就任から9カ月、トランプ政権の現在地 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

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2017年10月17日 15:22  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<ハリケーン被害対応のまずさから支持率は低迷、国務大臣とは確執が続き、議会共和党との関係も良くない――就任9カ月を迎えたトランプ大統領の周辺はいまだに落ち着かない>


トランプ大統領が就任して約9カ月、最初の1年の4分の3が経過しました。トランプ大統領は、11月の初旬に日本、韓国、中国を含むアジア歴訪を行うと発表。大統領としての初来日になるわけですが、政権の現状はどのような状態なのでしょうか。


一言で言えば「切れ目なくスキャンダルが続いて」おり、「支持率も低迷」していると言って良いでしょう。


まず、9月に一旦は落ち着いたように見えた支持率ですが、ここへ来て急落しています。政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス」の発表している各種世論調査の平均値では、9月24日に一旦41.7%まで上がっていた支持率は、現在38.6%まで下がっています。40%割れという危険水域に再び入っています。


その原因は、ハリケーン被災地への復興対策です。今年は、大きなハリケーンがカリブ海とフロリダ、テキサスなどに被害を与えています。最初にヒューストンを襲った8月末の「ハービー」ではFEMA(アメリカ緊急事態管理庁)も機動的に動いていましたし、ホワイトハウスとヒューストン市の連携も取れていました。


ですが、9月20日にプエルトリコに上陸して甚大な被害を与えた、ハリケーン「マリア」の場合は、死者数こそ48に留まったものの、全島が長期に渡って停電し、今月10月末までの時点でも30%しか復旧できないだろうと言われています。さらに深刻なのは飲料水不足と伝染病で、米国領であるのに人道危機が現実となっています。これに対して、軍は1万3000人の要員を送って支援を続けているのですが、十分な効果が上がっていません。


これに対して10月3日には大統領が視察に訪れたのですが、民主党系のサンファン市長が大統領批判をしたことに腹を立て、「そもそも地方政府が破綻していたのが問題だ」と反論したり、「現在の政府の対応は素晴らしい」と自画自賛してみたり、異常な雰囲気のなかでの訪問になりました。


その後も、大統領の機嫌はおさまらず、「地元が感謝しないのなら軍を引き上げるぞ」などと毒づいてみたりしています。アメリカ大統領が、自国の被災地にどうしてそこまで冷酷になれるのかというと、まずコアの支持層は白人でありヒスパニック系のプエルトリコには差別意識があるのと、サンファン市長などの批判は「民主党の党利党略で言っている」と決め付けているからだと思います。いずれにしても、常識的なアメリカ人には決して愉快な話ではなく、この問題が支持率ダウンの主要な原因と言って良いでしょう。


大統領を取り巻く騒動といえば、「ティラーソン国務長官と大統領の確執」という問題があります。発端は、大統領が「核弾頭を冷戦期のように10倍増やさせよう」と演説したら、直後に国務長官がヒソヒソ話として、「アイツは能力が足りないんじゃないか」みたいなことを言ったとされています。その前後には国務長官の辞任説もありました。また北朝鮮との「対話」を進める国務長官に対して、「対話は不要だ」という大統領の発言が確執だと言われて騒ぎになったこともありました。


この「能力うんぬん」事件に関しては、大統領が「国務長官が自分をバカにするのなら、IQテストをやって能力を競うことにしよう」と言ってみたり、自分が「核弾頭を10倍に」と言ったというのはNBCが作った「フェイクニュース」だから、NBCの放送免許を取り上げろなどと言ってみたり、ドタバタ劇に終始しています。ちなみに、IQテストも、免許停止もその後は話題にもなっていません。


与党の共和党との関係も良くありません。問題は税制改革で、トランプ案というのは「当面は財政赤字を拡大」するかもしれないが、大減税を行って景気をさらに浮揚しようというものです。これは基本的に「茶会(ティーパーティー)運動」に見られるように、財政規律に敏感な共和党としては、そう簡単に丸呑みはできないわけです。


今週16日には、大統領はその議会共和党のマコネル上院院内総務と昼食会を行った後、共同会見に臨んで「関係の修復」をアピールしていましたが、マコネル議員の表情は固く、ポケットに手を突っ込んだまま喋っていたことなどから、確執は消えていないという見方があります。


その一方で、政権中枢をクビになったはずのスティーブン・バノン元主任分析官は、在野の立場で勝手気ままに発言をしており、「今こそ、共和党主流派との全面戦争の時だ」などと言って、ホワイトハウスを煽っている始末です。


この3つのストーリーが、とりあえず「トランプ政権の現在」を象徴しています。この中で、国務長官との確執に関しては少なくとも「支持者向けのホンネとプロの行う外交」を使い分けているという見方が可能ですし、東アジア歴訪を発表したということ自体が、北朝鮮情勢をめぐる具体的な外交方針が「ある」ことの証明になっていると言えます。ですが、被災地を怒らせたり、共和党とケンカをしたりという方は、出口の見えない話になっています。


その意味で、11月のアジア歴訪では大統領としては何としても成果を出して、ポイントを稼ぎたい、そんな機会と考えていると見るのが常識的だと思います。


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