<反イラン同盟ではないというけれど......スンニ派諸国の結束を強化する狙いは明白>
この地球上からテロリストを一掃する――。サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が、そんな勇ましい宣言をしたのは11月26日、首都リヤドで開かれたイスラム軍事同盟の国防相会議でのことだ。
「ここ数年、ここに集まった全ての国でテロが起きてきた。しかしわれわれの間には連携がなかった」。会場に集まった約40カ国の代表は、ムハンマドの言葉に聞き入っていた。
イスラム軍事同盟は2015年に設立され、エジプトやバーレーン、トルコから、アフガニスタン、ソマリア、ウガンダまで、イスラム教徒が人口の大多数を占める多くの国が参加する。最高司令官はパキスタンのラヒール・シャリフ前陸軍参謀長だ。
設立から2年間は目立った活動をしていなかったが、ここへ来て「テロとの戦い」を前面に押し出して結束をアピールしている。これに対して、専門家は称賛と冷笑の入り交じった反応を示している。
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一方では、中東におけるテロとイスラム教スンニ派過激主義を取り締まる上で、ムハンマドの役割に大きな期待が集まっている。特に最近注目されているのは、ISIS(自称イスラム国)などのテロ組織を触発してきた厳格なワッハーブ派の穏健化だ。
「中東の最も暴力的テロ組織のほとんどは、サウジアラビアが国教とするワッハーブ派を信奉している」と、ブルッキングズ研究所中東政策研究センターのクリス・メセロールは語る。「だからムハンマドが、特にワッハーブ派過激主義を非難できれば、中東全体の平和と安定を大きく推進できるだろう」
放火魔と消防士の二役
実際、サウジアラビア政府は、宗教的な穏健化を進める姿勢を明らかにしてきた。最近発表された女性に車の運転を認める決定も、同国が厳格な宗教法を緩和している証拠とみられている。
だが、テロとの戦いにおけるサウジアラビアの歴史には、光と影が交錯する。「サウジアラビアは長年、放火魔と消防士の両方の役割を果たしてきた。一方では過激主義の火をあおり、他方では火消しを試みてきた」と、メサロールは指摘する。
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イスラム軍事同盟の真の目的は、反イランで関係国との結束を図ることだと指摘する専門家もいる。サウジアラビアとイランは中東の盟主の座をめぐり激しく競い合っており、ここ数カ月のサウジアラビアは好戦的な姿勢を強めている。
「『テロとの戦い』は、国内外で別の政治目標を追求あるいは隠すための口実として利用されてきた。例えばサウジアラビアの新テロ対策法は、国王と皇太子を批判することをテロと見なすとしている」と、テネシー大学公共政策センターのハリソン・エーキンズは指摘する。
また、ムハンマドはテロとの戦いを唱えるが、これまでISISと激しく戦ってきたイラクとシリアは、イスラム軍事同盟に参加していない。どちらもイランと関係が深い国だ。「どの国が参加していないかを見れば、これがスンニ派諸国の反イラン同盟であることが分かるだろう」と、エーキンズは語る。
だが、イスラム軍事同盟のアブドルラウフ・サレハ事務総長は、そんな見方をきっぱり否定する。「敵はテロだ。特定の宗派や宗教や人種ではない」
それでも懸念は消えないと、エーキンズは言う。「この同盟をきっかけに、これまで水面下で高まっていたサウジアラビアとイランの緊張が、本物の衝突に発展する可能性は高まったと言えるだろう」
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<本誌2017年12月12日号≪最新号≫掲載>
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