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iPhone X発表会を林信行が語る それは人類が向かう確かな行き先

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2017年09月14日 17:53  ITmedia PC USER

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写真画像:ITmedia
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 未来の技術を先取りして詰め込んだ「iPhone X」、背面が艶やかなガラス仕上げで無線充電にも対応した「iPhone 8」と「iPhone 8 Plus」、単体での通信通話に対応した「Apple Watch Series 3」、4K 対応の「Apple TV 4K」。今回の新製品といえばこんなところだ。1つ1つについて語れることが山ほどある一方で、既にさまざまな場所に読みきれないほどの情報があふれてもいる。


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 だが、これら新製品の特徴を記事に書いてもAppleが意図した発表会の本質からは懸け離れてしまう気がした。そこで新製品の細かな特徴は、他の記事や今後書くであろうレビューに先送りして、筆者が率直に感じた発表会の印象について語ろうと思う。


●素晴らしいものを生み続けるAppleという気質


 今回のスペシャルイベントは、Appleの新社屋にある「スティーブ・ジョブズ・シアター」で行われた。待ち時間の間流れていたBGMは往年のCMで使われた曲のオンパレードで、最後にThe Beatlesの「All You Need is Love」。その後、背後にあったシアターの扉が上から降り、「これからしばらく全てのノートパソコンの明かりを暗くしてください」とアナウンスが流れた。


 スクリーンに浮かぶ「Welcome to Steve Jobs Theater」の白い文字以外はほとんど光のないシアター。突然、ピアノの旋律をバックに懐かしい声が場内に響き渡る。40年前にAppleを創業したスティーブ・ジョブズの声だ。


 人として生き方はいろいろあるが、その1つは、人類へ畏敬の念を込めて、何か素晴らしい物を生み出し、それを世に送り出すという道だ。


 創作物に細心の注意と愛情を注ぐと、そこに何かが込められ伝わっていく。これは我々が人類に大いなる感謝を示す1つの表現方法だ。


 だから、われわれは己に正直であり、自分にとって何が大事かを見極める必要がある。それがAppleをAppleたらしめ、われわれをわれわれたらしめることなのだ。


(筆者による意訳)


 世界を変えたiPhoneの登場から10周年目の新モデル発表会場――この新社屋、アップルパークの建設は、故ジョブズの最後の仕事だった。建設地のクパチーノ市を訪れ、やせ細った体で社屋のプレゼンテーションをしたのは死の4カ月前だった。


 この建物を手掛けたのは、地球環境の未来を見据えた数多くの建築で名を馳せたノーマン・フォスター卿。ジョブズにも大きな影響を与えたであろう「宇宙船地球号」を唱えたバックミンスター・フラーと親しいことでも知られている。


 ジョブズの死後、新社屋のプロジェクトは彼以上に環境問題に真剣に取り組むティム・クックCEOに引き継がれ、屋上の全面太陽光パネル化などの案が加えられた。最終的な社屋はまだ一部建造中だが、広大な敷地に降り注ぐ太陽光のエネルギーや、シリコンバレーの山脈から駆け抜けてくる空気の流れる道筋までも考慮に入れた、極めてエネルギー効率の高い建築物となっている。


 薄いボディーなのに高性能なiMacやMacBookの放熱設計も、巨大な新社屋の熱の流れも、同様に細部まで注意を払って妥協せず形にする。さらにただ課題を解決したり、要件を満たしたりするだけではなく、せっかく世の中に送り出すのであれば、見た目にも美しいモノに仕上げようと最善を尽くす――これはジョブズを失っても変わらないAppleという会社の気質なのだろう。


 今回の発表でも、iPhone 8シリーズのガラスで置き換わった艶やかな背面の美しさには息を飲んだし、True Tone対応など表示の美しさを向上したディスプレイや、さらに美しさに磨きをかけたカメラのサンプル写真と4K映像を見て、iPhone 7シリーズからの大きな飛躍を感じた。


