■鑑賞後立ち上がれなくなるほどの衝撃……体験したことありますか?
こんにちはー、金曜ロードSHOW!プロデューサーのターニャです☆
映画を観終わった後、立ち上がれなくなるような衝撃を受けたことはありますか?
「ぐふぅ……」となってしまう映画体験のことです。ふー、ではありません。それだけではとどまらず、さらに深いおなかの奥から絞り出されるような声を漏らしてしまうほど、心を鷲掴みされ、疲弊させられるほどの緊迫感をもって迫ってくるのが、私ターニャの言う「『ぐふぅ……』的映画体験」なのです。
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今回紹介する先週末劇場公開されたばかりの話題作『デトロイト』は、まさにそんな作品です。
■世界で最も才能豊かな女性映画監督
何をおいても、まずは監督を紹介しなければいけないと思います。メガホンをとったのは、キャスリン・ビグロー監督。映画ファンの方にはお馴染みの名前かと思いますが、『ハート・ロッカー』(2008)で女性監督として史上初めてアカデミー賞の監督賞を受賞した映画人です。イラク戦争の爆発物処理班の活動を描いた同作は、ほかに作品賞など合わせて6部門を受賞しました。続く『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012)では、オサマ・ビンラディン捜索の舞台裏で活躍した女性の執念と緊迫の舞台裏を描き、アカデミー賞5部門にノミネートされました。
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© 2017 SHEPARD DOG, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
イラク戦争やテロリスト捜索の諜報活動、といった骨太でシリアスな社会的テーマを圧倒的なリアリティーとともに描く作品作りで、世界で称賛されてきた監督なのです。観る者をひりひりするような緊張感とスリルで包み込み、作品メッセージを傷に塩を塗りこむかのような強烈さで伝えてくれる、私にとっては、必見の監督の一人です。オスカー受賞歴は一つの指標にすぎませんが、あえて言えば、間違いなく、世界の女性映画監督の中で最も才能豊かで、興行的にも大成功した監督のひとりだと言えると思います。
■「女性監督」と映画産業、ビグロー監督の挑戦
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ハリウッドは圧倒的に男性が支配する社会です。大物プロデューサーや有名俳優たちによるセクハラが後を絶たず、最近被害にあった女性たちが声を上げ始めて、大きな問題となっていますよね。そんな世界でビグロー監督は、文字通りのトップランナーとして例外的な活躍をしてきました。アカデミー賞で監督賞を受賞した初めての女性監督であることは既に触れましたが、ノミネーションまで対象を広げても、女性監督はビグロー監督を含めて僅か4人しかいないのです。
さらに、米ヴァラエティ誌によると、2016年にアメリカ国内の興行収入上位250位内に入った映画のうち、女性監督によるものはわずか7%しかなかったと言います。あるいは日本はさらに低いのかもしれませんが、いずれにしても驚くべき低い数字です。
こうした現状について彼女は「茶番」であると形容した上で、「それでも(女性が活躍するという)正しい方向に進む傾向にあるとは思うが、あまりにも遅い」と語っています。さらに、「この不平等がどこから来るのか?それは重大かつ複雑な社会学的疑問だ」とも。
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今回紹介する『デトロイト』で彼女が描くのは、女性差別問題ではなく、黒人差別問題です。それなのに、なぜ私がここまで「女性映画監督」としての成功やハリウッドの男性支配社会について述べてきたかというと、「世界をより良いものに」という強い想いから彼女の映画づくりが始まっていることが明らかだからです。
それは、今作でも変わらないどころか、ますます切れ味が鋭くなっており、時代に逆行するようなトランプ大統領が最高権力者になった今、この映画の重要性はより高まっていると「闘う人」であるビグロー監督が感じていることは間違いないからでもあります。
■実際にアメリカで起きた凄惨な事件「デトロイト暴動」
物語の舞台はタイトル通りデトロイト、1967年に起きたアメリカ史上最大級の「デトロイト暴動」です。デトロイト市警が低所得者層地区にある酒場に対して行った強引な取り締まりをきっかけに、地元住民の黒人たちが不当な扱いに抗議、暴徒化し、大規模な略奪、放火、銃撃などが各地で発生しました。
背景には、人口の40%を黒人が占めていたのに対し、市警の95%が白人だったというアンバランスさがあります。さらに、ある調査によると、市警の警察官のうち45%が黒人に対して強い偏見を持っていた、ということで、白人警察官による黒人住民への捜査の名を借りた暴力や横暴な扱いにより、黒人の間で不満が溜まり、爆発寸前になっていたのです。
