保育園経営者の角川慶子さんと、ホストクラブ代表取締役の信長さん。前編では経営者としての苦労を語り合いましたが、どんな苦労があっても乗り越えられるという自信を持っているのが、お二人には共通しています。他人のやっかみも跳ね除ける2人の強靭さに迫ります。
■金持ちで黄色の財布は見たことがない
角川慶子さん(以下、角川) 信長さんは、業界を問わず成功者の方をたくさん見てらっしゃいますが、共通するものはありますか? お財布は長サイフとか。
信長さん(以下、信長) きちんとしている人が多いですね。いい意味で細かい。バッグが整頓されているとか、スケジュール管理もキチッとしているとか。高いものでなくても、バッグ、洋服がきちんとした人。逆にブランド物でもだらしがない印象だと、売り掛けしたら飛んじゃいそうだなと思います。
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角川 お財布の特徴はないですか?
信長 財布? どうだろう、あまり見てないですね。確かに領収書でパンパンになってるということはないと思いますけど。
――財布を新調しようとしている人も、成功者の財布がどんな形状か知りたいと思います。
角川 スピリチュアル的に言うと……。
信長 黄色がいいと言いますよね。
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角川 私、金持ちで黄色の財布は見たことがない。やっぱり黒か茶色が多い。
信長 やべえ、僕は白だ(笑)!
角川 白はいいんですよ。風水的には白い長財布はうまく行きます。スピリチュアルカウンセラーのエスパー小林さんによれば、成功者で黄色の財布を持っている人はいないそうです。奇抜な色は持たない。確かに、私も金色のジミー・チュウの財布を持っていたときは散財しました。
信長 どういうことで散財されるんですか。
角川 貴金属とか……。外商に「角川さん、スーパーブランドで普段セールをしないんですが、特別にしているんですよ」と言われると気分がよくなって買っちゃうんですね。
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信長 すごい。
角川 いや、ホストクラブでシャンパンタワーの方がよっぽどすごいですよ。
信長 30分でなくなってしまうシャンパンタワーをやってもらえるというのは、ある意味それ以上の価値があるかもしれませんね。
角川 ああいうことをする人は、もともとお金持ちの方ですか? それとも信長さんの誕生日に合わせて少しずつ貯金してきたという感じの人が多いですか?
信長 1年間、積立預金したみたいなお客様が多いですね。シャンパンタワーを目標にお仕事を頑張っていただいたという経験もあります。
角川 いい話。
信長 勘違いされやすいんですが、むしろお金を持っている人は使わないことも多いです。自分のためには使うけど、ホストクラブには使わないというケースもたくさん見てきました。
――ホストクラブでシャンパンタワーを入れるなど、豪勢な遊び方をしているのは富豪だと思っている人がほとんどだと思います。
角川 お金持ちほどケチですよ。信長さんは、余命があまりないお客さんが入院したときにお見舞いに行っていますよね。若い人であれば、「病気が治ったらまたお店に来てくれるかも」と考えるけど、そういった欲得で考えてない。私もそれに近いと思いました。自分にはなんの得にもならないし、おせっかいかもしれないけど、育児に関して「こうしたらどうですか」とフォローしています。その人にとってプラスになってくれたらうれしい。“愛されたい”じゃなくて“幸せになってほしい”です、みんなに。
信長 僕も、好かれるためにその人に合わせることはしないけれど、相手の立場に立って考えることはよくしています。ある若手ホストの話なんですが、お客様と一緒に来店したとき、お客様は明らかにイライラしていて。そこへその若手ホストが「シャンパンを入れてほしい」と言うから、ますますイライラしてしまったことがあったんです。僕はヘルプについてたんですけど、その若手ホストが抜けて、30分くらい僕とお客様の2人きりになったので全力で接客したら、テンションが高くなってきました。そこへ先ほどの若手ホストが戻ってきて、「そろそろシャンパンいいですか」と言ったら、10万円のシャンパンが2本入ったんですよ。シャンパンを入れてほしいなら、お客様をそういう気分にさせないと。空気が読めない人は結構多い。
角川 嫌だ、そんなホスト、指名替えしたい。信長さんがいい! でも、「Club Romance」は指名替えダメなんですよね。
信長 よくご存じですね(笑)。角川さんは、保育園経営でママの立場で考えることはありますか。
角川 しょっちゅうですね、受験やトイレトレーニング、いつも「困ってないかな」「どういうサービスが必要かな」「遠足や運動会を企画してほしいのかな」と考えてまたなにかビジネスに発展させていければと思っています。でも、対お母さん、対ホストクラブのお客さんもそうですが、「もっと、もっと」と、どんどんサービスの要求が高くなりませんか? 保育園で連絡ノートがあるんですが、「1時間おきに何をしているか書け」と保護者に言われたり。それは書いているものの、「うちの仕事を超えてるよね」というときは断ることも必要。
信長 やってあげたい気持ちはあるけど、どこかで止めないと。「ディズニーランドに行って1泊しろ」と言われても泊まれない。
角川 ディズニーランド、営業で行ってるホストは多いですか?