 同製品を「iPhone 7s」シリーズではなく、「iPhone 8」と呼んだ理由にも十分納得ができたし、それだけで発表会が終わってももはや十分に思えた(特にPlusのデュアルレンズを使った写真加工技術には度肝を抜かれた)。恐らく今回の発表内容が、このiPhone 8だけだったとしても十分に大きな話題を作れたことだろう。


 しかし、iPhone生誕10周年目のイベントと言うことでAppleも力が入ったのだろう。iPhone 8に加えて、これまでのiPhoneから大きく飛躍したiPhone Xも同時に発表することとなった。


 iPhone Xは、確かにiPhone 8を上回る大きな飛躍で、8ですらできない楽しみ方も満載され、それでいて女性用のアクセサリーかビューティー用品のような艶やかさがあり、こちらもまた美しい。


 実際、iPhone 8の発表中はほとんどの取材者が歓声を上げていたはずなのに、いざ発表会が終わると「少しでも新しいものを」とまるでiPhone 8を旧製品のように扱ってiPhone Xばかりに殺到しているのを見て少し残念な気がした(もっとも、発売が先な分、この機会を逃すとしばらく見る機会がないという側面は筆者もよく分かる)。


 世界を変えたiPhoneも10年がたち、現在、利用者は世界で7億人いると言われている。ここまでの規模になると、お金に糸目をつけずに最先端のものを追い求める人もいれば、これまでのペースの進化が心地よいと思う人も出てくる。


 広がるユーザーベースをカバーするため、カラーバリエーションを用意したiPhone 5cや、小さい画面サイズのiPhone SEなど、機能・性能・大型の波に逆流するような形でのバリエーションを出すことはこれまでにも何度かあった。しかし今回は“攻めの進化”の上に、さらなる“攻めの飛躍”を重ねる、iPhoneとしてはかつてない2モデル同時発表のイベントで、その意味ではAppleの新しい側面が見られた気もする。


 そんなことを考えているうちに、私は今回のAppleスペシャルイベントで本当に注目すべきは、個々の製品以上に、創業者スティーブ・ジョブズの精神は引き継ぎつつも、ジョブズの時代ならなかったであろう新たな挑戦にも乗り出した「新生Appleの在り方」そのものだったのではないかと思えた。


 新生Apple――その伝統と革新の両側面を、私流に分析してみたい。


●ハード、ソフト、そしてルールメーカー


 Appleと言えば、ユーザーに高い価値を提供するために、時には戦略的に業界のルールを変える伝統や、新時代の標準技術を一気に世に広めるスタンダードセッターとしての伝統もある。今回の発表会でも、その伝統はしっかりと受け継がれていた。


 Appleはご存じの通り、収益の面でも時価総額の面でもあらゆる企業の頂点に立つ会社だ。iPhoneの発売では世界すべてのスマートフォンの総利益の8割をiPhoneが占めている。他のスマートフォンメーカーのように、単に出荷台数なら薄利多売の製品を大量に出すことで大きく見せることはできるが、健全に利益を生みながらビジネスを続けているのがAppleだ。他社と異なり、毎年発表する新モデルが2〜3種類なのに、年間出荷台数は2億台を超えている。


 この他にも数々の世界1位の記録を持つAppleは、そのリストに今回「世界最大の時計メーカー」という項目を加えた。2016年までトップにいたROLEXを抜き去り、年率50%でユーザー数を伸ばして、見事1位の座についたという。


 そんなAppleは、その圧倒的な影響力を行使して、世の中のインフラ企業に働きかけ、新しいルール作りに取り組むことがある。


 同社はこれまで表面からは分かりづらい販売流通の仕組みや、精密機械の製造における常識などを何度も覆してきているが、今回は世界の20の電話会社と組んで、いわゆるIoT機器における通信回線のルールを手直しすることに取り組んだ。


