ドイツ極右政党躍進の意外すぎる立役者

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2017年10月16日 11:52  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<欧州各国の国粋主義の拡大に続き、排外主義を掲げるAfDが初の国政進出。その「顔」は異色の経歴を持つ38歳の女性だ>


9月24日のドイツ連邦議会選挙で、国政に外国人嫌いの民族主義政党が戻ってきた。ドイツのための選択肢(AfD)だ。いわゆる極右政党だが、その躍進を支えた功労者は38歳の女性。元投資銀行勤務で同性愛者のアリス・ワイデルだ。


AfDは今回の選挙で約13%の票を獲得し、94議席を確保した。戦後の混乱期を除けば、露骨に排外的な国粋主義を掲げる政党がドイツ連邦議会に進出したのは初めてのことだ。もしもアンゲラ・メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)と第2党の社会民主党(SPD)が再び大連立を組めば、AfDは栄えある野党第1党の座を手に入れる。


AfDを含め、ヨーロッパの極右勢力はたいてい移民の流入と欧州連合(EU)の介入を嫌い、権威主義的で露骨な民族主義を掲げている。こうした勢力は各地で支持を増やしており、ヨーロッパの戦後秩序に真の脅威をもたらしている。その脅威が、ついにドイツの国政にも及んだわけだ。


もちろん、AfDが今回の選挙で大勝利を収めた責任の一端はメルケルにある。選挙戦で彼女と与党陣営が移民問題を封印したおかげで、AfDは誰にも邪魔されず、好き勝手な主張を繰り広げることができた。


では、AfDを国政進出に導いたアリス・ワイデルとは何者なのか。これまでは無名の存在だったが、彼女は今回、アレクサンダー・ガウラントと共に筆頭候補に名を連ね、選挙活動の先頭に立った。


ガウラントは民衆をあおり立てる典型的なポピュリストと言えそうだが、ワイデルは違う。自信満々の金融コンサルタントであり、国粋主義のポピュリストが忌み嫌うグローバリズムの申し子でもある。しかし、そんな彼女がAfDで重宝されるのには訳がある。


ワイデルは旧西ドイツで生まれ育ち、大学卒業後はゴールドマン・サックスに入社。中国に留学し、中国の銀行で働いた経歴も持つ。一方でCDU系のコンラッド・アデナウアー財団から奨学金を得て、経済学の博士課程を修了してもいる。その後も何度か転職を繰り返したが、13年に創設間もないAfDに参加した。


上品なポピュリズム像


上等なスーツを着て自由市場を愛する金融ウーマンはAfDに似合わない。同党の支持者には男性が圧倒的に多く、たいていは30歳以上で、一定の教育を受けた中間所得層だ。


党の地盤はフランクフルトのような西部の国際金融都市ではなく、最も困窮している東部の各州。しかしワイデルには、党のイメージにそぐわない自らの経歴を隠す必要はなかった。


そもそもワイデルがAfDに入党したのは、EUに疑問を抱いていたからだ。結成当時のAfDも、(移民ではなく)財政危機に陥ったギリシャなどの救済にドイツ人の税金を注ぎ込むことに反対していた。


AfDは14年に欧州議会で初めて議席を獲得。その翌年からはドイツの地方議会にもじわじわと進出し、今では16の連邦州のうち13州の議会で議席を得ている。支持基盤は、政治に無関心な一般市民や主流政党に愛想を尽かした人々だ。


ドイツは極右勢力の存在にとりわけ敏感だった。そんな国でAfDが成功できたのは、ナチスの時代を懐かしむタイプの勢力とは手を組まず、代わりにワイデルのような人物を担いで、上品なポピュリズムのイメージを磨き上げたからだ。


反EU路線で突っ走っていたAfDの活動に変化が生じたのは15年。シリア内戦の激化で100万人近い難民がドイツに押し寄せた時期だった。


このときワイデルは反移民の流れに乗った。ドイツは「外国人犯罪者にとっての安全な港になった」と彼女は言い、とりわけイスラム系の犯罪者だと名指しした。ドイツから送還したそれら「犯罪者」たちを収監する刑務所を北アフリカに設置することや、罪を犯した移民の市民権を制限すること、ドイツを欧州人権裁判所から離脱させることも呼び掛けた。


穏健派でも不吉な存在


彼女はまた、ドイツ国内全域でイスラムの尖塔を禁止すべきだ、イスラム教徒の女性が公務中にヘッドスカーフを着用するのも禁止すべきだとも主張した。さらに現在の難民法(AfDは「ナチス時代の罪の過剰な補償の産物」と批判している)の廃止も訴えている。


こうした外国人嫌いの論調がポピュリスト政党の支持者に受けるのは当然だ。一方で(いかにもドイツらしいところだが)AfDの支持層は、必ずしもワイデルのような金融業界の人間を毛嫌いしない。むしろ労働者階級でも保守派のドイツ人の目には、銀行家は信頼できる人物と映るらしい。


ワイデルは私生活の面でも一般的な「極右」のイメージにそぐわない。彼女はスイス在住で映画制作者の女性と内縁関係にあり、養子が2人いる。彼女たちは合法的なパートナーとして認知されているが、「結婚」には踏み切っていない。


ドイツではこの夏まで、同性婚は違法だった。AfDは伝統的な家族構成を支持しており、もしも以前から連邦議会に議席を持っていれば、同性婚承認に反対票を投じていたはずだ。


しかしワイデルは、自分がレズビアンでもAfDの綱領に反するわけではないと言う。AfDの綱領は性的傾向についてあまり触れていないが、伝統的な家族の在り方を支持している。ドイツ国内のメディアはAfD党内の同性愛嫌いを繰り返し指摘しているが、ワイデル自身はAfD内で偏見や差別の対象となったことはないと語る。


昨年ザクセン・アンハルト州の議会では、同性愛を違法とする諸国を非難する演説をしていた某議員をAfDの所属議員が遮って、「ドイツでも違法にすべきだ!」と叫んだことがある。この件を受け、家族とは何かと問われたワイデルは、「子供がいるところ」だと素っ気なく答えている。


AfDとの協力に前向きな政党はないため、連邦議会におけるAfDは「声高な野党」以上の存在にはなれない。しかし今までよりも議会が騒々しくなるのは確かだし、感情的・差別的な主張も増えるだろう。


議会全体が今よりも右寄りに振れて、AfDの過激な主張が受け入れられやすくなる恐れもある。それこそがAfDの望むところだ。そして党勢拡大の立役者ワイデルは少なくとも今後4年間、党の指導部にとどまるだろう。彼女は党内でこそ穏健派だが、それでも十分に不吉だ。


9月24日はドイツのリベラル色が少し薄くなった日として記憶されるだろう。さらに薄まるかどうかは、今後の主要政党の出方次第だ。


From Foreign Policy Magazine


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[2017.10.17号掲載]


ポール・ホッケノス(ジャーナリスト)


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  • 「国家民主主義労働者党」なるネオナチ政党があったそうな。上手い事、名前を付けたもんだな。
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