知られざる小池百合子の濃厚アラブ人脈

9

2017年10月24日 17:02  ニューズウィーク日本版

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ニューズウィーク日本版

<国政復帰へののろしを上げた小池の外交政策に強い影響を及ぼす、イスラム世界との親密な関係>


1971年から大学時代をエジプトで過ごしたユリコ・ユージロー・コイケは、72年にカイロ大学に入学すると文学部社会学科に籍を置いた。


ユリコ・ユージロー・コイケとは、小池百合子・東京都知事の大学時代の登録名だ。エジプトでは父親の名前を名に入れるのが慣例で、小池も大学入学時に父親の名である「勇二郎(ユージロー)」を加えていた。


76年に卒業したコイケは、学生時代から「策士」だったという。日本人同級生によれば、コイケは同じクラスにアンワル・サダト大統領の妻ジハーン夫人がいることを知る。するとそれから、「授業ごとに徐々に近くの席に座るよう画策して、最後は隣になってなんとか知り合いになったんだよ」と、同級生は述懐する。「当時からかなり計算高い女性だった」。そうしてコイケは夫人とコネクションをつくり、後に単独インタビューも実現している。


カイロでの日々から40年以上たった今、小池が日本を揺るがしている。今年1月に地域政党「都民ファーストの会」を立ち上げ、7月の東京都議会選挙で都議会を席巻。その余韻が残るなか、10月22日に投開票される衆議院選に向けて新党「希望の党」を立ち上げ、自らが党首になると宣言し、野党第1党だった民進党をのみ込んだ。


一連の動きが、全て小池の計算どおりだったのかは分からない。ただ確かなことは、都知事でありながら国政政党のトップになることで再び国政に参加する意思を示したことだ。


「希望の党」が政権に絡む議席数を獲得すれば、小池も都政のみならず、日本の外交などにも携わっていくことになる。そこで気になるのは「アラブ通」を自称する小池の中東・アラブ地域とのつながりだ。アラブ人脈は「小池政治」にどんな影響を与えるのか。


小池の中東人脈をひもとくには、カイロ大学時代にさかのぼる必要がある。小池はエジプトを中心に石油を扱う貿易会社を地元兵庫で営んでいた父、勇二郎の人脈を生かし、留学時代から大臣級のエジプト政府有力者などの世話になっていたという。通訳として、勇二郎の商談やアラブ石油輸出国機構(OAPEC)の会議にも同行した。


その勇二郎のアラブ人脈は、日本ムスリム協会の元会長でアラブ世界に太いパイプを築いていた元外交官の斎藤積平が世話したものだったと言われる。勇二郎と交流のあった人物は、「彼がエジプトでやっていけたのは、ほとんど斎藤の後ろ盾があったから」と言うくらいだ。


勇二郎は貿易会社が倒産し、カイロで日本料理店を営むようになった後も、エジプトの要人との人脈を維持していた。そうした人脈も、娘の小池に受け継がれたとみるのが自然だろう。


小池は大学卒業後、帰国してアラビア語通訳としてキャリアをスタート。それからは、日本のメディア取材に同行するなどして中東に何度となく赴いた。例えばリビアの最高指導者で、独裁者として知られ11年に殺害されたムアマル・カダフィ大佐とは、日本テレビの特番のコーディネーター兼通訳として初めて会っている。同じく日本テレビの取材で、同じカイロ大学出身のPLO(パレスチナ解放機構)のヤセル・アラファト議長とも面会している。


92年に国会議員に当選してからは、彼女の人脈はさらに広がる。


カダフィとは、国会議員となっていた09年に、日本リビア友好協会の会長として再会を果たしている。小池はこの訪問の直前、ツイッターに「ちなみに、リビアのカダフィ指導者へのお土産はWiiにしました!」とツイートしていた。ただカダフィに会ったことはよく喧伝していたが、同協会関係者によれば特段カダフィと親しくしていた形跡はない。それでも、カダフィ政権崩壊後もリビアに赴き、同国にしっかりと足掛かりを残している。


問われる外交的バランス感覚


イラク、アラブ首長国連邦(UAE)、ヨルダン、クウェート、パレスチナなどについても議員連盟に積極的に参加して、幅広くアラブとのつながりを築いてきた。現地を頻繁に訪れ、アラファトとも再会を果たしている。


大学時代を過ごしたエジプトについても、政府に近いカイロ大学の学長や関係者との関係を維持し、アブデル・ファタハ・アル・シシ大統領とも顔をつないでいる。そうした人脈を小池は、16年に国政から離れて都知事になった後も絶やしてはいない。


今後、国政に進む「小池政治」にもこうした人脈が改めて強みになっていくことは間違いない。


そもそもカイロ大学出身という彼女の異質な経歴は、アラブ圏の国々とやりとりするのにかなりのアドバンテージとなってきた。基本的にアラブ圏で日本の印象は非常に良い(皮肉なことに日本赤軍がイスラエルで起こした72年のテルアビブ空港銃乱射事件がその印象に貢献している)。その上でアラビア語が使えることは、かなりのアピール材料になっている。


日本にも幅広い中東コネクションが存在する。アラブ諸国の在日大使たちは、小池が主要な役職に就任するたびにこぞって表敬訪問を行い、支援の意を示してきた。これは小池でなければあり得ないことだ。日本が石油輸入の8割を依存する一方で、日本の政治家で中東と広い人脈を持っていたり、パイプを太くすることに熱心な人物は少ない。


ただ現在の政局を鑑みると、こんな懸念も出てくる。小池は以前、民主党政権時代に中東外交の存在感がほぼ失われてしまったと真っ向から糾弾していた。中東関係者の間では今、その民進党と「希望の党」が合流する事態に一抹の不安を覚える向きもある。


また根っからの右翼人だった父の影響もあって「保守」「タカ派」として知られる小池は、中国や北朝鮮に対しては辛辣な姿勢を見せてきた。朝鮮学校無償化の問題では「絶対反対!」とツイートし、10年に尖閣諸島付近で起きた中国漁船衝突事件では「例の中国船長釈放は誰が決めたのか? 責任者でてきなさい!」と牽制した。


アラブ諸国との親密さに比べ、東アジア問題で感情的とも取れる厳しい立場を露骨に打ち出していることに、政治家として外交的バランス感覚を疑問視する声が出てきてもおかしくない。


いずれにしても、小池はアラブ諸国とは近く、アラブ側もそんな小池に期待を寄せている。小池と交流のあるカイロ大学のアーデル・アミン・サーレ教授は、小池が首相になれば「日本とアラブ諸国の関係はこれまで以上によくなると思う」と言う。


小池が目指すのは「初の女性首相」との見方は根強い。それが事実なら、彼女の中には既にしたたかな計算があるだろう。小池政治が力を持つことになれば、日本とアラブ諸国の関係が大きく変わるのは間違いない。


その変化が、全ての面で日本の国益にプラスになるものかどうかは、まだ分からないが。


【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル! ご登録(無料)はこちらから=>>



[2017.10.17号掲載]


山田敏弘(ジャーナリスト)


このニュースに関するつぶやき

  • もう60半ばだから、首相になるなら急がないと。
    • イイネ!8
    • コメント 2件

つぶやき一覧へ(8件)

前日のランキングへ

ニュース設定