セクハラプロデューサーは治療でヨーロッパに? 業界越えた大スキャンダル

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2017年10月12日 19:32  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<ハリウッドのセクハラ事件は米政界にも飛び火。収束の目途が立たない大スキャンダルはどこに向かうのか>


ハリウッドを震撼させている大物映画プロデューサーのハービー・ワインスタイン(65)による30年にわたるセクハラ行為。先週ニューヨークタイムズ紙やニューヨーカーが報じてから、同様の被害に遭ったとして女優やモデルが続々と名乗りを上げている。さらに政治的な癒着まで指摘されており、エンタメ界を超えて混乱を巻き起こしている。


勇気ある告発者


火付け役となったのは、ニューヨークタイムズやニューヨーカーが報じた記事で証言、潜入捜査にも協力した勇気ある女性たちだ。


ルチア・エバンス(歌手)


初めてワインスタインに出会ったのは2004年のニューヨーク。女優という夢を抱いていたエバンスは、仕事のミーティングと称して当時ワインスタインが経営していた「ミラマックス」のトライべッカにあるオフィスに招かれた。オフィスに着き案内された先にはワインスタインが一人で待っていたという。そんな密室でワインスタインはおもむろにペニスを出し、エバンスにオーラルセックスを強要したという。ニューヨーカーの取材に応じたエバンスは「絶対に嫌、止めて」と何度も強く拒否したと語っている。


A black woman has come forward and is accusing #HarveyWeinstein of rape. Read the chilling account by #LuciaEvans ... https://t.co/1e1jmnxIEh pic.twitter.com/UKbrh7Nn34— YBF CHIC (@TheYBF) 2017年10月12日


アーシア・アルジェント(女優)


イタリア出身の女優アルジェントは1998年にミラマックスの手がけたサスペンスドラマ「B.Monkey」に主演したことで知られる。ワインスタインの被害に遭ったのはこの2年前に遡る。ニューヨーカーによると、当時21歳のアルジェントはカンヌ国際映画祭の会場近くにあるセレブ御用達のホテル「オテル デュ キャップ エデン ロック」のパーティーに招かれたという。しかし、会場で彼女を待っていたのは楽しいパーティーではなく、ワインスタインだった。通された部屋にはなぜか、裸にバスローブ1枚だけ着たワインスタインが一人。マッサージとオーラルセックスをするよう迫られたという。


Asia Argento senza veli. E i fan: Il suo corpo è come un quadro https://t.co/jvuojJHQ4r— LaPresse (@LaPresse_news) 2017年9月28日


アンブラ・バッチラナ(モデル)


2015年にミス・イタリアのタイトル争いに参戦していたモデルのバッチラナ。その渦中にニューヨークで上演中のショー「スプリングスペクタキュラー」のレセプションでワインスタインに出会った。その翌日、ワインスタインのオフィスで無理やり体を触られた。バッチラナは警察にこの件を通報。ハリウッドの大御所に対する性的暴行報告書を提出した。その後バッチラナは、警察の調査にも協力。バッチラナが持ち帰った、ワインスタインとの会話を記録したレコーダーには、自分がシャワーを浴びている姿を見るよう強要するワインスタインの様子が収められていた。


Good day everyone! I am one of Ambra Battilana's avid fan please don't forget to follow her on Instagram @AmbraGutierrez #ambrabattilana pic.twitter.com/PNN19sy5hZ— Ambra Battilana (@AmbraBattilana0) 2017年1月4日


【参考記事】ハリウッドの人種差別は本当だった


被害者はさらに増える可能性


被害の告白はいまだに続いており、ワインスタインの毒牙にかかった女性は想像以上に多そうだ。


10月11日(現地時間)には、モデルから女優に転向したカーラ・デルヴィーニが自身のインスタグラムで、自分も被害者だと告白。シャネルのデザイナー、カール・ラガーフェルドの寵愛を受けるトップモデルの投稿からは、生々しい現場のやりとりが伝わってくるほどだ。


12.- @Caradelevingne pic.twitter.com/znDS8QsQ61— Mi Patito hermosa (@CAmericaLovatic) 2017年10月2日


(カーラ・デルヴィーニ)


