手紙は出さないけど買ってしまう… 切手のスゴすぎる「生き残り戦略」を大解剖

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2017年09月26日 18:00  citrus

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同窓会でぱっと目を引くきれいな女性を見つける。「こんな人いたかな?」と思いつつしばらく見とれていると、教室の隅っこに座っていたあの地味な女の子だと気づく。美しい女性に成長した彼女は、今やすっかりみんなの人気者だ。

 

実はこの話、女の子を「切手」に置き換えても通用する。切手といえば、どこか陰気な趣味の印象がつきまとい、切手ブーム過ぎ去りし今は「不良債権」のイメージも根強い。ところが、最近の切手は違う。さまざまなシーンで使えるよう、ユーザーの目線に立った豊富なラインナップが揃えられている。かつての地味なイメージは「消えた」と言ってよいだろう。

 

 

■「マリオ」「おむすび」も切手になる時代

 

生き残りを賭けている。そう言っても大げさでないほど最近の郵便局は攻めている。とにかく、「これを切手にしてしまうの?」といった事例が多いのだ。2017年発行の切手で特に印象深いのは、グリーティング切手の「スーパーマリオ」(6月28日発売)。筆者もファミコン全盛期を思い出しながらつい1シートだけ買い求めてしまったが、お堅いイメージの郵便局で、マリオやピーチ姫の切手が買えてしまうことに改めて驚きを感じた。もう1つは、同じくグリーティング切手の「リラックマ」(7月26日発売)だ。お出かけしたり、手紙を書いたりしているかわいらしいキャラクターに「一目惚れ」した女性も多かったのではないか。筆者がひそかに注目しているのは、「リラックマ」の担当デザイナーが貝淵純子さんだったこと。普通切手の多くを手がけたエース級デザイナーを投入し、完成度の高いデザインに仕上げてくるあたり、日本郵便の本気度がうかがえる。

 

最近だと、2015年11月スタートの「和の食文化シリーズ」も話題を集めた。シリーズ第3弾は、なんと「おむすび」(10月24日発売予定)。おぼろ昆布、うめぼし、鮭、しらす、赤飯、ごま塩、豆ご飯などのおむすびが82円切手の10種組で発売される。「切手なのに、三角形のおむすび?」と思う読者もいるだろう。切手は手紙を出すためのものであり、人と人を結ぶもの。だから「おむすび」(お結び)というわけらしい。シートの余白部分はタケノコの皮の包みで、飾り包丁を入れた赤ウインナーが右端にあるのも見逃せない。

 

 

■切手づくりに必要なのは「徹底的なマーケティング」

 

ここ数年の日本の切手の転身ぶりには目を見張るばかり。ただ大切なのは、これらはあくまで、さまざまなマーケティング活動の成果だということだ。決して一朝一夕に変わったわけではない。郵便局はこれまで、切手がどんな年齢層の人に、どんなシーンで使われているか、どれくらい売れるのかを分析し、その「最適解」を模索してきた。
 

たとえば、特殊切手の「おもてなしの花シリーズ第8集」(4月4日発売)。この切手の原点は、1990年開催の「国際花と緑の博覧会」(大阪)に合わせて発行されたふるさと切手「47都道府県の花」だ。各都道府県の花をモチーフにした47種の切手は、「きれいな切手を貼って出したい」という女性の需要を満たした。その後、花をモチーフにした切手は地域限定の4種組で発行され続け、イラストのタッチも試行錯誤が繰り返された。そして、2008年から2010年にかけて発行された「ふるさとの花」全10集で、様式として確立した観がある。

 

ちなみに、「ふるさとの花」の担当デザイナーは中丸ひとみさんだ。日本郵便の公式キャラクター「ぽすくま」の生みの親として知られる中丸さんは、いわゆる「F2層」(35〜49歳の女性)向けの切手を得意としている。「ふるさとの花」の後継に当たる「おもてなしの花シリーズ」も中丸さんの持ち味が発揮された、女性がさまざまなシーンで気軽に利用できる切手と言えるだろう。

 

だが、切手のデザインがオシャレになったからと言って、喜んでばかりもいられない。10年後、20年後を考えると、切手の未来はインターネット普及後に生まれた「デジタルネイティブ世代」への対策にかかっている。切手ならぬ「スタンプ」で育った彼らにとって、手紙を出す行為はすでに馴染み薄くなりつつある。この世代が何を感じながら生活しているのかを分析し、潜在的な切手需要を掘り起こすことはもちろん、1シート820円という切手の価格設定も含めて見直す時期に来ていると思われる。

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