信長 多いですね。普通によくあります。同伴して一緒に来店することもあるし、あえて休みのときに行くことで特別感を出すことも。誕生日にシャンパンタワーをやってくれたお礼とか。
角川 ああ、いくら出せばホストとディズニーランドに行けるんだろう!?
――「他人の目は気にしない」という面を持ちつつも、「他人の立場に立って考えること」を重んじているお二人ですが、それがなかなかできずに苦しんでいる女性は多いです。例えば、女性の世界には、マウンティング問題というのがあります。どちらが上か下かで争い、他人に自分がどう映るのか気にして、視野が狭くなり、生きづらさを感じる女性も少なくありません。
信長 どちらが上か下かで争うのは、男みたいですね。
角川 子どもの幼稚園が一緒で、同じタワマンに住んでいたりすると「うちの方が上の階よ、いいでしょ」と相手を見下す……そんなことが女性の世界にはあるんですよ。
信長 優越感ですね。
角川 そうです。お客さん同士でもありませんか。「あの客が、ボトル入れたから、私も」とか。
信長 ホストクラブではそうならないよう、お客様同士見えない位置に座っていただくんです。だけど、ホストがわざと対抗心を燃やすようなことを言う。「あそこでシャンパンが入ったからちょっと行ってくる」とか。シャンパンコールが「ワッショイ、ワッショイ」とかかるのを聞いて「私も入れようかな」と対抗するお客様もいれば、「じゃ、私は今日帰るわ」と帰ってしまうお客様もいる。最近は帰る方が多いですね。お客様の幅も広がり、普通のOLさんや、おとなしいお客様が増えたんです。ちなみに昔はお客様はオラオラな人が多かったですね(笑)。
角川 「今日はいくらまで」と言う人も多いですよね。
信長 多いです。だから「マウンティング」と聞いてびっくりしました。女性でそんなことがあると思わなかった。
角川 私は「角川さん」というキャラでやってきて、これで嫌われたらいいやという気持ちでいます。ママ友の前でも仕事でも。それでも、保護者会で持ち物を見たり洋服を見たり、意識してくる人はいますね。マウンティングまでいかなくても。
信長 それはありそうだな。
角川 職場や同じ幼稚園とか、小さくて逃げられないコミュニティの中で起きるんですよ。
信長 「あの人、あのバッグを持っているから対抗しよう」なんてやってるとキリがない。いつまでも幸せは見つけられない。楽しいか幸せかは人と比べることではないですから。ただ、一度「気にしない自分になるぞ」と意気込んだとしても、他人が気になりだすことはありますよね。そうやって打ちひしがれたときに本を読むと、また「気にしない方がいいな」と思える。そうして反復練習しているうちに、だんだん気にならなくなる。だから、たくさんいい文章を読んだり、いい人と話した方がいい。
――他人を気にしないというのは、生まれ持った性格ではないんですね。
信長 僕がこういうことを言えるようになったのは、ここ3〜4年の話ですよ。それまでは、なぜうまくいっているのかわからなかったし、こうやって話すこともできなかったんですけど、本を書くことは自分を見つめる作業でもあるので、だんだんわかるようになってきたんです。
角川 信長さんのセミナーをぜひ聞きたいです。
信長 角川さんにお伝えするようなことはあまりないような……(笑)。お悩みがあるんですか。
角川 ありますよ。会社は浮き沈みがありますから。今年は、急に海外赴任が決まったり家を購入して引っ越したりという方がいらっしゃって、売り上げがびっくりするくらい下がってしまったんです。
信長 保育料は毎月にいくらですか。
角川 うちは、0歳児はお預かりしていないので、1〜2歳が一番高くて12万6,000円。標準より高い方の保育園です。
信長 そういう保育園を真似する人が出てきそうですね。
角川 いますね。一時期「プロデュースをお願いします」と言われて、ノウハウを教えたら、「自分も」と保育園を始めた方がいたんですが、そこは自分の考えを入れすぎてうまくいってないんですよ。信長さんは「真似も大事」と書いていましたよね。
信長 100%真似でいい。「私らしく」とみんな思いがち。「俺流でホスト像をつくりたい」というホストも多いけど、それは形ができてからですね。それに、真似してても個性は出ちゃうものだから。
角川 信長さんは真似できないですよ。そうだ、信長さんって、ほんとに20キロも太ってたんですか……?
