ。彼は、『左江内氏』の監督も務めた福田雄一との関係性が深く、福田が演出した舞台『スマートモテリーマン講座』で初舞台を踏んで以降、舞台『モンティ・パイソンのスパマロット』、配信ドラマ『宇宙の仕事』、さらに現在はミュージカル『ヤングフランケンシュタイン』に出演中であるなど、ムロツヨシ、佐藤二朗などと同じく“福田組”の常連キャストのひとりとして、その振り切ったコメディセンスに、日々磨きをかけてきたのだから。


 そんな彼が、この『わにとかげぎす』で演じているのは、他人との距離感が精神的にも物理的にも異様に近く、さらには夢に出てくる女性と付き合うために上京してきたという、ちょっとイカれた青年・花林。いわゆる“イケメン”役とは程遠い、終始ハイテンションで短慮な思考と行動が持ち味の、ある意味『左内氏』の池杉役にも通じる空気の読めなさを持ったキャラクターである。


 一方、1993年生まれ、現在24歳である吉村界人は、2013年、松田龍平・翔太らが所属する「オフィス作」のワークショップオーディションに参加したことがきっかけで同事務所の所属となった、気鋭の若手俳優だ。2014年、映画『ポルトレ -PORTRAIT-』で映画主演デビューして以降、数々のドラマや映画に出演。2016年には、主演作『太陽を掴め』が東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門にノミネートされると同時に、ぼくのりりっくのぼうよみのミュージックビデオ三部作(「sub/objective」、「CITI」、「Sunrise(re-build)」)に、池田大、池田エライザと並んで出演するなど、ちょっと悪くて生意気そうな“イケメン”役として、注目を集めたことも記憶に新しい。


 しかし、今年に入ってから、その出演作の役どころが、少々おかしなことになっているのだ。3月に放送されていたドラマ『お前はまだグンマを知らない』(日本テレビ)では、主演の間宮祥太朗と並んでズボンをずり下げ股間を光らせながら絶叫、ドラマ『100万円の女たち』(テレビ東京)では、“女たち”のひとりを演じる武田玲奈のもとに金をせびりに来る“クズ男”役を好演、ドラマ『母になる』(日本テレビ)では、藤木直人演じる准教授を逆恨みして、その息子を誘拐する……すなわち、物語の端緒となる重要人物を怪演するなど、いわゆる“イケメン”役とはかけ離れた役どころに、次々とチャレンジしているのだ。


 さらに、映画『獣道』では、伊藤沙莉演じる主人公をたぶらかす暴走族のリーダー役を、現在放送中のドラマ『僕たちがやりました』(フジテレビ系)では、新田真剣佑演じる不良グループのリーダーが大怪我を負ったのを境に、裏切り行為を働くようになる後輩役を演じるなど、“ヤンキー”役もすっかり板についてきた。そう、どこか憎めない愛嬌あるルックスを武器としながら、映画やドラマにおける“クズ”役を、何やら彼が一手に引き受けている状況なのだ。そんな彼が、『わにとかげぎす』で演じているのは、駅前のパチンコ屋で働く女性・吉岡(コムアイ)に一目惚れし、ストーカーまがいの行為を続ける、元ひきこもりの青年・雨川。これまた、どちらかと言えば“クズ”な役どころである。


 世の中の争い事を避け、ひとり孤独でありながらも、ショッピングセンターの深夜警備員のバイトを続け、それなりに平穏な日々を送っていた主人公・富岡のもとに、ある日突然、賀来賢人演じる花林と吉村界人演じる雨川が、新人警備員としてやってくる、という『わにとかげぎす』の物語。「友だちが欲しい」と神に願ったことはあるものの、ポジティブ過ぎる花林とネガティブ過ぎる雨川の登場に、最初は戸惑う富岡だが、そんな2人と嫌々ながらも接しているうちに、だんだんと親近感を持つようになり……。


 しかし、第5話では、さらに物語が進行。一目惚れの相手である吉岡と接触した雨川は、彼女の頼みを聞き入れ、花林の協力のもと、彼女の情夫であるヤクザの男の金庫を盗み出すことに。ひとりバイトに勤しむ富岡の心配をよそに、無事金庫を盗み出し、人里離れた山奥で、その中身を確認するところまでは行った雨川と花林だが、第5話の最後、そこで思わぬサイコパスのシリアルキラーに遭遇し、なんと目の前で吉岡が撃ち殺されるという衝撃展開に。一方、異変に気付いたヤクザの連中は、なぜか富岡が勤務するショッピングセンターを襲撃。こちらも何やら、ピンチを迎えているのだった。はてさて、本日放送される第6話、彼らの運命やいかに?


 ちなみに、“わにとかげぎす”という風変わりなタイトルは、深海魚の一種である“ワニトカゲギス目”から来ているようだ。通常は真っ暗な深海に生息しているため、日の光のもとでは生きられない深海魚。それどころか、急激に水面に浮上した場合、水圧の関係で内臓破裂を引き起こすなど、その生命すら危うくなってしまう……という、“暗闇からの浮上、それに伴うリスク”といったメタファーのようにも感じられる本作。主人公の富岡以下、それぞれの登場人物たちは、暗闇のような人生に射し始めた光明を掴み切ることができるのだろうか? 2人の“若きバイプレイヤー”たちが演じる凸凹コンビの怪演ぶりに注目しながら、一抹の胸騒ぎと共に、その推移を見届けたいと思う。


■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。


    ニュース設定