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【ブックレビュー】ここは刑務所か?ブラック企業か? 親からの絶大な支持を得るスパルタ学園の恐怖!『一〇一教室』

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2017年10月10日 10:03  MAMApicks

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ひさびさに恐ろしい小説を読んでしまった。内容は重厚だがぐいぐい引き込まれ、あっという間に最後まで読み進めてしまった。それは、『一〇一教室』(似鳥鶏 著・河出書房新社)である。

「爽やかさゼロのダークミステリ!!」というキャッチフレーズに惹かれて手に取ってしまったが、ここまで恐ろしい本だったとは……。


舞台となるのは、全寮制の中高一貫校「私立恭心学園」。
マスコミの寵児である教育者・松田美昭が作った私立学校で、その教育論に心酔する親がこぞって子どもを入れたがる。何せ、高い進学実績を誇り、ひきこもりや反抗的な態度まで治るというのだから……。

■げに恐ろしき教育虐待。実態は巧妙に隠されている
しかし、その実態は……。

入学早々行われる新入生の合宿は、ブラック企業の新人研修のよう。生徒に徹底的に屈辱的な気持ちを味わわせて、教師に絶対服従をさせるための通過儀礼だ。

授業では日常的に体罰が行われるし、生徒同士が団結することも許されず、寮生活ではストレスのはけ口としていじめが常態化している。その学校生活の描写は凄惨極まりなく、つらくて読み進めることができない人も多いと思う。

親に言われるがまま入学した生徒たちは、「とんでもないところに入ってしまった……」と後悔するが、どうしようもないので心を殺して卒業までひたすら耐える。そしてこれらのすさまじい学校生活は、学校案内や学校行事などからは一切垣間見ることができないのだ。

とにかくとんでもない学校だ。でも、決して絵空事ではなくどこかにありそうなのがさらに怖い。そうだ……今年の春、さんざん世間を騒がした大阪のアノ幼稚園も、まさにこんな感じじゃなかったか。

あの学園のトンデモ教育っぷりが報道されたとき、「どんな保護者が子どもを入園させているんだろう」と思ったものだが、どうやら保護者が説明会に参加した限りでは、そこまで偏った教育がなされていると思わなかったというではないか。

■理不尽な管理教育は、大人が楽をするためだ
この小説を読んで今さらながら、目からうろこだったことがある。
中学・高校の無駄に厳しい校則は、なぜ存在するのかということを。

制服が、貧富の差を際立たせないための配慮というのはわかった。
しかし、スカートを短くしたり、ボタンをはずしたり、髪の毛を染めたり巻いたりするのがなぜいけないのか。

教師側の言い分は、「服装の乱れは学業に差し支える」のだろうが、私自身の経験から言わせてもらうと、スカートが短くたって別に学業への差し支えはないのである。

校則によく使用される「中学生・高校生らしさ」というフレーズもちゃんちゃらおかしい。
だって、中学生・高校生本人が「これをやりたい」と思って行動する、その行動の結果こそが「中学生・高校生らしさ」ではないのか。

なぜ、十代の心を忘れたオッサンオバサンが勝手に頭の中で作り上げた「中学生・高校生らしさ」を強制されねばならなんのだ。

当然、教師側の考える「中学生・高校生らしさ」と実際の中高生には乖離がある。その乖離を埋めるために、いまだに教師が多大な労力を割きながら服装チェックをする。そんなところに無駄なエネルギーを使うなよ、と思うのである。

そもそも、与えられた服は同じでも、体型やその人の持つイメージは着る人によって違う。一番似合うように着こなして、何が悪いのか。最低限のルールを守りながら(中学高校の場合は制服を着るという行為がそのルールにあたる)、自分の頭でしっかり考え工夫をして、自分はこんな人間であると上手にPRし、その場を演出する能力をはぐくむほうが、今のご時世は大事なのではないか?

そりゃ、工場の製造ラインに勤務するのなら、制服を規則通りに着こなすことが、安全と品質に関わってくるだろう。でも生徒すべてが将来工場で働くわけではない。しかも、そのような仕事をしていても、プライベートではやはり私服を着るわけで、服装を通じた自己PRは必要なのだ。

なぜ、自己PRが大事かというと、現代が「〇活」の時代であり、ライフステージを進めるためには自発的に動かなければいけないからだ。

かつてのように、目上の人に従順ならレールを引いてもらって一生安泰の時代は終わったのである。従順すぎるあまり、自ら思考停止してしまうと詰む。そんな人間を学校で大量生産してよいのか。

そんなことを今までずっと考えてきたのだが、この小説の下記のフレーズを読んでつくづくわかった。とにかく厳しく管理しておかないと、マネジメントスキルのない大人は子どもを持て余すのである。

社会のルールを覚えさせるためだとか理不尽に負けない強さを身につけるためだとか言っているが、要するにその方が自分たちが楽で、気持ちいいからだった。厳しくしろ殴れ敬わせろ口答えをさせるな。そういうやり方をしていれば、生徒の興味を引き出す工夫をしなくても授業を聞かせられる。理由を説明しなくても規則を守らせられる。(中略)そして何より、押さえつける側の自分たちは気分がいい。