 そう、単体での通信通話ができる「Apple Watch Series 3」のことだ。リューズの先が赤く塗られたセルラーネットワーク(携帯電話通信)対応のApple Watch Series 3では、ユーザーが自分でSIMカードを差し込んで使うのではない。SIMカードは「eSIM」という組み込み型で、情報は書き換え可能。iPhoneとペアリングすることにより、そのiPhoneで使っていた電話番号と同じ回線を共有可能になる。契約している番号に電話がかかってくるとiPhoneとApple Watchが同時になり、どちらでも受けられるのだ。


 1回線の契約で複数の携帯電話、あるいは携帯電話と別の機器で利用できるサービス形態は、実はNTTドコモが過去にも何度か行っている。


 ただし、2回線を新旧の通信規格で分ける必要があったり、利用する機器を切り替えるのに特殊な操作が必要だったりと、新Apple WatchとiPhoneの組み合わせほどうまい連携にはなっていない。


 そんな中、Appleは「ユーザーの使い勝手の良さを考えるとこれがベスト」だと、世界20社の携帯電話会社を説得して回ったのだろう。一気にこのスタイルを世界標準として広めてしまい、日本のキャリアも月々数百円の追加料金でこれを提供している。


 同様に4Kに対応したApple TV 4Kでも業界にメスを切り込んだ。新しいApple TVの登場に合わせてiTunes Storeで販売していた映画などのコンテンツは順次4K対応が行われるが、その際、購入済みのハイビジョンコンテンツに関しては無償で4Kにアップグレードしてくれるという。


 これまでVHSビデオ、DVD、Blu-ray DiscそしてiTunes Storeと、再生環境の主役が入れ替わるたびに自分の好きな映画を買い直してきた人は、プラスチックメディアからクラウド型メディアに移行したことの恩恵を強く感じるはずだ(しかも、それがDolby VisionとHDR 10の両方に対応した超画質となればなおさらで、作品の見え方が変わってくる映画も少なくないだろう)。


 Appleはこうした業界のルール作りをするルールメーカーであるのと同時に、業界のデファクトスタンダードを作ることにも長けている。


 例えば、そもそものUSB規格なども(確かにいち早く積極的に採用していた他メーカーはあったが)、世界規模で圧倒的な台数を売って広めたということでは初代iMacがそうだった。無線LANも、まだ規格策定途中のものをiBookが本体にアンテナを内蔵する形で真っ先に採用したし、3.5インチのフロッピーディスクを広めたのも、3.5インチを廃止する流れを広めたのもAppleだと筆者は見ている(これについてはネット上で賛否が分かれたので注記しておく)。


 そんなスタンダードセッターとしてのAppleに期待を抱かせる部分が今回の発表にもある。iPhone 8とiPhone Xでのワイヤレス充電規格「Qi」の採用だ。


 Appleは、iPhone 8やiPhone Xの背面がiPhone 4/4sシリーズ以来となるガラスに戻ったことを受けて、ワイヤレス充電規格を標準で採用した。置き方にあまり注意を払わなくても充電が失敗しづらい充電パッド「AirPower」を発売予定だ。これを使えば、iPhone本体だけでなく、Apple Watchと後日発売のワイヤレス充電ケースに入れたAirPodsヘッドフォンを置くだけで同時に充電できるようになる。AppleはこのAirPowerのほかにも、飲食店や空港、ホテルなどと組んでQi規格を広めるための使い方を提案していくとしている。


●次の時代へと導く、新しい動き


 CEOがティム・クックに変わってから活発化した新しい動きも多く紹介された。製品単位で次から次へと別の重役が出てきて紹介するという基調講演のスタイルを最初に行ったのは、体力の衰えていた晩年のスティーブ・ジョブズだったが、その後このスタイルを確立させたのは今のティム・クックCEOだ。


 今回の発表会でも、ファッションブランドであるバーバリーのCEOからAppleへ転身し、ファッション業界で大きな話題となったアンジェラ・アーレンツの初登壇を含む、さまざまな重役がステージを飾った。