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「暴動」は拡大、軍隊が戦車まで投入し荒れ狂う暴徒と衝突する事態に発展します。映画では、無法地帯と化したデトロイトの大混乱をドキュメント映像を交えて圧倒的な迫力で描きつつ、次第に戦場のようなエリアから逃れようとする地元黒人R&Bグループの青年たちが物語の軸になっていきます。
才能豊かで大きな夢を抱いて活動中の「ザ・ドラマティックス」のメンバーは、比較的穏やかなエリアにあるモーテルにチェックイン、若者らしいナイトライフを楽しもうとしていました。滞在客の黒人青年の一人が周辺で警戒中の警察隊らに向けておもちゃの銃を鳴らしたことをきっかけに、銃撃を受けたと勘違いした当局はモーテルを包囲、あっという間に異様な緊張感に包まれ……「銃撃犯」を探そうとモーテルに突入してきた白人警官の尋問は、思うように銃が見つからない苛立ちから常軌を逸した暴力へとエスカレートしていきます。
ビグロー監督の演出は冴えわたり、圧倒的な迫力と臨場感で、観るものをその現場に連れて行きます。まさに追体験、と呼ぶにふさわしいリアリティ溢れる演出で描かれる暴力的な尋問は、正直目を背けたくなる凄惨なものです。それでも、凄まじいパワーとエネルギーを奪われるシーンの連続で、否が応でも物語に引き込まれるのです。この被害者たちは一体どうなるんだろう、と。
50年前の事件現場にタイムスリップしたかのような濃密さと緊張感を持って進むストーリーは、惨劇も描きながら結末へと突き進みます。その果てにあるものはここでは詳述しませんが、最後に描かれる後日談が、傷ついた人間の「祈り」を象徴していると感じて、深く私の心に残りました。
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■ビグロー監督の意外すぎる、でもビッグすぎる元夫
この映画を見ると、迫力満点のアクション映画であろうと、濃厚なサスペンスであろうと、「男性的」であると思われがちなジャンルであっても、映画を監督する上で男女による性差は決定的な要素たり得ないことを再認識させられます。重要なのは、監督の力量である、とビグロー監督はその剛腕で仕上げた本作でも、証明しているのです。
男女の話になったので、ここで、ビグロー監督をめぐる男性について、少しだけ紹介します。実は、ビグロー監督は1989年から2年間だけ結婚生活を送りました。そのお相手は、『タイタニック』でアカデミー賞を独占したほか、映画史上最高のヒット作『アバター』を手掛けた稀代のヒットメイカー、ジェームズ・キャメロン監督です。2010年のアカデミー賞では、ビグロー監督の『ハート・ロッカー』とキャメロン監督の『アバター』がオスカーを争い、ビグロー監督が監督賞や作品賞を受賞したことで、「勝利した」と各国のメディアで報じられ、大きな話題となりました。
現在では離婚しているのですが、夫婦ともにアカデミー賞受賞者、とはそれにしてもすごすぎるカップルですよね……でも、エンターテインメント超大作を極限まで追求するキャメロン監督と、社会性の高いテーマを描く骨太な作風のビグロー監督、その両者の作品性があまりにも違うところからすると、信条や志向するところが合わなかったのかしら、と納得してしまう私ターニャなのでした。……はい、余計なお世話ですね。失礼しました。
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■「007シリーズ」のオファーを断った理由とは
ビグロー監督は、メジャースタジオのソニーピクチャーズから「007シリーズを監督してほしい」とラブコールを送られたこともあります。「ありがたいお話ですが、私は、映画のジャーナリスティックな側面に惹かれるのです」として、エンターテインメント超大作やアクション巨編の監督には関心がないことを明らかにしています。ビグロー監督が描くジェームス・ボンド、ちょっと観てみたい気もしますが……。
では、彼女は実際の出来事を基に社会的テーマを訴えかける映画を通じて、何を達成しようとしているのでしょうか? 今作を作った理由を問われ、次のように答えています。
「この映画によってたとえほんのわずかでも、この国の人種間の分断を埋めるきっかけが作れるなら、やる意味が必ずあると思った。」そう、彼女は、自ら作る映画を通じて、世界を変えようと努力しているのです。だからこそ、キャスリン・ビグロー作品は観るものにこう強く迫って来るのです。
「知れ、知れ、そして語り合い、変化を起こそう」と。
重いです。でも、観た後は、世の中の見方が少し変わることは間違いありません。故に私ターニャは、強くおススメします。『デトロイト』……時には「『ぐふぅ……』的映画体験」いかがですか?
それでは皆さま、心に残る、忘れられない映画体験を☆
■映画情報
映画『デトロイト』
TOHOシネマズ シャンテほか全国絶賛公開中
http://www.longride.jp/detroit/