大人だって、それが理不尽なことはうすうすわかっている。でも、ほかの方法で子どもをうまく制御できる自信がない。結局、彼らにとっての教育というのは、社会で生き抜いていける人材を育てることではないのだろう。そうなる原因は大人側のスキル不足だけではなくて、人材不足や資金不足という側面もあるのかもしれないが。

■なぜ、トンデモ学園に子どもを入学させてしまうのか
さて、小説の話に戻ろう。
この私立恭心学園では、行き過ぎたスパルタ教育によって、体罰で死んだ生徒がいるのではないかという疑惑がささやかれるようになった。

物語では、突然死した生徒の親戚が、学園に乗り込んで真相を追求しようとする。しかし、学校側は徹底した隠ぺい工作をとる。

じつは、過去にも生徒が帰省時に自殺をしたケースがあった。その生徒は、中学校で熱中していたマイナースポーツの部活が恭心学園にはあるということで、自ら志望して入学した。しかし、入学後に自分の選択に後悔をし、学園生活を続けることが辛くなり、自殺に至ったのだ。

その生徒の親は入学後の子どもの変貌を不審に思い、学校に説明を迫ったが、やはり納得した説明を得られなかった。それどころか、理事長に心酔するほかの保護者からの「これ以上学校側を責めるな」というすさまじい同調圧力によって、引き下がらざるを得なかったのである。

なぜ、こんなトンデモ教育者が駆逐されず、のさばってしまうのか。
自分の子どもも体罰を受けているのかもしれないのに、なぜ保護者が学校側をかばうのか。
小説内では、示唆に富んだ考察がたくさん出てくる。そのいくつかを引用しよう。

「世間体ですよ。自分が指示した教師がとんでもない体罰で子供を死なせた、なんてことになったら、預けた自分の世間体はどうなるか。そういう話です。何しろこうした保護者は皆、『教育熱心』で通っていますから」

ただ強圧的で横暴なだけの「熱意ある教師」をありがたがるのは、やはり「教育熱心な」親なのだろう。恭心学園はおそらく、その二者の共犯関係で成り立っている。たとえば、「教育熱心な」親がああしろこうしろと過剰に干渉する。小学校くらいまではいいだろうが、子供は次第に反発を始める。もともと子供を思い通りに動かすことしか考えていない親は、反発の原因が自分にあるとは考えもしないだろう。そして、「もっと厳しくしていれば」と考えて子供を恭心学園に入れる。今度は恭心学園の「熱意がある」教師が、子供を殴って従わせるわけだ。

不登校や引きこもりで悩んでいるなら原因がいじめなのか、学校になじめない何かがあるのか、それとも隠れた疾患があるのか……原因を探ればそれぞれに相談機関があります。(中略)あるのに、彼らはやらないんです。世間体が悪いと思っているから。そして怪しげな教育理論を唱える教育カルトに大金を出す。他にどうしようもなくて、とか、藁にもすがる思いでと言いましたけれど、彼らは藁の横に梯子やザイルが用意されているのにそれを無視しているんです。結局、本気で子供の問題に向き合う気なんかないんですよ。だからつけこまれるんです。

なるほど、と納得すると同時に、親の立場としてはドキッとすることが多い。
たとえば、自分の子どもがかなりやんちゃで手に負えなかったら、どうするか? 隣近所からはしょっちゅう「うるさい」とクレームが入る。友だちとは毎日のようにトラブルを起こしてはママ友にお詫び行脚をしなければいけない。公共の場では周囲の「しつけがなってない」という冷たい目にさらされる。

かといって大声で叱れば「虐待か」とヒソヒソされる。こういうのは「しつけがなっていない」というよりも、むしろ子どもの個性のファクターが大きいと思うのだが、まさに「世間」がそういう突出した個性を許してくれないのではないか。疲労困憊した親は、もうほかの選択肢を考える気力もなくなり、安易なほうに流れてしまうのではないか、とも思うのだ。

自分が本当に子どものことを考えて適切な教育を与えてあげられるのか。自分が楽をしたいのではないか、自尊心を満たしたいからではないか。「子どものため」といっているけど、本当は「自分のため」になってはいないか。こういう本を読むと、本当に考えさせられる。刺激の強い本だが、子どものいる人には、どうか勇気を出してぜひ読んでもらいたい一冊である。

今井 明子
編集者&ライター、気象予報士。京都大学農学部卒。得意分野は、気象(地球科学)、生物、医療、教育、母親を取り巻く社会問題。気象予報士の資格を生かし、母親向けお天気教室の講師や地域向け防災講師も務める。

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  • 出たの随分前なんだがね。似鳥さんは新作を既に出している。どうせなら、新作のレビューを記事にしろよ。普段読書をしていないのが、丸分かりだ。
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