家族そろって食卓を囲むひととき。家族が1つのテーブルに集まって食事をする光景は大変ほほえましいものです。しかし、今や、一家に一台以上のテレビがあり、食卓にテレビを置いてない家を探すほうが難しい時代。「食事中テレビは消す」という家庭も多いと思いますが、「食事中もテレビをつけている」という家庭も少なくないでしょう。テレビを見ながらの食事の是非について考えてみたいと思います。
■テレビを見ながら食べているお家はどのくらい?
マイナビニュースの調査によれば、食事中にテレビを見る人の割合は68%。半分以上の人がテレビを見ながら食事をしているようです。その理由で最も多いのは「その時間しかテレビを見る時間がとれないから」というもの。ニュース番組を見ている人も多いようです。他に、家族と放送内容について話をするという意見や、テレビがないと音がないためさみしいという意見もあるようです。
確かに、多忙を極めるサラリーマン世帯などは夕食の時くらいしか、ゆっくりすることはできないでしょうし、この時間にニュース番組で情報を仕入れることができればありがたいと感じるのも無理からぬことだと思います。
|
|
しかも、テレビはスイッチを切るまで、何らかの音が流れていますし、番組編成もどことなく自分に話しかけられているような気がするように作られています。テレビが相手ならとくに返事をしなくても、怒りだすこともありませんし、テレビの中で起こっている出来事に怒りをぶつけたところで周りにいる人が不快になることもほとんどありません。テレビは非常にありがたい存在と言えるでしょう。
■テレビを見ながら食事するのは健康“にも”悪い?
しかし、以前からテレビを見ながらの食事は行儀が悪いと言われてきました。
テレビを見ることと食事を摂ることの2つを同時に行うのは、行儀が悪いという人もいますが、堅物な栄養学的な言い方をすれば、テレビを見ながら食事をすることで食事に集中できず、食物がうまく消化・吸収できないために、身体にも悪影響を与えてしまいます。そのメカニズムは、
|
|
1)テレビに意識が行ってしまい食事に気が回らない
↓
2)テレビに気をとられてしまい、噛むことがおろそかになってしまう
↓
3)しっかり噛んでなくても、口の中に長時間入っていることから、十分噛んだと思い込み、しっかり噛む前に飲み込んでしまう
↓
4)口腔内での咀嚼がしっかりできていないので、胃腸での消化に負担がかかる
↓
|
|
5)栄養素の吸収率に影響が出る
というステップです。
実際、テレビを見ながら食事をしている小さいお子さんを拝見していると、口の中に食べ物が入っている状態でテレビに見入ってしまい、噛むことを忘れてしまっているというのは珍しくないように感じます。その挙句、時間が足りなくなり大慌てで食事を食べる……これは身体に大きな負担がかかります。傍で見ていても、あまり気持ちのいい状況ではありませんね。
■家族で食卓を囲むことで「学べること」がある?
また、テレビを見ていると会話が減ってしまうことも多々あります。会話は非常に重要な人間同士のコミュニケーションツールです。故・日野原重明医師も最後の著書「生きていくあなたへ 105歳 どうしても遺したかった言葉」の中で、
僕達が誰かと仲良くなりたいなと思ったとき、相手に「ごはんを食べに行こうよ」と誘うのも、食事をすることで一体感が生まれるということを、家庭のなかで学んできたからなのではないかと思うのです。
と記しています。実にその通り。
栄養と聞くと、身体を動かすエネルギーとなったり、血肉の材料となるものと考えがちですが、それだけではありません。食事を摂るときに話した会話や一緒に食べている人と一体感を感じることが心の栄養となります。身体と心はつながっています。身体と心の両方に「栄養」を与えることが大切なのです。そのためには、テレビに頼らず、目の前にいる人との会話を楽しみながら食事をするのがもっともよい方法だと思います。
余談になりますが、昨今は、テレビだけでなく食事中にスマートフォンに夢中になっている人も散見しますが、これも会話を遮る行為につながります。特に、飲み会等できれいに盛り付けられた食事を楽しむ際には、SNS等に食事をアップしたい人も多いようですが、仲間と別れた後、ゆっくりアップしましょう。そうすることで、会話とSNSの両方を楽しむことができると思いますよ。
食事しながら行ってもよいのは、一緒に食べている人との会話のみ。こうすることで、栄養の吸収もよくなり、心身ともに健康状態がよくなるはずです。