「ウイスキーにはいろんな種類があり過ぎ、どれから呑んで酔いかわからん」、そんなビギナーも多いだろう。私もそう思う。前回、ハイボールを呑むにあたり、ウイスキーの産地と名称ぐらい覚えたいと述べた。よって今回は、日本で特に人気の高い「スコッチ」について触れたい。スコッチについて日本には一家言持つ輩が山ほどおり、掘り下げると何冊分の書籍になるか想像もつかない。ここではあくまでビギナーがBARに足を運び、オーダーができるレベルを目指す。
■スコッチについて最低限知っておきたいこと
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どの国もそれぞれウイスキーについてのこだわりを持つが、イギリスではスコッチ・ウイスキーは法として定められている。
スコッチは
1.スコットランドの蒸留所で水と発芽大麦、穀類を使用し、麦芽の酵素で糖化、酵母で発酵させる。
2.アルコール度94.8%以下で蒸留。
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3.700リットル以下の樽で、スコットランドの保税貯蔵庫内で3年以上貯蔵。
4.水と天然のカラメル以外を加えず、アルコール40度以上でのボトリング。
5.ラベルには、原酒のうち、もっとも熟成期間の短い年数を記載しなければならない。
ざっと列挙しただけで上記の通り。非常に厳密だ。つまりそれ以外の製法の蒸留酒は、スコッチと呼ばれない。
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そうした製法に基づきながらスコッチには様々な種類、呼称があり、えらく紛らわしい。モルト、シングルモルト、オールモルト、ピュアモルト、グレーン、シングルグレーン、ブレンデッド、ブレンデッドモルト、ヴァッテッド……などなどとビギナーにとっては聞いているだけで面倒になってしまう。ここでは薀蓄を身に付けるよりも実践に沿ってBARで呑むことを目指すので、スコッチについては2つだけ覚えて欲しい。
ひとつはブレンデッド、もうひとつはシングルモルトだ。
BARでオーダーするには流通の多いこの2つだけは覚えておこう。ブレンデッドは、文字通りいくつかの「ウイスキー」がブレンドされたスコッチ。一般的にはモルト原酒数種類とグレーン原酒数種類が合わせられたものを指す。一方、シングルモルトは、ひとつの蒸留所で作られたモルト原酒のみで作られた「ウイスキー」を指す。このシングルモルトについては、スコッチ・ラヴァーの数だけ薀蓄が存在するとしても過言ではないので、ここでは一旦、見送ろう。
■ビギナーに「ブレンデッド」をおすすめする理由とは
「ハイボール」を覚え、次のステップに進もうという方には、まずブレンデッドを勧める。ブレンデッドは、スコッチの生産量の約95%を占める。普遍的なブレンデッドの銘柄は「ハイボール」にもピッタリだ。日本では特にシングルモルトの人気が高いが、世界的、一般的には生産量からしてスコッチとはブレンデッドを指すといっても過言ではない。現在、世界中でスコッチが親しまれているのも、1800年代中ごろに流通し始めた新しいスコッチ「ブレンデッド」のおかげだ。ブレンデッドがスコッチとして認定されたのは、1909年とやや遅い。しかし、スコッチが世界に広がるきっかけを作ったのはシングルモルトではなく、ブレンデッドだ。ウイスキーは1800年代後半から日本にも輸入されているが、シングルモルトがイギリスからアメリカに輸出されるようになったのでさえ1930年代になってから。歴史的にも古来、スコットランドで呑まれ、時として密造されてきた昔ながらのシングルモルトに比べ、ブレンデッドのほうが「新しい」。ゆえに一般論としてビギナーがBARでオーダーするには、ブレンデッドをお勧めする。
ウイスキーの入門編として最適なブレンデッドだが、なかには「腰を抜かす」くらい美味いものも。「デュワーズ30年ネプラスウルトラ」はまさにそんな一本
さて、ウイスキーと聞いて「サイドボード」を思い出す方は、それなりに昭和の時代を送ったことがある方々だろう。昭和のオジサンの自宅では、大人の腰の高さほどのガラス張りの収納棚「サイドボード」に、父親が免税店で仕入れたウイスキーやブランデーのボトルが陳列されていたものだ。その際、並んでいたウイスキーの銘柄と言えば、ジョニー・ウォーカー、ベル、バランタイン、シーバスリーガル、カティサーク、デュワーズ、フェイマスグラウス、ホワイトホース、J&B、オールドパー…などというあたり。後生大事に飾ってあるものだった。オジサン世代は、そんなボトルを眺め、適齢期になる前にウイスキーの銘柄を知っていたものだ。ちなみに、今でも家具屋ではサイドボードで通じるそうだが、「リビングボード」、「リビングキャビネット」と呼ぶのが今風なのだそうだ。
上記に列挙したブランドを2つ、3つ覚え、BARでそのハイボールをオーダーする……そんなあたりからBARでの「ウイスキー始め」に挑もう。並べたブランドのスコッチは、近所の酒屋やスーパーでも廉価で手に入れることができるので、自宅でトライすることもできる。いくつか試すうちに、自分の好みを見つけることができるに違いない。好みが決まれば、BARのマスターや、まわりの常連客が否応なく、あれこれと世話を焼き、さまざまなお勧めをし、薀蓄も仕込んでくれることだろう。
ブレンデッド「デュワーズ30年ネプラスウルトラ」を手掛けたマスター・ブレンダー、ステファニー・マクラウドさん
ウイスキー造りの花形でとして知られるのは各メーカーのブレンダー(モルトをブレンドしウイスキーを、商品を作る責任者)。シングルモルトはその稀少性も手伝い、それはそれで有り難いものだが、ブレンダーの腕の(ノーズの?)いかんを知ることができるブレンデッドは、やはりしっかり覚えておきたいひと品だ。各種シングルモルトも、「キーモルト(ブレンデッドの核となるモルト)」としてブレンデッドの骨組みとなるケースが多い(もしくは多かった)のだ。ブレンデッドは、まず入門編として試してみよう。
先だってスコットランドで試飲したブレンデッド「デュワーズ30年ネプラスウルトラ」など、腰を抜かすような美味さだった。これはマスター・ブレンダー、ステファニー・マクラウドさん渾身の逸品。「ブレンデッドは美味い」と素直に頷ける。もっともこれぐらいのレベルになると、もったいなくてハイボールなどでは呑めず、ストレートで味わうのだが、いつかビギナーもそんな逸品を試すまでになってもらえれば嬉しい限りだ。