信長 太ってました(笑)。100キロ近くあって、なんでホストやったのかわからないですよね。根拠のない自信があったんでしょうね。
角川 それで「ナンバーワンなる」と宣言したこともすごい。根拠のない自信も言霊の引き寄せ。成功のメソッドなんですよね。
――世の中では、根拠のない自信を持つ人を訝しがる風潮も否めません。それに、自信がないから周りに流される、いわゆる同調圧力に屈してしまう人の方が多い気が……?
信長 自信のない人は本当に多いですね。自信なんて待っててもつかないですよ。例えば、「優勝したら自信がつく」と言われたとして、自信って100〜200人のうち1人にしかつけられないのか? と。全国大会で優勝するまで、自信はつかないのか? と。そんなチャンスは待っていても来ない。根拠なく自信を持っていい。
角川 信長さんがホストになったばかりの頃、オラオラ系の中で、あえてきれい目にして浮いていたそうですが、同僚からよく思われなかった時期もあったのではないですか。
信長 ありましたね。少し前までずっとそうでした。「どちらを取るか」だと思うんです。全部は取れない。ホストクラブが終わったあとみんな飲み会に行くんですが、僕はほぼ行かなかった。そこでまさに“同調圧力”があったんですよ。「なんでお前は来ないの?」と。僕は目標があった。ここでお金を稼いで、これからの生き方を模索したいという気持ちが強かった。だから行かなかったんです。はっきりと目標があると、どちらが大事か選べて迷いがない。
角川 でも、ホストは売れっ子になると、席を埋めてくれる後輩も大事でしょう。あまりに一匹狼だと、後輩を育てられないのでは。そのさじ加減が難しい。
信長 今はお店の幹部であり代表でもありますので、ちゃんとみんなの面倒見ますけど……若い時は、50人ホストがいれば1〜2人は自分と合う子がいるので、そういう子を育てていました。
角川 ママ友コミュニティは、子どもが“人質”。自分がうまくやらないと、子どももいじめられるんじゃないかと親が思うから、それがますます気になる原因になっています。
信長 そうなると完全に同調しないことは難しそうですね。ドライな部分とちょっと同調する部分とどっちも持っておくといいかも。自分なりに限界点を決めておいて、それを超えたら開き直る。それまでは多少同調する。社会に生きている以上、どこか折れるところはないと。あとは僕の本を読むといいですよ(笑)。
角川 完全に一匹狼は天才以外無理ですね。
――最初、お二人にスーパーマン、スーパーウーマンのような印象を抱いていたのですが、人間味のある面を感じました。みんなと同じように悩みつつ、まい進されてる気がします。
信長 僕は、イラついたときは漫画を読むことにしていますよ。iPadの中に4,000冊くらい入っています。そのときイヤでも、次の日には「まあ、いいか」と思えることもあるので、好きなことをしてうまく忘れるといいですよね。
角川慶子(かどかわ・けいこ)
1973年、東京都生まれ。「角川春樹事務所」会長・角川春樹氏の長女。自身も元アイドルという異色の肩書きに加えて、ビジュアル系バンド好きで、元バンギャルの”鬼畜ライター”としても活躍。2011年9月に認可外保育園「駒沢の森こども園」、16年4月からは派遣ベビーシッター「森のナーサリー」、17年4月に認可外保育園「衾の森こども園」をオープンさせる。家庭では9歳の愛娘の子育てに奮闘中。
信長(のぶなが)
1979年、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業。学生時代から家庭教師、塾講師の傍ら、ホストの道に入る。歌舞伎町のホストクラブ「Club Romance(クラブロマンス)」代表取締役。ビジネス書作家、講演講師など多彩に活躍。『いい女はドMが9割』(カシオペヤ出版)、『選ばれる技術』(朝日新聞出版)など著書多数。
【著書紹介】
『強運は「行動する人」だけが手に入れる: 歌舞伎町No.1ホストが教える運の鍛え方』(学研)
生き馬の目を抜くホスト業界で、10年以上No.1として生き残り続けてきた、歌舞伎町のホストクラブ「Club Romance(クラブロマンス)」代表取締役・信長氏。彼は、どのようにして、「運」を味方して、「人とお金」を引き寄せてきたのか? をまとめた1冊。運の鍛え方を「行動編」「マインド編」「習慣編」の3パートで丁寧に解説している。