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JALのパイロット自らが作るFileMakerデータベースが訓練の質を高め安全な運航を支える

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2017年11月15日 10:13  マイナビニュース

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2017年10月23日〜25日、パシフィコ横浜(神奈川県)でFileMakerカンファレンス 2017が開催された。このカンファレンスでは例年、開発・運用に関する技術セッションなどが数多く実施されることに加え、FileMakerを導入して成果を上げた企業や団体がリアルな体験を語る事例セッションも人気が高い。

今年は事例セッションのひとつとして、日本航空のパイロットが導入事例を紹介するセッションがあり、多くの来場者の注目を集めた。このセッションのスピーカーとして登壇した2人の機長、荻政二氏と京谷裕太氏にインタビューする機会を得た。

○パイロットの訓練のためのデータベースとは?

インタビューの模様をお伝えする前に、FileMakerでどのようなシステムを開発し、運用しているかを紹介しよう。

今回紹介されたシステムは、パイロット(機長、副操縦士)の訓練に使用するものだ。訓練の評価を教官がiPadのFileMaker Goで入力する。評価のデータを蓄積して分析することで、次年度以降の訓練に反映している。

評価項目の数も、訓練の回数や人数も多い。データベースに評価を入力する教官は約200人、訓練を受けるパイロットは、約2,000人とのことだ。これをパイロットが開発し、アップデートし続けている。2012年に最初のシステムが作られ、その後ほぼ1年に1回のペースで大幅なアップデートをしているという。荻氏と京谷氏も、機長として乗務しつつ、訓練教官を務め、データベースの開発を続けている。

○月に10日の地上勤務で話し合い、開発を手がける

インタビューは、業種や職種を問わず、ユーザ自身がFileMakerでデータベース開発をするためのヒントとなること、背中を押してもらえるようなことが盛りだくさんの内容となった(以下、敬称略)。

-- 乗務もあり、データベース開発もしているとのことですね。

京谷 私たちは1カ月のうち、おおまかに10日が乗務、10日が地上勤務、10日が休みです。その地上勤務の時間を使って、データベース開発をしています。このシステムに携わるメンバーは、シフトを合わせて同じ日に地上勤務になるようにしています。

荻 メンバーが顔を合わせて話し合うほうが良いことも多いので、できるだけそういう時間を取っています。実際に開発をするのは、さらにそれ以外の限られた時間ということになります。

京谷 現在は、4人がFileMakerを使って開発をしています。

-- 時間のやりくりが大変ですね。

荻 確かにそうですね。でも私は、趣味と言えるぐらい楽しんでいます。レポートをFileMakerで作成するときなどに、なかなか思い通りにならず頭を悩ませることもありますが、たいてい3日ぐらい考えるとできるんですね。その喜びはとても大きいものです。

京谷 システムを利用する教官が「使いやすくなったね」とほめてくれるのも、励みになります。ほめられるのは、ごくたまにですが(笑)。

-- ほぼ年に1度の大幅なアップデートのほかに、細かな修正もしているのですか?

荻 「戻る」ボタンを付けてほしいというような、すぐに対応できる要望にはできるだけ応えています。

京谷 使っている教官を観察し、操作を間違えやすいところを見つけて直すこともありますね。

荻 時間の制約が厳しい中でなぜできるかというと、誰かに「やれ」と言われてやっているのではなく、自分たちが必要性を痛感して自発的にやっているからです。

○安全のためにパイロットが自ら動いた

-- 自発的な取り組みなのですね。

荻 弊社では2005年に安全上のトラブルが続けて発生し、国土交通省から業務改善命令を受けました。なんとかしなくては、と動き出したのが私を含む4人のパイロットでした。そのうちの3人は理論・体系の構築、人的要因、ITとそれぞれ得意分野があり、私は調整役でした。

-- システム開発において、荻さんの調整役としての役割はどのようなものでしたか?

荻 メンバーはそれぞれ個性があり、考えを持っていますから、意見が割れることもあります。そのようなときに私が中立的な立場で判断を下すこともありましたね。チームには、調整役がいるほうが良いと思います。

-- そこから、新しいシステムの構築へとつながるのですね。

荻 2010年に会社更生法が適用され、最低限必要な訓練以外はできなくなってしまいました。とてもつらいことでしたが、訓練を作り変える好機でもありました。

京谷 それまでの訓練は長年実施されてきたものでしたが、機体やさまざまな技術が新しくなり事故やトラブルの質が変化していたのです。それに対応できる評価システムを構築することにしました。

○作る人=ユーザのシステムであることが重要

-- 新しい評価システムの構築にあたってFileMakerを選定した理由は?

