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国宝・阿修羅像には、お笑い芸人も浮かべるあの表情が宿っていた!?

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2017年09月14日 16:11  HARBOR BUSINESS Online

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写真国宝・興福寺の阿修羅像(東洋美術特輯「日本美術史」第4冊より)
国宝・興福寺の阿修羅像(東洋美術特輯「日本美術史」第4冊より)
 こんにちは。微表情研究者の清水建二です。

 本日は、清水建二の微表情学第30回のテーマに引き続き、奈良県興福寺にある国宝阿修羅像の3つの表情から阿修羅の心を推測してみたいと思います。

 表情分析の手法は、表情のコード化、感情のラベル付け、感情の理由の推測という3つのプロセスを経て、様々な意思決定に役立てます。仏像も銅像も絵画も、そこに表情があれば全て同じという信念のもと、同様のプロセスから阿修羅の心の読み解きに挑戦したいと思います。

 まず阿修羅の3つの表情を記述したいと思います。表情分析のルールに則って、分析対象にとっての右左(私たちからの視点ではありません)という観点から観ます。

 阿修羅の右の顔について表情のコード化と感情をラベル付けします。

「眉が中央に引き寄せらる+まぶたに力が入れられる+下唇が上の歯で噛まれる」という表情をしています。「眉が中央に引き寄せらる+まぶたに力が入れられる」表情は怒り(あるいは熟考)を意味し、「下唇が上の歯で噛まれる」表情は、感情抑制を意味します。まとめると、怒りを抑制している表情だと解釈できます。

 次に左の顔です。

「眉の内側が引き上げられる+眉が中央に引き寄せられる+まぶたの力が抜ける+うつむく」という表情をしています。「眉の内側が引き上げられる+眉が中央に引き寄せられる」表情は苦悩を意味し、「まぶたの力が抜ける」表情は悲しみ・憂鬱・退屈を意味し、「うつむく」は内省、つまり感情が自分に向けられていることを意味します。まとめると、内面に苦悩を抱えている表情だと解釈できます。

 最後に正面の顔です。

「眉が引き上げられる+眉が中央に引き寄せられる+まぶたに力が入れられる+右の口角が引き上げられる」という表情をしています。「眉が引き上げられる+眉が中央に引き寄せられる」表情は不安を意味し、「まぶたに力が入れられる」表情は熟考・決意を意味し、「右の口角が引き上げられる」表情は軽蔑を意味します。まとめると、熟考・決意しながら不安を抱きつつ、優越感を生じさせている表情だと解釈できます。

◆表情・感情イコール心ではない

「表情の専門家だと人の本心がわかってしまって大変でしょう。」とよく言われますが、ここまでの阿修羅像の表情分析からお察しの通り、表情を読んだだけでは直接的に心まではわかりません(状況によって瞬時にわかることもありますが)。

 そう、表情・感情=心ではないのです。心、すなわち表情・感情がなぜ生じているかは、言葉との整合性や状況、対峙している関係性、その他のあらゆる情報と重ね合わせて推測する必要があるのです。阿修羅の心とはいかに?

 様々な知見と資料とを照らし合わせながら推測します。

 右の顔、左の顔、正面の顔を平行に並べると目の位置が上がっていることがわかります。大人になるにつれ顔の下半分が成長することにより、このような現象が生じることがわかっています。つまり、右は子どもの顔、左は青年の顔、そして正面が大人の顔ということです。このことから阿修羅の感情の変化が時間の変化とともに生じていることが推測されます。

 もともと阿修羅は、古代インドの英雄神である帝釈天に幾度となく戦いを挑む鬼神として知られていました。しかし、あるとき釈迦の説法を聞いたことを境に、自らのこれまでの態度を悔い改め、仏に帰依することになったと伝えられています。

 この荒くれる鬼神としての時代を右の顔の怒り表情に、自らを省みている瞬間を左の顔の苦悩表情に、仏に帰依する決意が正面の不安表情に表れているのかも知れません。

 ただ実際に、阿修羅が子ども時代に鬼神として振る舞い、青年期に釈迦の説法を聞き、大人になって帰依したという厳密な時期があったわけではないため、内面の感情が時をかけて変化していく様子を顔の変化を手段に、仏師が体現しようとしたのではないかと私は考えます。

◆なぜ不安と軽蔑、あるいは感情の揺らぎか?

 しかし、疑問が残ります。なぜ仏に帰依したのにまだ正面の顔には不安の表情が残っているのか?また、軽蔑は何に向けている?ということです。

 これは仏に帰依する、輪廻転生を目指すことに対する不安をまだ残しているのだと考えられます。阿修羅は神なので天道に属しています。すなわち六道輪廻―天道・人間道・修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄道―から抜け出し、悟りを得た人、仏、涅槃に至っていません。まだ仏を目指す段階にいるために、涅槃を目指す決意をしつつも、そこに到達ことができるのだろうかと不安が残っている状態なのではないかと思われます。

 そして不安を残しつつも、涅槃に至る方法を釈迦から得たり、と直感したことから優越感を抱き、軽蔑表情が生じたのではないかと推測します(軽蔑という感情は優越感とも置き換えることができ、例えば、お笑い芸人さんが、何かウケることを思いついたときやウケる発言を言う前に見られる表情です)。あるいは、感情がコントロールされると微妙に左右非対称の表情として生じることから、仏に帰依しつつも、まだ何らかの感情の揺らぎが残っているという解釈も出来ます。

 最後に正面の顔、胴体の前に組まれた合掌に注目します。様々な時代、感情を経ながらも、「今・ここ」において全てを一如に仏に帰依しますという決意が合掌となって表れているのだと思われます。

 観る者の心に解釈の幅を持たせる、複雑な微細表情を表す阿修羅の3つの顔。

 みなさんは、阿修羅の心をどう読み解きますか?

参考文献Web
興福寺監修「阿修羅を究める」小学館(2001)
山崎隆之『仏像の秘密を読む』東方出版(2007)

【清水建二】
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。術』飛鳥新社がある。

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