ミャンマー軍のロヒンギャ弾圧に何もしない米トランプ政権

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2017年09月12日 22:22  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<民主化以前にはミャンマー軍政を厳しく監視してきた米政権が「民族浄化」を見て見ぬふり>


ミャンマー軍がイスラム系少数民族ロヒンギャに対する激しい弾圧を始めて以来、ここ数週間でロヒンギャ難民が爆発的に増え人道危機に発展しているが、今のところアメリカからはほとんど反応がない。


国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、ミャンマー軍とロヒンギャ武装勢力の衝突が激化するなか、すでに31万3000人近くのロヒンギャが隣国バングラデシュに脱出した。



ロヒンギャは難民になるだけでなく、数千人が命を落としている。国連は先週、ロヒンギャの死者数は1000人以上とした。一方バングラデシュのアブル・ハッサン・マームード・アリ外相は、3000人のロヒンギャが殺害された可能性があるとしたうえで、ミャンマー軍による攻撃はジェノサイド(大量虐殺)だと言った。国民の大多数を仏教徒が占めるミャンマーで、イスラム系のロヒンギャは迫害の対象となってきた。ゼイド・ラアド・アル・フセイン国連人権高等弁務官は9月11日、ロヒンギャが住む場所を追われ殺害されている状況は「民族浄化の典型例」だと言った。トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領も先週、ロヒンギャに対する迫害は民族浄化でありジェノサイドだと批判した。


【参考記事】存在さえ否定されたロヒンギャの迫害をスー・チーはなぜ黙って見ているのか


アメリカはこの人道危機の最中、ロヒンギャ弾圧に対する批判はミャンマー政府との関係を損なわない程度にする、という綱渡り外交を展開している。ミャンマーの脆い民主化を進展させたいからだ。


トランプもティラーソンも沈黙


米国務省はロヒンギャの人道危機に深い懸念を示すという代わり映えのない声明を発表したのみ。ドナルド・トランプ米大統領もレックス・ティラーソン米国務長官も、いまだに公の場でミャンマー政府を批判していない。ホワイトハウスのサラ・ハッカビー・サンダース報道官は11日の記者会見で、「ホワイトハウスはミャンマーで起きている人道危機を深く懸念している」と述べる一方、ミャンマー軍とロヒンギャ武装勢力の「双方」に対する暴力を懸念していると言った。


過去の米政権はトランプ政権と対照的に、ミャンマーの人権問題を厳しく監視する役割を担った。1988年にクーデターで軍事政権が発足すると、アメリカはミャンマーに対する金融サービスの提供の禁止や、軍事政権関係者の資産凍結などで経済的な締め付けを始めた。その後は投資禁止や輸入禁止といった経済制裁を長年にわたり継続した。


【参考記事】悪名高き軍がミャンマーで復活


「今の国務省は、トランプ政権が本来の役割を怠っている間に、人権擁護のふりだけを装おうとしているように見える」と、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのフィル・ロバートソンは言う。


米国務省のパトリック・マーフィー次官補代理(東南アジア担当)は9月8日、ミャンマー情勢に関して記者団に説明を行った時、トランプ政権が対ミャンマー政策で最優先に掲げるのは民主化だと語った。そのうえで目下の焦点は、迫害の舞台となっている南西部のラカイン州北部で、ミャンマー政府が人権団体やメディア関係者の受け入れを再開するよう圧力をかけることだと言った。


1962〜2011年まで軍政が続いたミャンマーは、つい最近まで国際社会で最も孤立した国の1つだった。2010年に不完全ながら政治の自由化に舵を切ったのをきっかけに、バラク・オバマ前政権の高官がミャンマーを訪問するようになった。2011年にはヒラリー・クリントン元米国務長官が親善大使として同国を訪問したのを機に、ミャンマー投資の規制緩和を発表。2016年には「ミャンマーの民主化が実質的に進展した」として、経済制裁を全面的に解除した。


だがミャンマー政府によるロヒンギャの弾圧は、民主化を挫折させかねない。シンクタンク国際危機グループ(ICG)は8日の声明で、ロヒンギャに対する全面的な弾圧で生まれた人道危機は、これまでミャンマーが成し遂げた民主化の過程を台無しにすると警告した。


ロヒンギャを片端から標的にすれば、ロヒンギャが集まる地域が政治的に不安定化し、武装勢力による暴力行為を正当化するだけだと、ICGは指摘する。「ミャンマーで暮らす人々や、同国の民主化や地域の安定化に対して、重大なリスクを及ぼすことになる」


米政府には圧力をかける力がある


米政府はもっとミャンマー政府に圧力を及ぼせるはずだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチのロバートソンは言う。この5年間、ミャンマーを物資両面で支援してきた米政府は、ミャンマー政府の指導者層、特に軍人や事実上の最高指導者で「民主化指導者」のアウン・サン・スー・チーに対して、ある程度の貸しがある。民族浄化を止めよ、さもなければ「軍事的にも、外交的にも、経済的にも途方もない代償を支払うことになる」と詰め寄るべきだと、ロバートソンは言う。暴力が止み、国際社会の視察団が調査を始められるまで、米国防省がミャンマー軍との軍事協力を停止することもあり得るという。


【参考記事】スーチーが「民族浄化」を批判できない理由


一方、バングラデシュとの国境を越えて避難したロヒンギャ難民は、難民キャンプにあふれかえり、難民の流入がいつまで続くか終わりが見えない。


「さらに多数の難民が押し寄せてくると覚悟しなければならない。不安だ」とUNHCRでバングラデシュを担当するシンニ・クボは言った。「巨額の財政支援が必要だ。前例がなく、まるでドラマだ。今後何週間もずっと続くだろう」


(翻訳:河原里香)


From Foreign Policy Magazine


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マーチン・ボールモント、ロビー・グレイマー


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  • 国連の人権委員会はありもしない慰安婦問題で執拗に日本を非難するが、中国のチベット・ウイクル弾圧、北の拉致、そして発展途上国の異民族虐殺などには何もしない。
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