【今週の大人センテンス】為末大が語る一直線に目的に向かうもったいなさ

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2017年10月23日 13:00  citrus

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巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第74回 我が子にとってベストな道とは?

 

「目的地に一直線に向かうのであれば道のりは短縮すべきですが、旅自体が目的になれば道のりを楽しむことこそが重要になります。」by為末大

 

【センテンスの生い立ち】

元陸上選手で、現在は講演活動やコメンテーターとして活躍している為末大さん。2000年シドニー、2004年アテネ、2008年北京と3度の五輪に連続出場。400メートル障害の自己ベスト47秒89は、現在も日本記録である。「ニッカンスポーツ・コム」で連載中のコラム「為末大学」で、10月19日にアップされた最新記事のタイトルは「もったいない」。サッカーと陸上をやっている我が子に、どっちを選ばせるか迷っている親の相談を入口にしつつ、子育てや人生でつい考えてしまう「もったいない」にひそむ危険性を綴っている。

 

【3つの大人ポイント】

  • 子どもにとっての「幸せ」とは何かを考えさせてくれる
  • 「効率重視」になりがちな自分を省みるきっかけになる
  • 人生は必ず結果オーライになるという前提に立っている

 

目的に到達するために、最短のルートを進んだほうがいいのか、少しぐらいはまわり道をしたほうがいいのか――。なかなか難しい問題です。迷いなく「そんなの最短のルートがいいに決まっている」と言い切れる人もいるでしょう。いっぽうで「まわり道をしたほうが面白い」と考える人もいるでしょう。「まわり道」派の人でも、実際の場面では最短のルートを一生懸命に探して、まわり道をしていることに焦りを覚えずにはいられません。

 

とくに子育ての場面では、我が子にとっての最短のルートや最善のルートを躍起になって探して、それを選ばせたいという誘惑にかられがち。「効率のいいルートを進ませるのが親の愛」と思っている人がけっして少なくない気配も感じます。いきなりぶっちゃけて申し上げますが、子どもにとって何が「最短のルート」で何が「最善のルート」かなんて、親にわかるわけがありません。わかると思うのは、親の思い上がりでありエゴです。

 

陸上の400メートル障害で大活躍した為末大さん。日刊スポーツのwebサイト「ニッカンスポーツ・コム」で連載している「為末大学」の最新記事は、まさにこういう話がテーマでした。タイトルは「もったいない」。子どもたちの指導をするときに「サッカーと陸上をやっているのですが、うちの子は陸上の才能はありますか? 可能性がある方に特化させたいと思って」といったことを聞かれることがあるそうです。

 

そこから為末さんは、親はついつい「この可能性がある限られた時期に、情熱をかけられる対象を見いだし、できるだけ伸ばしてあげたい。もしそうではないぼんやりした日々を過ごしてしまったら“もったいない”と思いがち」だと書きます。そう思い始めると、隙間のことばかり考えてしまい「引っ越しの際の段ボールのように、隙間があるのはもったいないとばかりに、何か有益なものを入れようとしてしまうわけです」とも。

 

そういう話をして「もったいないシンドローム」に疑問を呈した上で、彼は自身の体験を語ります。現役時代はトレーニングのためにヨーロッパで長期間滞在することが多く、当時はまだインターネットが発達していなかったので、たくさんの本を持って海外に行くようになり、帰国後に機関銃のように喋りまくることを繰り返していたとか。「私の考え癖はほぼその時期に形成されたように思います」と、当時を振り返っています。

 

人生はどう転ぶかわからないし、世の中の状況もどうなるかわかりません。人間の適正や好みも、その時々で変わっていくでしょう。そう考えると、子どもに対してだけでなく自分自身の場合も含めて、「最短のルート」や「最善のルート」を探すことがいかに無意味かということに気付くことができます。昨今の若者は何はさておき「効率のよさ」や「コスパの良さ」を求める傾向があるようですが、それはけっして目的に近づく効率的な方法ではないし、長い目で見て得な方法でもありません。

 

為末さんは、コラムの中で次のように言います。

 

ふわふわと人生を生きてしまわないように、人生を計画することは大切だと思います。またなるべく多様で、良質の経験をすることも大事だと思います。ただ、一方で人生の面白さは、ふっと思いついた寄り道の中にあることが多いのではないでしょうか。目的地に一直線に向かうのであれば道のりは短縮すべきですが、旅自体が目的になれば道のりを楽しむことこそが重要になります。

 

目的地になるべく早く到着することが、「成功」だったり「勝利」だったりするわけではありません。道のりをたっぷり楽しむほうが大切で有意義だし、何だったらあえてまわり道をしてみるのも一興。「早く、早く!」と急かすより、道のりを楽しめばいいんだと教えることこそ、子どもにとっての「幸せ」につながるでしょう。自分自身も、仕事などでつい効率を重視してしまいがちですが、道のりを楽しむという発想を常に持っていたいものです。

 

ま、陸上競技の場合は、最短のルートを全力で突き進まないと話になりません。そういう世界で生きてきた為末さんが、道のりを楽しむことを提唱しているのも、また興味深いところです。もしかしたら一流の陸上選手は、全力でゴールを目指しつつ、ゴールまでの道のりを楽しむ気持ちもあわせ持っているのかも。いや、ちょっとこじつけが過ぎましたね。

 

ムキになって最短のルートをたどろうと、まわり道をしようと、長い目で見れば人生は必ず「結果オーライ」になります。というか、自分が歩んできた人生以外は歩めないので、それを肯定するしかありません。安心して、道のりを楽しんだりまわり道をしたりしましょう。子どもに対しても、どういう道を進もうが、節目節目でどういう結果が出ようが、デンと構えて「どうにかなる」と思っていたいところ。自分のことにせよ子どものことにせよ、焦ってジタバタしたところでどうにもなりません。

 

為末さんは、冒頭の質問には、いつもこう答えているそうです。「両方やっても片方に絞ってもいいですよ。どうせ最後は本人が行きたいところに行くんですから」。そう、親としてもっとも大切なのは「なるべく余計な口出しをしないこと」です。自分の理想に合わせようなんてのは問題外。どんなに口出ししないようにと思っていても、つい口出ししてしまうのがサガなので、念入りに意識して距離を置くぐらいでちょうどよさそうです。

 

 

【今週の大人の教訓】

もったいないという誘惑に負けてしまうのは、もったいない

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