親のがん、子どもには理解する力がある…支援団体の大沢さん「家族の一員として尊重して」

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2018年02月25日 09:02  弁護士ドットコム

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子育てをしながら、がん治療を行う患者たちの数は少なくない。「国立がん研究センター」による全国初の調査(2015年)では、がんと診断された患者のうち、18歳未満の子どもがいる人は、全国で年間5万6143人、がん患者の子どもは合計で8万7017人にのぼると推定された。同センター中央病院(東京都中央区)に入院するがん患者についても、4人に1人は18歳未満の子どもがいた。


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未成年の子どもを抱えるがん患者が抱える負担は大きい。経済面、仕事、家事や子どもの世話などの物理的な問題はもちろんのこと、子どもの精神的なケアなど、治療以外の不安も尽きない。


自らも乳がんを経験した、医療ソーシャルワーカーの大沢かおりさんは、こうした親と子どもをサポートする試みのため、2008年にサポート団体のNPO法人「Hope Tree」を設立。今年2月、「がんになった親が子どもにしてあげられること」(ポプラ社)を上梓した。大沢さんに話を聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・山口紗貴子)


●「どの選択も間違いではありません」

日ごろは、東京都内の総合病院のがん相談支援センターで患者からの相談を受ける大沢さん。患者からは子どもに関しては「受験前だから言わない方がいいんじゃないか?」「(抗がん剤で)髪の毛が抜けることをどう説明したらいいか」などの相談が多いという。


しかし、告知された患者自身が葛藤を抱える中で、子どもに伝えることには不安感も強いはずだ。


大沢さんは「あせらずに。大切なのは無理をしないこと。どの選択も間違いではありません」と、その患者の気持ちを尊重しながらも、治療を続けるにあたって、子どもに情報を伝えていくことも子どもの立場から考えて大切だと話す。


「子どもは、一方的に守らなければならないだけのか弱い存在ではありません。ひとりの人間、何より家族の一員として尊重してあげてください。親のがんという経験から、子どもたち自身が学び、たくましく育ち、人生を力強く歩んでいきます」


●伝えたい「3つのポイント」

どう伝えるのが良いのか。大切なのは、ごまかさずに事実を伝えることだ。


「子どもは親の様子や生活の変化から大体、察しています。でも親が隠せば、子どもは誰にも聞いてはいけないと思い、不安が大きくなってしまいます」


隠したり、嘘をついたりすれば、子どもの親への信頼を損なう可能性もある。大沢さんは、本の中で、次の3つのポイントについて確実に伝えて欲しいと書いている。


(1)「がん」という病気であること


(2)うつる病気ではないこと


(3)子どもがしたことや、しなかったことによって引き起こされたものではないこと


(「がんになった親が子どもにしてあげられること」P62より)


子どもは親の想像以上に家庭内の変化を理解しており、受け入れる力もある。悩んだ末、子どもに伝えた患者から「心配する必要はなかったです」と笑って報告を受けることは珍しくないそうだ。


●患者だけではなく、子どもたちへのケアも

子どもに伝えていないまま終末期を迎えれば、問題が大きくなってしまうこともある。しかし病院では、患者の病気を看ることはできても、患者の家庭への配慮やケアが行き届いているとは言い難い。医療の現場でも、患者の子どもたちへのケアが重要だと認識されていても、その方法がわからず、後回しになってしまう現実がある。


大沢さんがNPO法人「Hope Tree」を設立したのは「ケアをまったくされない子どもたちが減っていけば」という思いがあってのことだった。「Hope Tree」では、親ががんになった子ども、患者、家族を支援する。医療ソーシャルワーカー、医師、臨床心理士、看護師などが集まり、医療者向けの養成講座のほか、がんになった親をもつ子どものサポートグループ「CLIMB」を運営する。


記事冒頭で紹介した、4人に1人という数字について、大沢さんは「実際にはもっと多いのではないでしょうか」と捉えている。調査の元となったのは「国立がん研究センター中央病院」の入院患者のデータだが、晩産、晩婚の影響が少なく、兄弟の人数も多い地方では、患者、子どもの年齢ともにより若くなるはずだからだ。


がんの専門病院や拠点病院には、大沢さんのような医療ソーシャルワーカーによる相談室が設けられている。「相談室では、家族や子ども、家計のこと、どんな悩みでも相談できます。ひとりで抱え込まずに、不安は何でも打ち明けて欲しい」と呼びかける。


病院内の相談室の存在や、どんな悩みでも相談できる場所であることは、病院によっては患者でも知らない人は多いという。「がんになった親が子どもにしてあげられること」は、そんな相談先のない人や、人に話す余裕がない時には、大きな助けとなる一冊だ。


【取材協力】


大沢 かおり(おおさわ・かおり)


医療ソーシャルワーカー、精神保健福祉士。


2月9日、「がんになった親が子どもにしてあげられること」(ポプラ社)を刊行。


(弁護士ドットコムニュース)


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  • 母が癌になった時、本人や親戚から「ストレスのせい、お前のせい」と責められたのが辛かった。こういう冊子でもあれば少しは違ったのかな。いや、変わらんかな。
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