北ミサイル、中国の本音は?――中国政府関係者独自取材

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2017年12月04日 15:22  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

北朝鮮の新型ミサイル「火星15型」の発射を受け、中国はどのように反応し、今後どのように動くのか?表面に出てきた言動を総括しつつ、中国政府関係者を独自取材し、北朝鮮問題をめぐる中国の本音を引き出した。


トランプと習近平の電話会談


11月29日未明、北朝鮮は新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15型」を発射した。アメリカ全土をカバーするとみなされている。それを受け、トランプ大統領は習近平国家主席と電話会談を行なった。会談の中でトランプは習近平に「北朝鮮への原油の禁輸」を求めたとのこと。29日午後(日本時間30日午前)に開かれた国連安全保障理事会でアメリカのヘイリー国連大使が明らかにした。


今年9月の北朝鮮による核実験を受け、安保理は北朝鮮への石油製品の輸出制限などの制裁を決定はした。しかし実態は、日米が原油を含めた石油類の全面禁輸を求めたのに対し、中露は原油の全面禁輸に反対し、原油の輸出に上限を設けただけで、表面上、「全会一致」の形を取ったに過ぎなかった。


それに対してトランプは今般、習近平に「今や、北朝鮮への原油の供給を止めなければならない時に来ている」として、原油の全面禁輸を求めた。しかし習近平は、米中協力の重要性を基本に置きながらも対話の重要性を強調。


さらに12月1日、習近平は北京で主催した「中国共産党と世界政党ハイレベル対話」において、北朝鮮情勢に関して「武力を妄信してはいけない」と、アメリカを牽制した。


中国外交部報道官


中国の外交部報道官は11月29日の定例記者会見で以下のように述べた。


中国外交部のHPより、記者の関連質問と報道官の回答を略記する。


質問:中国は本日未明の火星15型の大陸間弾道ミサイルの発射をどう思っているか?


回答:中国は北朝鮮のミサイル発射に関して重大な懸念と反対を表明する。北朝鮮が安保理の関係決議を遵守することを厳しく求める。しかし同時に、半島の平和と安定を維持するため、関係各方面は慎重に行動することを希望する。 


質問:中国は北朝鮮へのさらなる制裁を考えているか?


回答:第一に、中国は一貫して全面的に国連安保理の対北朝鮮制裁決議を厳格に履行している。第二に、中国は半島の非核化に向けて、これまで通り、対話により半島の平和的安定を維持するという原則に基づいて行動している。


さらに報道官は「軍事手段は問題解決の選択肢にない」と述べて、対話の重要性を強調し、ここでもまた圧力強化を訴える日米を牽制した。


ヘイリー米国連大使の発言に対して


アメリカのヘイリー国連大使は29日、国連安全保障理事会の緊急会合で、「全ての国」に北朝鮮との外交や通商関係における関係を断絶するよう呼びかけた。


これに対して中国の国連代表は「深刻な現状を考慮し、すべての関係国が安保理決議を厳格に実施し、早期の交渉開始に向け最大限の努力をすべきだ」と述べ、ロシアの国連大使も「一触即発の状態に火をつける」とし、12月に予定されている米韓軍事演習を停止するよう求めた。


さらにロシアのラブロフ外相は30日、訪問先のベラルーシでヘイリーの提案を拒否する考えを明らかにした。ラブロフは「対北朝鮮制裁は既に尽くされており、対話を再開する必要がある。アメリカが軍事演習などを通じて北朝鮮を挑発している」とした上で、「もしアメリカが、北朝鮮を破壊する口実を探したいのなら、はっきりと言うべきだ」と非難した。


それに続けて中国外交部の報道官も、ラブロフと同じく、北朝鮮との関係断絶を拒否しただけでなく、北朝鮮を国連から追い出すことも適切ではないと述べている。


中露は今年7月5日、中露共同コミュニケを出しており、あくまでも「双暫停」を主張している。何度も繰り返すが、「双暫停」とは「米朝双方が軍事行動を暫定的に停止して対話のテーブルに着く」という意味だ。「北朝鮮は核・ミサイル開発を停止すると同時に米韓も合同軍事演習を停止すること」を指す。


中国政府関係者を独自取材


これまで何度もコラムで書いてきたが、中国は北朝鮮の暴走を食い止めることができる独自の3枚のカードを持っている。


 1.中朝軍事同盟の破棄


 2.原油のパイプラインを遮断する全面的な断油


 3.中朝国境の完全封鎖


の3つだ。


トランプの言う通り、今こそまさに、そのカードを使うべき時ではないのか。中国はどういうつもりでいるのか。習近平の発言や外交部報道官の回答だけでは図り知ることができない詳細に関して、中国政府関係者を独自取材した。


以下、「Q」は筆者の質問、「A」は中国政府関係者の回答で、( )内は、筆者の説明や解釈である。


Q:核・ミサイル開発を中止しなければ、中朝軍事同盟を破棄するという威嚇は、北朝鮮に対して既に行っているのか?


A:あんなものは既に存在しないに等しい。北朝鮮もきっと、そう思っているだろう。


Q:それならなおさら、今こそ、北朝鮮に送っている原油のパイプラインを遮断すべきではないのか?


A:そうしたら確かに北朝鮮は持たない。しかし同時に、「中国が遮断したのだ」ということが明確になるわけだから、北のミサイルは北京に向かってくるだろう。


Q:中朝戦争になるということか?


