「孫に読ませたい」と話題の “認知症の祖母” を描いた絵本に、著者が込めた思い

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2018年01月01日 14:00  週刊女性PRIME

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 いま、小学生の孫から見て、認知症の祖母を描いた絵本『ばあばは、だいじょうぶ』が話題となっている。作者の楠章子さんが物語に込めた思いを聞いた。

孫が自分の心で感じ優しくなれる物語

 2016年12月に刊行された小学校低学年向けの絵本『ばあばは、だいじょうぶ』が、10万部を超えるベストセラーとなっている。

 主人公は小学生のつばさ。逆上がりができなかったときも、ママに叱られたときも、やさしく、

「大丈夫だよ」

 と言ってくれるばあばが大好きだ。

 ところが、ばあばは犬に何度もエサをやったり、枯れ葉でお茶をいれたりするようになり、つばさは、ばあばを避けるように。ある冬の日、ばあばが突然いなくなってしまい、つばさの心に変化が起きる──。

 小学生のときに祖母が、25歳のときに母・多香子さんが共に若年性認知症にかかった経験をもつ楠さんは、実体験をもとにこの物語を綴った。

「祖母とは夏休みなどに会う程度でしたが、私のためにいろいろなことをしてくれる存在だったのに、何度も同じことを聞いてくるように。戸惑って距離を置いたまま、祖母は亡くなりました。母が発症すると、できないことが増えていくのを見るのがつらくて。私は隣の家に住んでいたのに父に任せきりにして、顔も見に行かなくなったんです」

 ある日、多香子さんが家から居なくなり探し回っても見つからず、夜遅くに戻ってきたことがあった。心細そうな母を目にして、楠さんは、「自分を守ってくれた」母親はいま、「自分が守るべき存在」なのだと気がついたという。

 現在は介護サービスを利用しながら、父、姉とともに家族で世話をしている。

「大変なこともありますが家族の絆は強まったし、介護をして、心が満たされるときもある。悪いことばかりではありません」

 楠さんがこの絵本を作ったのは、同じように「忘れてしまう病気」にかかった祖父母をもつ子どもたちに、「逃げても大丈夫。でも、ちょっとでいいからやさしくしてあげて」と伝えたかったからだ。もっと高学年向けの読みものとして書くこともできた、幼い子どもや読書をしない母親にも読んでほしいと、ストーリーをシンプルにまとめ、温かみのある絵本に仕上げた。

「おばあちゃんに困ったり腹を立てたりしていたつばさが“ごめんね”“やさしくしてあげたい”と思うようになる。気持ちの変化がページをめくるごとにわかるよう思いを込めました」

 2017年9月に、母校の小学4年生と「読み語りの会」を行った。最初、認知症について、ただ“忘れる病気”と受け止めていた子どもたちが、次第につばさの感情を理解し、祖母の心を思いやる言葉を口にしたという。

「みんな思った以上に考えてくれて、伝わっているのがうれしかった。こうした理解がどんどん広がってほしい。年配の方には、認知症を心配したり、老いることを罪悪のように思ったりしている人もいますが、孫を含めて、周りの人たちみんなで支えればいいのだから大丈夫。もっと安心して老いをゆだねられる社会になるといいと願っています

<プロフィール>
楠章子(くすのき・あきこ)◎作家。大阪府出身。第45回毎日児童小説・中学生向き優秀賞受賞。2005年『神さまの住む町』(岩崎書店)でデビュー。作品に『古道具ほんなら堂〜ちょっと不思議あり〜』(毎日新聞社)、『はなよめさん』(ポプラ社)など。『ばあばは、だいじょうぶ』(絵・いしいつとむ氏。童心社 税別1300円)

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  • 今、実家にいます。つい祖母に、何となく行動を否定する発言をしてしまうけど、時には「ありがとう」と受け入れよう。
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