映画俳優・浅野忠信、テレビドラマで新境地 『刑事ゆがみ』で見せた挑戦と遊び心

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2017年11月23日 06:02  リアルサウンド

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 毎話豪華ゲスト陣を迎え撃つ、浅野忠信と神木隆之介の凸凹コンビが素晴らしい『刑事ゆがみ』(フジテレビ系)。民放ドラマで初主演をつとめる“映画俳優”浅野忠信の、映画とはまた違ったドラマならではの一面に、毎週木曜の放送を心待ちにしている人も多いのではないだろうか。


(参考:山本美月が語る、『刑事ゆがみ』ヒズミ役への想い 「自分のオタク的な部分から想像して作っている」


 1988年のデビュー以来、映画をメインの活動フィールドとしてきた浅野は、新進気鋭の若手から巨匠まで、数多くの監督たちとともに作品を生み出してきた。彼の活動は、ロシアのセルゲイ・ボドロフとタッグを組みチンギス・ハーンの半生を綴った『モンゴル』(2007)や、遠藤周作の原作小説をマーティン・スコセッシが監督を手がけた『沈黙-サイレンス-』(2016)など、日本だけにとどまることなく“映画俳優”としての地位を確立してきた。ハリウッドデビューを果たし、現在最新作が公開中の『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017)に至るまで、脈々と映画俳優のあり方を示し続けてきたように思う。ハリウッドに果敢に挑み、日本の俳優たちに対し新たなテーゼを打ち立てた松田優作のドキュメンタリー『SOUL RED 松田優作』(2009)内でコメントする姿も、今思えば興味深い。本ドラマより先にNHKで連続ドラマ主演を飾った『ロング・グッドバイ』(2014)での色気漂うクールな主人公像は、映画俳優である彼だからこその存在感で、現代の日本に見事にフィリップ・マーロウを出現させた。


 本作で浅野が演じる弓神適当というキャラクターは、真相解明のためなら令状なしで容疑者の自宅を捜索するような、違法捜査も平気でやってのける人物だ。かといって暴力や裏取引に走るわけでなく、終始ニヤけた表情で、後輩刑事・羽生虎夫(神木隆之介)を巻き込んで進んでいく。真面目な場面でも子どもたちと戯れたり、音楽をかけてリズムに乗りながら登場したりとあまりに自由すぎる行動が、ドラマならではの多少オーバーなアプローチとマッチして実に新鮮でもある。番組公式ホームページ内のインタビューで、本作の企画について浅野本人はこう語る。「僕は、『3年B組金八先生』(TBS系)がデビュー作でしたし、木村拓哉さん主演のドラマ『A LIFE〜愛しき人〜』(フジテレビ系)で久しぶりにドラマの世界に帰ってきて、それをきっかけに味をしめてしまったというか。もっともっとテレビに出て、おもしろいことができないかな、と思っていた矢先に、フジテレビさんから誘っていただけたので、もうこれはぶっ飛ばしていこう、と。メチャクチャやっていこうと、そういうつもりで頑張りたいと思っています」と。なるほどたしかに「ぶっ飛ばし」ているし、「メチャクチャ」やっているが、このさじ加減の絶妙さに唸らずにはいられない。作品の規模や傾向、演じる役の作品内のポジションによって、自身の持つ雰囲気の濃淡や存在感の大小までも変幻自在に操る浅野の、挑戦であり、遊び心なのだ。


 毎話、浅野と神木の陽気で可笑しな掛け合いに始まり、ゲスト陣演じる犯人の切ない想いに締めくくられる本作『刑事ゆがみ』。毎週決まった時間に我らが浅野忠信を見ることができる喜びをかみしめつつ、次に何をしでかすかわからない弓神の行動を、ひいては浅野の自由な演技を、今後も楽しんでいきたい。


(折田侑駿)


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