荻 自分たちがこれから学んで開発できること、そして重要で機密性の高いデータなのでセキュリティを確保しなくてはならないこと。これを考えると、FileMakerしか選択肢がなかったと思います。

-- 外注という選択肢はなかったのですか?

荻 私たちは「デザイン思考」でやっていこうと考えたのです。ユーザを中心に考え、設計・計画の段階でPDCAサイクルを回すということですね。外注すると、要件を相談し、作ってもらって、使って、直してというサイクルに何か月もかかってしまいます。これでは自分たちの考えとはほど遠い。現場にいる人が作り、作る人=ユーザであることが重要です。

-- ほぼ毎年アップデートができるのは、内製化ならではですね。

荻 訓練と評価システムを常に見直し、パイロットのマスターデータを流用する以外は、ほぼ毎回、ゼロからデータベースを作り直しています。評価方法も見直して、前年の基準を省いたり、新たな基準を導入したりしています。

-- ほぼゼロからデータベースを作り直すとか、入力項目を変えたり減らしたりするというのは、勇気のいることのように思いますが……。

荻 ある入力項目を省いたけれどやっぱりあったほうがよかった、となれば、次回に復活させればいいと考えています。それに、1年間蓄積してきたデータは残りますから、無駄にはなりません。

京谷 もちろん、新しい仕組みはまず一部の訓練から試験的に運用するというようなサイクルも取り入れています。

○精度の高いデータを運航の安全につなげる

-- データベース化することの意義をどのように考えていますか?

荻 最終的なゴールは「安全をいかに高めるか」、これに尽きます。そのための仕組みや手段を構築しようとしているわけです。訓練のデータを高い精度で蓄積し、今後の訓練の向上、そして安全な運航につなげるということです。データの精度を上げるために、パイロットに必要なコンピテンシー(業務遂行に必要な能力)を細分化、明文化して、教官に評価を入力してもらうことにしました。

京谷 事故やインシデントのデータのほかに、訓練から得られた膨大なデータも、今後の訓練に活用できます。これが世界で採用が進んでいるEBT(エビデンスに基づく訓練体系)で、2018年度から本格的に導入していきます。

荻 このような訓練の必要性を国土交通省と検討してきた結果、2017年4月に国の新たなパイロット訓練・審査制度が施行され、EBTの本格導入へとつながってきました。このほか、レポートを毎週発行することもでき、いま起きていることの把握、対応にも役立っています。

-- データベースは業務の効率を上げるというイメージが真っ先に思い浮かぶことが多いと思いますが、このシステムは業務の質を上げる目的のものですね。

荻 教官にとっては「業務の効率化」ではなくむしろ逆で、負担が増えたかもしれません。それまでは自己流のやり方で紙に手書きすればよかったものを、細分化された項目に対して一定の基準で評価しなくてはならなくなったからです。教官によってITの得手、不得手もあり、抵抗感もあったと思います。しかしこのシステムにより、精度の高いデータを得られるようになりました。しかも教官の評価の質が上がり、個人差によるばらつきがなくなって平準化されました。「安全をいかに高めるか」というゴールのために、大きな意義があります。

-- 訓練の評価システム以外に、FileMakerを活用するプランはありますか?

京谷 私たちが所属する運航本部にFileMakerを使える人が増えてきて、教官の教育技法をデータベース化して共有しようという動きがあります。このように、やりたいことがあっても以前はその手段がなかったのですが、FileMakerを使うことで共有のみならず改善の手段まで考えられるようになったと思っています。

○ファイルメーカー社もこの成功事例を高く評価

日本航空のこの活用事例を、ファイルメーカー社はどのようにとらえているのだろうか。話を聞いた。

エプリング 日本航空の成功事例を誇らしく思っています。FileMakerの競合は「紙」であり「古い仕事」であると考えています。この事例では、シチズンデベロッパー、つまりシステム構築の専門家ではなくユーザ自身が開発し、成功していることに勇気づけられる思いです。

ホルジー 必要な機能がどこにあるのかをすぐ見つけられるようにするなど、始めたばかりの人にとっても使いやすい製品になるようにFileMakerの開発を続けていきます。

日比野 パイロットの方々がトレーニングを受けたり弊社の教材を利用したりしてこのシステムを内製したと聞き、感嘆しています。今後は外部連携の部分で、弊社や弊社パートナーもお手伝いしていく予定です。(小山香織)

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