騎手の「エージェント」も馬券禁止へ 副業で馬を手配、JRAの鬼っ子化する競馬新聞トラックマン

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2017年12月16日 09:42  弁護士ドットコム

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日本中央競馬会(JRA)は2018年1月1日から騎乗依頼仲介者(以後、エージェント)による勝馬投票券(いわゆる馬券)の購入、または譲り受けを禁止する。エージェントは騎手の代わりにレースで乗る馬の依頼を受ける人で、競馬新聞のトラックマン(予想・取材記者)による兼業が多い。競馬ファンの間では事実上、騎乗馬を決定している人がレースの予想をして馬券を買うことに批判は多かった。禁止に踏み切った事情をJRAに聞いた。(ジャーナリスト・松田隆)


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●84年無敗の三冠馬シンボリルドルフの主戦・岡部幸雄騎手が先駆け

エージェントは「競走に関し、騎手が馬主又は調教師から騎乗依頼を受けるにあたり、騎手本人に代わりその受付を行う者」(JRA・HPより)。騎手は馬主または調教師の騎乗依頼を受け競走馬に騎乗するが、人気騎手には依頼が殺到する。


騎手は週末の2日間で最大24レース、多い時は3日間で36レースに騎乗する。そのすべての騎乗馬を関係者と交渉して決めるのは、手間のかかる作業。そこで騎手本人に代わり騎乗依頼を受け付けるのである。マージンは騎手がレースで得る賞金の5%程度が相場とされる。その場合、1着賞金1億円のレースを勝てば騎手は500万円受け取り、その5%の25万円が取り分(騎手が負担)。実際は調教師と打ち合わせて、ほとんどの騎乗馬を決定しているという指摘もある。


こうした業務を行う者は自然発生的に登場した。1984年の無敗の三冠馬シンボリルドルフの主戦で知られる岡部幸雄騎手(現JRAアドバイザー)が、1980年代に競馬専門新聞のトラックマン(レースの取材、予想者)の松沢昭夫氏を自らのエージェント的存在として起用したのが始まり。当時、競馬雑誌等で松沢氏の特集が組まれるなど、その存在は注目を集めた。


その後、多くの騎手が採用し2006年の制度創設につながっていく。このようなエージェントは、JRAにとって「鬼っ子」的存在と指摘する識者も存在する。確かに、公に認められないまま騎手の周囲で騎乗馬決定に関与してマージンを抜く存在は、競馬のイメージアップにつながらない。


JRAは「岡部騎手と松沢氏の関係が騎乗依頼仲介者の先駆けであるとの認識は持っております」とする。2006年の制度化については現状を追認し、あやふやだったエージェントの地位・権限を明らかにする趣旨であったと言っていい。


こうした一連の事情が明らかになってくると、競馬ファンの中には不信感を抱く者が出てきた。その根底にあるのは、騎乗馬を事実上決定している者が競馬新聞上でレースの予想をして馬券を買うことができ、また、買っていると思われることである。


●通達による禁止という手法の効果

競馬法は馬券を購入してはいけない人を規定している(同法29条)。対象はJRAの職員(同条2号)、調教師や騎手等(同条7号)。主催者や、レースの結果に重大な影響を及ぼす人を馬券購入者から排除し、競走の公正を確保するのが目的で違反者は100万円以下の罰金に処せられる(33条1号)。


しかし29条各号にエージェントは含まれない。そうなると競馬ファンの中には「エージェントが、契約した騎手の有力馬について予想で低い評価にしたり、悪い情報を流したりして人気を落としてオッズを高くし、その馬の馬券を買って儲けているのではないか」と考える人も出てくる。実際、JRAは「お客様から騎乗依頼仲介者に関して様々なご意見があることは認識しております」と言う。


こうした状況から「制度の透明性をより高める」(JRA)目的で、今回のエージェントの馬券購入を禁止する措置を決定した。なお、馬券購入禁止以外にも改正点は2点ある。


(1)馬券購入禁止


(2)業務範囲の変更


(3)欠格事項の追加


今回の措置は競馬法の改正ではなく、平成29年日本中央競馬会理事長通達第18号「騎乗依頼仲介者に関する事項を定める通達」によるもので競馬法の罰則規定は適用されない。通達とは自己あるいは下級機関を拘束する内部規範である行政規則の一種。法令と違って一般国民に対する効力はない。


そのため(1)の馬券購入禁止は、違反しても罰則がない。ただし、JRAは違反した場合に「騎乗依頼仲介者の承認取消だけでなく、本会業務区域内への立ち入り禁止の措置を講じる」としていることから、実効性は問題ないとしている。もっとも競馬法では馬券を買うことは禁じられていないのに、通達で制限することは法的に問題がないわけではない。たとえばエージェントが「自己が馬券を買うことができる地位にあることを確認する訴え」を提起した場合、勝敗はともかく判断は司法の場に委ねられることになるだろう。


(2)は、これまでの「騎乗依頼の受付」から「騎手は騎乗依頼の承諾に係る代理行為を行わせることができる」に変更された。分かりやすく言えば、騎乗依頼を受けたエージェントが「その馬、乗ります」と自分の意思で決められるということである。権限が強化されたことになるが、実際は現状を追認したにすぎない。


法的に考えれば、これまでの騎乗依頼を受け付けて本人に伝達するだけの「使者」から、承諾に関して代理権を有する「任意代理」となる(どちらにするかは騎手との契約で決定)。今後は民法の代理の規定程度は頭に入れる必要に迫られそうである。


(3)の欠格事項の追加は馬主や、馬主に雇用されている者はなれないとする規定。有力馬を多く抱える馬主による人気騎手の囲い込みを禁じる趣旨と言っていい。


以上のように、JRAは権限を認めつつ規制を強めるアメとムチを使い「来年以降もより良い制度を構築すべく検討を続けてまいりたい」と、さらに制度を変更する可能性に言及する。「鬼っ子」をどう扱うかという問題は、この先も続きそうである。


【プロフィール】


松田隆(まつだ・たかし)


1961年、埼玉県生まれ。青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。主な作品に「奪われた旭日旗」(月刊Voice2017年7月号)。


ジャーナリスト松田隆 公式サイト:http://t-matsuda14.com/


(弁護士ドットコムニュース)


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