米政府のカスペルスキー製品使用禁止で、プーチンが反撃開始?

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2017年09月14日 19:02  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<米政府は、連邦機関に露カスペルスキー社のソフトが安全保障上の脅威だとして使用禁止を通達。カスペルスキーは巨額の損害を被り、プーチンは報復を匂わせる>


米政府は連邦政府機関に対し、ロシア情報機関とのつながりが疑われるロシアのセキュリティー大手、カスペルスキー研究所のソフトウェア製品の使用を禁止するよう通達を出した。イレイン・ドゥーク国土安全保障長官代理が9月13日に声明で発表した。


連邦機関は90日以内に、カスペルスキーのソフトウェア製品をネットワークから削除しなければならない。


2016年の米大統領選へのロシア介入疑惑の捜査が進むなか、米政府はカスペルスキーに対する監視を強めていた。ロシア政府がカスペルスキーを通じて、米政府のネットワークに侵入する恐れがあったからだ。


カスペルスキーは世界に4億社以上の顧客を抱えるウイルス対策ソフトの巨人。カスペルスキーの製品を排除するという米政府の決定は、最近の冷え切った米ロ関係を象徴している。米政府はロシアで最も成功したグローバル企業に数えられるカスペルスキーの業績に大打撃を与えた。米企業がロシア政府から何らかの報復を受けてもおかしくない。


カスペルスキー側は反論


カスペルスキーは、ロシア政府に顧客データを開示したことはないとして、米政府の疑いを否定している。米政府によれば、カペルスキーはロシア政府の命令に逆らうことができず、そうである以上アメリカの国家安全保障に対する脅威であるという。「ロシアの法令では、カスペルスキーはロシア連邦保安局(FSB)と連携しなければならないと定められている」と、ホワイトハウスのサイバーセキュリティー担当の大統領補佐官、ロブ・ジョイスは言った。「米政府として、こうしたリスクは容認できない」


カスペルスキーは米政府の決定に「失望した」とし、「根拠のない主張と不正確な仮定」に基づいた決定だと反論した。同社は、米政府はロシアの法令を誤って解釈していると主張する。ロシア政府に情報共有の大きな権限が与えられるのはインターネット通信サービスなどの企業だけで、カスペルスキーは対象外だという。


「カスペルスキーは、サイバー空間でのスパイ行為やサイバー攻撃でいかなる政府も手助けしたことがない。当社は一民間企業に過ぎない。地政学的な問題のせいで無実の罪を着せられるいわれはない」


米政府は今のところ、カスペルスキーがスパイ行為のために自社製品をロシア政府に使わせたという具体的な証拠は何も示していない。


カスペルスキーの幹部にはロシアの元情報機関職員がいるほか、同社はサイバー犯罪の捜査でロシア政府に協力したこともある。だが、そんなことはサイバーセキュリティーの業界では当たり前のことで、だから怪しいという理由にはならない。


米情報機関の複数の元職員はこの数カ月、カスペルスキーはロシア政府の懐刀になっていると、相次いで語った。根拠はウイルス対策ソフトの仕組みそのものだ。そもそもこれらのソフトは、顧客のパソコン内部の情報を隅々まで監視できることを前提にしている。カスペルスキーのソフトは、顧客のコンピューターが取り込むほぼすべてのファイルをスキャンし、膨大なデータをカスペルスキーの本社に送信する。こうしたソフトには、ソフトウェアを書き換えたり、場合によってはコンピューターを遠隔操作で支配するほどの威力がある。


「ロシア政府が単独、またはカスペルスキーと共謀で、カスペルスキー製品を悪用して連邦政府の情報や情報システムに侵入するリスクがあることは、アメリカの国家安全保障に対する直接的な脅威だ」とドゥークは声明で言う。


カスペルスキーが米連邦機関のネットワークから締め出されたのを受けて、ロシア政府は米企業に報復するかもしれない。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は先週、外国製のソフトウェアを採用するロシア企業に対して、ロシア政府が取引を打ち切る可能性をほのめかした。


「ロシア政府は、安全保障を決定的に重視している」と、ロシアのテクノロジー企業の幹部が集まった会合でプーチンは言った。「もしロシア企業が外国産のハードウェアやソフトウェアを大量に輸入して売るつもりなら、ロシア政府としてはそれらの製品を購入できないと言わざるを得ない。ひとたびボタンを押せば、情報がごっそり国外に流出するリスクがあるのだから」


(翻訳:河原里香)


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エリアス・グロル


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