A:そうだ。だから中国は国連安保理決議による制裁にしか踏み切っていない。おまけに国連安保理決議は忠実に履行している。


Q:いま習近平とトランプの仲は非常にいいのではないのか。もし北朝鮮が北京にミサイルを向けてくるというのなら、アメリカと連携しながら北をやっつけてしまうことができるのではないか?


A:米中の連携はもちろん考えている。しかしアメリカには日本がいつも、くっついている。日米同盟があるじゃないか。米中が軍事的に連携すれば、日本とも連携したことになる。特に安倍政権は憲法を改正して軍国主義の道をまた歩もうとしている。中国がそんな日本と軍事的に連携するなどということが、あり得るとでも思っているのか?


Q:あり得ないことは分かっている。だからこそ中国は10月末に韓国と「三不一限」の中韓合意文書を出して、日米韓連携に当たり韓国が日本と軍事同盟を結ばないように、韓国を日本から切り離そうとしているのではないのか?


(筆者注:三不一限とは11月26日付けコラム<韓国を操る中国――「三不一限」の要求>に書いたように「米国のミサイル防衛体制に加わらない。韓米日安保協力が三カ国軍事同盟に発展することはない。THAADの追加配備は検討しない。現有のTHAADシステムの使用に関しては、中国の戦略的安全性の利益を損なわないよう、制限を設ける」のこと。)


A:韓国は日本とは距離を置けても、アメリカとは距離を置けない。その証拠にTHAADを韓国に配備し、結局、安全保障上、中国に不利益を与える状況から韓国は抜け出せないでいる。どんなに文在寅(韓国大統領)が訪中しようとも、米韓軍事同盟を放棄することはしないだろう。


Q:韓国が中国の傘の下に入り、中国に守ってもらうという選択はあり得ないと思うが......。


A:当然だ。北朝鮮は中国が韓国と国交を結んだだけで(1992年)、どれだけ中国を敵対視し始めたことか。米中が仲良くするだけでも「敵と通じ合っている」として中国を敵国扱いしている。韓国がアメリカから離れ中国と同盟を結んだら、中朝戦争はすぐに始まる。北朝鮮は実にやっかいな国だ。


Q:では、中国はどうするつもりなのか?


A:だから、「双暫停」しかない。中露の立場ははっきりしている。しかも、一刻も早く対話に持ち込まないと、北朝鮮はアメリカ全土をカバーする大陸間弾道ミサイル(ICBM)を完成させてしまい、核保有国になってしまう。日米は実に愚かだ。圧力や制裁などで北朝鮮が核・ミサイルを放棄するなどとでも考えているのだろうか?プーチンも言ったように、金正恩は草の根を食(は)んででも絶対に放棄しない。放棄するくらいなら自爆するだろう。安倍は金正恩の考え方を変えさせるなどと妄言を吐いているが、実態を知らな過ぎる。立場の弱い国は自国を守るために核を持つしかないんだ。かつての中国も同じこと。毛沢東が核を持つために何と言ったかは知っているだろう?


Q:もちろん知っている。毛沢東は「たとえズボンを穿かなくても、核を持ってみせる」と言って、実際に1964年に核実験に成功した。あれは対アメリカでもあり、対ソ連でもあった。朝鮮戦争のときにマッカーサーが中国に原爆を落とすと言ったし、1960年代には既に中ソ対立があって、ソ連も核を持っていたから、自国を守るためには核を持つしかないと、毛沢東は言った。


A:その通りだ。経済制裁を受けて孤立すれば、弱い国はどんなことがあっても核を持とうとする。だから、核・ミサイルを放棄させたいのなら、圧力と制裁は逆効果になる。それを安倍は知るべきだ。トランプも中国に北への原油供給を断てと言っているが、日本が第二次世界大戦を始めた理由の一つに、日本に対する石油の禁輸があることを日米自身が最も知っているはずだ。そのことを忘れたのではあるまい。それを考えれば、圧力と経済制裁は北朝鮮を益々挑発的な行動へと導き戦争の実現性を駆り立てていくだけだということを理解すべきだ。その間に北の核・ミサイル開発技術は急速に発展し、交渉の余地を失わせていく。


Q:では今、北朝鮮にいる中国人留学生を帰国させ始めているが、それは戦争が始まると考えているからなのか?


A:戦争が始まるか否かは、ひとえに米韓が合同軍事演習を辞めるか否かにかかっている。金正男がマレーシアで暗殺されたとき、実行犯を操っていた(マレーシアにいた)北朝鮮スパイを北に帰還させるために、北は北朝鮮にいたマレーシア政府関係者を人質とした。ひとたび人質に取られたら、どんなことが起きるか分からない。だから中国人の安全を守るために帰国に向けて動いている。


Q:もし対話に入ったとき、それでも北が核・ミサイルの凍結を承諾しなかった場合、中国は断油を実行するか?


A:その問いには答えられない。


以上だ。


最後の問いと答えこそが、全てを物語っているが、筆者もこれ以上は書けない。Q&Aは、延々と続いたが、ここまでにしておこう。


(なお、中朝国境線の完全封鎖に関しては文字数の関係上、省略した。)


[執筆者]遠藤 誉


1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。


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遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)


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