 アーレンツ氏は、「Apple Store」からただの「Apple」に名前が変わり、店としてのコンセプトが地域コミュニティーに馴染んだタウンスクエア(都市の中心地にある広場)へと移行しつつある直営店ビジネスの最新状況や、パリやミラノなどに間もなくオープンする新しい直営店を紹介。設計を手掛けるのはノーマン・フォスター卿のフォスター+パートナーズで、その土地土地の文化的背景や景観に溶け込む店舗作りに変化しているのが感じられる。


 一方、スティーブ・ジョブズとは違って、常に身体を鍛え健康への関心が強いティム・クックのCEO就任以来、Appleは健康に関する取り組みが一気に増えた。


 今や世界中で数億人が使用し、人々の生き方、あるいは命そのものに大きな影響を与えるようになったiPhoneやApple Watch。特に新Apple Watchの紹介では、新製品を説明する前に、Apple Watchで人生が変わった人々のさまざまな物語を紹介するビデオが披露された。


 小児性糖尿病の子どもを持つ親がApple Watchで常に子供の血糖値を監視して安心できるようになった話、交通事故でiPhoneが遠くに飛ばされたまま身動き取れない状態になりApple WatchのSOS機能で救援を呼んだ人の話、毎朝Apple Watchでジョギングをし人生が変わった盲目のランナー、よりアクティブになった義足のロシア人――これらはいずれもApple Watchの既存機能によって人生が変化した例だが、新しいApple WatchのOSでは、これまでの機能や新たなジムのフィットネス機器とのデータ連携機能に加えて、心拍数センサーの利活用を大幅に広げた。


 少ない手間で心拍数を確認できるようにした他、休憩時の心拍数やエクササイズ後に上がった心拍数がどれくらいで平常に戻るかなども記録するようにした。心拍数データを見やすくし、突然の心拍数の変化を通知で知らせる機能もつけた。


 さらに日々の記録を元に「心房細動」に代表される心筋梗塞の原因にもなる不整脈の症状がないかをモニターしてくれる機能「Apple Heart Study」も搭載され、これにはスタンフォード大学が全面的に協力しているという。


 日本でも毎年、心疾患で命を落とす人が20万人近くいるという。世界で最も売れている時計が、自分では気がついていなかった心疾患にいち早く気づいて教えてくれることで、これからどれだけ大勢の人の人生に変化が起きるのだろう。その影響の大きさは無視できないものとなることだろう。


 このように、健康を通して人々の人生を変える取り組みも、ティム・クックCEOになってから活発化したAppleの新しい特徴だ。そしてもう1つ、環境への取り組みも無視できない。


 冒頭でも少し触れたが、Appleの新社屋は太陽光や風の流れまで計算された設計になっている。近々、一般向けに公開されるApple新本社、アップルパークのビジターセンターには、巨大なアップルパークの模型が置かれ、ここに貸し出し用のiPadをかざすとなんとかなりリアルなAR映像が現れる。


 iOS 11のARKitのすごさをまざまざと体験できるだけでなく、時間帯を変更して日がどこから昇るか、何時ごろにはどこに日陰ができるかを確認するだけでなく、風の流れを可視化して確認する機能もある。こうした取り組みは今後、建築の世界にも大きな影響を与え、世の中の建築を少しずつ変え、やがては世界の気候環境にも変化をもたらすかもしれない。


 ここ数年の基調講演の中でも非常に力のこもった発表会。重役の中で最も古株で、今回iPhone 8とiPhone Xの発表を請け負ったフィル・シラーが10年前のスティーブ・ジョブズを振り返って、こんな引用を紹介した。


 「私が進むのはパックが向かう方向、それまであった場所ではない」。


 これはアイスホッケー界のカリスマ、ウェイン・グレツキーの言葉で、数あるスティーブ・ジョブズによる製品発表講演の中でも最高と言われる10年前の「初代iPhone発表」講演を締めくくった言葉でもある。


 シラーは「今のAppleにもそれができているだろう」と問いかけるような表情だったが、これから大勢の命を救うであろうApple Watchも、新iPhoneのカメラ機能の優秀さや、確実に大きなブームとなりそうなAR関連の機能も、これから人類が向かう確かな行き先だと私には思えた。


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