モデルの被害者も多数いるが、忘れてはならないのは、ワインスタインの妻もモデル出身ということ。


2007年、ワインスタインが2度目の結婚で結ばれた相手が、モデル出身のジョージナ・チャップマンだ。イギリス・ロンドン出身のチャップマンは2004年に共同で立ち上げたファッションブランド「マルケッサ」が人気となり、ニューヨークを代表するファッションデザイナーの1人として活躍。歌手リアーナや女優ブレイク・ライブリーがレッドカーペットで着用するドレスを提供したこともある。


事件発覚後、事実関係が把握できない、そして夫のワインスタインが無実を訴えていたことから、夫に寄り添い応援する声明を発表した。しかし、続々と発覚する被害の状況に耐えかねてか10月10日、米芸能誌ピープルに「夫のもとを去ることにした」とコメントを発表。離婚する決意を固めたようだ。


I can understand Bill Clinton... He is married to #CrookedHillary But Harvey Weinstein? Married to Georgina Chapman! pic.twitter.com/y0cmc6wQgJ— Ryan Cale (@rcale1776) 2017年10月5日


(ジョージナ・チャップマン。ワインスタインとの間に2人の子供をもうけた)


押し黙ったハリウッドの男たち


実は当初は、大物女優らが被害を告白することはなかった。なぜなら現在活躍する大物俳優・女優ともに、ハリウッドの重鎮ともいえるワインスタインの手でスターダムを駆け上がった者が多いからだ。


何か事件が起きるとSNSでメッセージを発するセレブが目につくが、今回の事件について、特にハリウッド俳優は沈黙を守っていた。自分が世話になったプロデューサーの悪行を知っていたにも関わらず黙っていたのか、という世間の疑問もあるからだ。ただ、10月10日にはアンジェリーナ・ジョリーやグウィネス・パルトローという2人の大物女優も過去に被害に遭ったことをカミングアウトするなど、周囲の圧力を感じてか少数だが俳優や、かつてワインスタインと提携していたディズニーが動きを見せた。


【参考記事】ウディ・アレン「小児性愛」疑惑を実の息子が告発


キャリアの中で何度もワインスタインとタッグを組んできたマット・デイモン。脚本と主演した1997年公開の映画『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』で製作を手掛けたのはワインスタインのミラマックス社だった。


デイモンは、「有名になる前から私はこの種の行動を看過してきたが、今は4人の娘の父親。これは性搾取のようなものだ」と10日、ハリウッド情報サイト「デッドライン」に語った。しかし、ワインスタインの行為に関しては「こういった行為が世界中で起こっていることは分かっている。ただ、ワインスタインと一緒に映画を5〜6本作ったが、こういう状況は見たことがない」とシラを切っている。


ウォルト・ディズニー・カンパニーはかつてミラマックス社と提携を組んでいた。芸能情報サイト「ザ・ハリウッド・レポーター」によると、ディズニーのボブ・アイガ―会長兼CEOは10月10日「報告されたワインスタインの行動は忌わしく、受け入れ難い」と声明を発表した。


ワインスタインと長年仕事を共にしている、マーティン・スコセッシ監督、クエンティン・タランティーノ監督、俳優のラッセル・クロウやブラッドリー・クーパーなどは、2004年にニューヨークタイムズの記者シャロン・ワックスマンがワインスタインのセクハラを報道しようとした際に圧力をかけて抑え込んだとされている。


【参考記事】主演女優が足りない!オスカー候補の男女格差


選挙資金集めに加担したという報道も


今回明らかになったハリウッドのセクハラ問題。ワインスタインの悪行だけでも30年もベールに覆われていたが、ここに来て仲間ぐるみの隠ぺいとも取れるエピソードまで暴かれた。これまで問題が公にならなかった背景には、ワインスタインが民主党の強力な後援者だったということも指摘されている。


バラク・オバマ前米大統領の娘はワインスタインのもとで、今年の冬にインターンをしていた。ヒラリー・ クリントンも交流があることで知られている。2人は最初の報道から5日経った10月10日にようやく、ワインスタインを非難するコメントを発表したものの、遅すぎる対応が批判されている。


芸能サイトTMZによれば、近々ワインスタインは治療のためにヨーロッパへ向かうという。疑惑の張本人が逃げたからと言って収まる問題ではないだろう。長年指摘されながらもタブー視されてきたハリウッドのセクハラそして性差別は、まだまだ氷山の一角に過ぎないのかもしれない。


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ニューズウィーク日本版ウェブ編集部


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